埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号別頁 (2015年3月) T73-T88頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
ラットの視床下部内側基底部PTENは摂食とは独立して肝インスリン抵抗性を調節する

住田 崇
臨床医学研究系 内科学 内分泌内科・糖尿病内科

医学博士 甲第1262号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


 PTEN(phosphatase and tensin homolog deleted from chromosome 10)はホスファチジルイノシトール3, 4, 5-三リン酸を脱リン酸化しPI3キナーゼに拮抗する.インスリンは視床下部内側基底部に作用し,摂食抑制や体重増加を抑制するだけではなく,PI3キナーゼの活性化を介して糖代謝を改善する作用もある.そのため,視床下部PTENを抑制することは肥満および糖尿病の治療につながる可能性がある.しかし,視床下部内側基底部のニューロン特異的にPTENを欠損させた研究からは予想とは逆の結果が報告されており,また出生後に視床下部PTENに介入した報告はない.当研究では,視床下部PTENの出生後の修飾が摂食および糖代謝にどのように影響するのかを明らかにするため,ラットの視床下部内側基底部のPTEN活性を外来性ベクターにより変化させた.
 視床下部内側基底部PTENを抑制すると摂食量と体重が減った.一方,同部位で恒常的にPTENを活性化すると逆の結果が得られた.興味深いことに,視床下部内側基底部PTENに介入したときのこの作用は高脂肪食負荷により無くなってしまった.しかし,視床下部内側基底部PTENの抑制をすることで,高脂肪食負荷の条件でも肝インスリン感受性は改善した.他方で,視床下部内側基底部PTENの恒常活性化でインスリン抵抗性が惹起された.視床下部内側基底部PTENの介入により肝Aktリン酸化とG6Pase発現量は双方向に変化した.
 これらの結果は視床下部内側基底部のPTENは摂食や体重増加の作用とは独立して,肝インスリン感受性を調節することを示す.そのため視床下部PTENは過栄養状態の下でもインスリン抵抗性治療の標的として期待できる.


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