埼玉医科大学雑誌 第41巻 第2号別頁 (2015年3月) T89-T96頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
埼玉医科大学国際医療センターにおける精神腫瘍科併診がん患者の精神医学的診断,および診断予測要因の探索研究

多田 幸雄
国際医療センター 精神腫瘍科

医学博士 乙第1264号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)


【背景】
 がん医療における精神心理的な問題の解決は患者のQOLを改善するために欠かせない.精神心理的な問題を抱えた患者の診療は,併診の形で行われるが,併診患者の精神医学的問題に関する研究は少なく,診断を予測する要因の探索は行われていない.がん罹患後に発症もしくは増悪する精神疾患の有無を予測する背景要因が把握できれば,身体科医師に啓発することで,精神科併診につながりやすくなることが期待される.

【方法】
 埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科に紹介されたがん患者の医療記録を,後方視的に調査した.患者の背景と紹介時の依頼項目が,がん罹患後に発症もしくは増悪する精神疾患の有無をどの程度予測できるかについて,多変量解析を用いてデータ分析を行った.第1段階として,各変数ごとに精神疾患の有無との関連を検討し,有意な関連を有する変数があった場合に,第2段階として,それらの変数を投入してロジスティック回帰分析を行うこととした.

【結果】
 研究の期間,765人のがん患者が紹介された.最も多い依頼項目は不安(30%)で,抑うつ(18%),不穏(13%)と続いた.最も多い精神科診断は適応障害(24%)で,せん妄(16%),大うつ病性障害(12%)と続いた.単変量解析では,年齢,設定,PS,原発部位としての乳腺,依頼理由としての不安,不穏の6項目で,精神疾患の有無に有意差が認められた.これら6項目を独立変数として多変量解析を行ったところ,すべての変数が精神疾患の有無と有意に関連しており,予測要因として明らかになった.また,依頼理由と精神疾患との関連を検討したところ,不眠も注意すべき症状である可能性が示唆された.

【結論】
 本研究より,精神科併診がん患者において精神疾患の有無を予測する要因が明らかになり,身体科医師によるスクリーニングにより精神科併診につながる可能性が示唆された.ただし依頼内容と診断が直結するわけではないので,精神医学的な診断には慎重な検討が必要である.


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