埼玉医科大学雑誌 第40巻 第2号別頁 (2014年3月) T73-T79頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
埼玉県西部地域がん診療連携拠点病院におけるがん化学療法患者の診療連携状況の解析

中山 博文
臨床医学研究系 臨床腫瘍学

医学博士 甲第1251号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


【背景と目的】
 がんになっても安心して暮らせる社会の構築は,がん対策推進基本計画の全体目標に挙げられるように地域のがん診療において重要な課題である.特に埼玉県は他県よりもがんの罹患者数,死亡数の増加が見込まれており,地域の終末期医療体制を早急に充実させていかなくてはならない.
 多くの国民が希望する終末期における療養の場は自宅療養や緩和ケア病棟であることを踏まえ,本研究は積極的抗癌治療へ耐性となった患者の医療連携の問題点を抽出することを目的とした.また,低い在宅医療への移行率を改善することに着眼しソーシャルワーカーの介入について調査を行った.

【方法】
 腫瘍内科における地域連携の状況を後方視的に検討した.2009年1月から2010年12月までに当科を紹介受診した切除不能または転移性がん患者のうち,化学療法を行った520名を対象とし,電子診療録を用いて地域連携の状況を調査した.

【結果・考察】
 当科受診までの期間は8±2日(平均±標準偏差),治療終了から連携完了までの期間は22±10日と後者が約2.8倍長い状況であった.また当センター内の他科から紹介された例と他の医療施設から紹介された例でも治療終了から連携完了までの期間に差が生じており(当センター内25日対他の医療施設16日),患者の治療背景が原因の一つと考えられた.次いで連携状況には地域間格差と施設間格差が指摘されており,これらの観点から調査を実施した.患者住居から連携先医療機関までの通院距離や緩和医療病床の有無は連携完了までの期間に影響を与える要因とはならなかったが,緩和医療に携わる医師の有無は連携完了までの期間に影響を与える一因であることが明らかとなった(医師有19日対医師無26日 p=0.01).本結果は緩和医療の病床を整えても,緩和医療を行える医師がいなければ連携は機能しないことを意味している.がん腫別に調査した結果では,各がん腫と連携完了までの期間にKruskal-Wallis検定で有意差が認められ(p=0.034),治療に専門性を要する頭頸部腫瘍はWilcoxon検定でも五大がんと比較して有意に連携完了までの期間が長く,改善には緩和ケア技術の向上や臓器横断的な診療の必要性が考えられた.在宅医療は施策上重要な位置づけとされているが, 当科での治療後に在宅で終末期を過ごした患者の割合は約6%(31名)と低く,在宅死の割合は2%強(11名)と低かった.在宅医療に移行したケースの殆どにソーシャルワーカーが介入しており,低い在宅移行率の改善にはソーシャルワーカーの活躍が期待される.

【結論】
 埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科の地域連携において,治療終了から連携完了までの期間が長く,施設間のばらつきが大きいことが明らかとなった.連携期間を短縮するには,緩和医療に携わる医師の増員,特殊性を要するがん腫の治療が可能な医師の育成と臓器横断的診療が重要であること,および著しく低い在宅医療への移行率の改善にはソーシャルワーカーの関わりが重要であることを明らかにした.


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