埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号別頁 (2015年3月) T1-T14頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
卵巣癌TC療法新規投与法(カルボプラチン腹腔内投与/パクリタキセル週一回投与法)
におけるパクリタキセル血中動態と遺伝子多型の関連

岩佐 紀宏
臨床医学研究系 産科婦人科学

医学博士 甲第1253号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


【背景】
 進行期卵巣癌の予後は依然として不良である.そこで,個別化治療の確立を念頭に,パクリタキセル(Paclitaxel, TXL)経静脈週一回投与+カルボプラチン(Carboplatin, CBDCA)腹腔内投与併用療法 (新規TC療法)の臨床第2相試験と併行してゲノム薬理学研究を行った.TXLの経静脈週一回投与では総投与量が増加するため,これまでの3週1回投与法に比べ,血液毒性を代表とする副作用が問題になる.治療効果の予測と併せて,TXLの血中動態を規定するバイオマーカーの策定が求められている.

【方法】
 研究への参加について,患者本人から文書による同意を得た.ゲノム薬理学解析を含む多施設共同臨床研究第U相試験を行い,初回TXL投与時に,TXLの血中濃度の測定をした.さらに治療効果・有害事象関連遺伝子の多型解析を行い,TXL薬物動態パラメーターとの関連を解析した.

【結果】
 GSTM1遺伝子の欠損多型と薬物動態パラメーターAUC(血中濃度曲線下面積),また2種類のABCB1遺伝子多型(2677G>T/A, 1236T>C)と薬物動態パラメーターCmax(最高血中濃度)ならびにMRT(平均滞留時間)に有意な相関が認められた.さらに,GSTM1欠損多型とABCB1 2677G>T/A多型を組み合わせることで,TXLのAUCが有意に高値となる患者集団を選別できる可能性が示唆された.

【結論】
 GSTM1欠損多型ならびにABCB1遺伝子の2677G>T/A遺伝子多型が,新規TC療法におけるTXLの薬物動態と関連することが示された.


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