埼玉医科大学雑誌 第42巻 第1号別頁 (2015年8月) T21-T32頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
造血器腫瘍に対するフルダラビン/メルファラン/全身放射線照射を前処置とした同種造血幹細胞移植の治療効果

阿南 (根本)  朋恵
臨床医学研究系 内科学 血液内科

医学博士 甲第1277号 平成27年3月27日 (埼玉医科大学)


【背景】
 同種造血幹細胞移植は,造血器腫瘍に対する有力な根治療法である.これまで移植前処置は骨髄破壊的前処置 (myeloablative conditioning: MAC) が用いられてきたが,前処置関連の有害事象により高齢者や合併症の多い患者においては適応が難しかった.このような理由から,前処置を軽減することで副作用を軽くし,移植片対白血病効果を重視した骨髄非破壊的前処置 (non-myeloablative conditioning: NMAC) や強度減弱型前処置 (reduced-intensity conditioning: RIC) を用いた移植が行われるようになってきた.

【方法】
 通常のMACによる前処置が難しい難治性骨髄性腫瘍15症例に対して,フルダラビン (FLU) ,メルファラン (MEL) ,全身放射線照射 (TBI) によるRICを前処置とした移植を行い,従来のMACによる移植を行った23症例と安全性,有効性を比較検討した.

【結果】
 1対象症例38例中,15例がRIC,23例がMACを前処置として移植を行った.全症例のRIC群の2年全生存率 (Overall survival: OS) は42.3%,MAC群43.5%,無イベント生存率 (Event free survival: EFS) はRIC群36.7%,MAC群39.1%であった.生着はRIC群全症例で認められ,治療関連毒性はRIC群に比較してMAC群の方が多く認められた.単変量および多変量解析においてOS,EFSともにRIC群とMAC群の間に有意差は認められなかったが,移植時のPSや寛解の有無に関しては有意差が認められた.

【結論】
 FLU-MEL-TBI (4 Gy) を前処置とした造血幹細胞移植の高齢者または臓器障害を有する骨髄性造血器腫瘍での有効性が認められた.移植時の寛解の有無が予後に関与していると考えられ,今後はOSおよびEFSの改善を目指した至適なレジメンの検討が望まれる.


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