埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号別頁 (2015年3月) T15-T27頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
血管内皮細胞由来の netrin-4 を介した破骨細胞分化抑制による骨代謝の制御

榎木 祐一郎
臨床医学研究系 口腔外科学

医学博士 甲第1255号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


 骨代謝は様々な器官による内分泌系を介した制御を受けることが知られている.血管は多くの器官に重要な役割を果たしており,骨における血管形成も骨格の発達や骨代謝に不可欠な存在である.しかしながら,骨代謝における血管系の役割は完全に解明されているとは言い難い.血管内皮細胞と骨髄マクロファージ(BMMs)の非接触型共培養にて破骨細胞分化が著明に抑制される現象は知られていたが,これを担う分泌性因子については不明であった.本研究では,血管内皮細胞由来のnetrin(Ntn)-4がBMMsに作用して破骨細胞分化を抑制すること,骨粗鬆症モデルマウスにおいてNtn4投与により骨量が増加することを見出した.血管内皮細胞に強く発現する分泌型netrinであるNtn1およびNtn4の破骨細胞に対する作用を調べたところ,Ntn1は破骨細胞形成を促進し,Ntn4は破骨細胞形成を抑制した.そこで,共存培養においてNtn1あるいはNtn4の中和抗体を添加したところ,Ntn4の中和抗体は破骨細胞形成を有意に促進し,Ntn1の中和抗体は破骨細胞形成に影響を与えなかった.また,共存培養において,破骨細胞のDSCAM受容体発現が上昇しており,DSCAM中和抗体により破骨細胞分化抑制が解除された.さらに,in vivoにおいても,骨に孔をあけて治癒過程を観察した実験で,骨組織におけるPECAM-1陽性細胞である血管内皮細胞を持つ血管様組織は,Ntn4陽性細胞と一致し,Ntn4の発現を認めた.また,骨粗鬆症モデルマウスに対してNtn4を予防的に投与することで,破骨細胞の抑制を介して骨量低下を防止した.これらの結果より,血管内皮細胞由来Ntn4と破骨細胞のDSCAM受容体は少なくとも一部のメカニズムとして,破骨細胞分化を抑制し,骨量の低下を抑制することに関与している可能性が考えられた.


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