埼玉医科大学雑誌 第42巻 第1号別頁 (2015年8月)T33-T44頁 ◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています.

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Thesis
新規尿中マーカーによるループス腎炎の組織所見の予測

井熊 大輔
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学

医学博士 甲第1279号 平成27年3月27日 (埼玉医科大学)


【目的】
 ループス腎炎 (LN) は全身性エリテマトーデス (SLE) に合併する腎炎である.LNは組織型によって予後が異なるため,腎生検による組織診断と治療方針の決定が推奨されている.しかし,腎生検は侵襲的であり禁忌となる症例も少なくない.近年podocyte (Pod) ,podocalyxin (PCX) ,megalinが尿中で検出できるようになり,腎炎や腎症のマーカーとして注目されている.PodとPCXは糸球体細胞由来,megalinは尿細管細胞由来であり,これらのような部位特異性のある細胞と分子がある特定の組織学的病変を反映する非侵襲的なマーカーとなるのではないかという仮説を立てた.尿中Podマーカー [尿中Pod数/尿クレアチニン濃度比 (U-Pod/Cr) と尿中PCX濃度/尿クレアチニン濃度比 (U-PCX/Cr) ] と尿中megalinマーカー [尿中A-megalin濃度/尿クレアチニン濃度比 (A-meg/Cr) と尿中C-megalin濃度/尿クレアチニン濃度比 (C-meg/Cr) ] によってLNの組織所見が予測可能か尿検体を用いて検討した.

【方法】
 対象はSLE患者65名.臨床的にLNと診断されない者または完全寛解状態のLN患者25名をLN (-) 群とし,臨床的に初発または再燃が疑われ腎生検によってLNと診断した40名をLN (+) 群とした.U-Pod/Crは間接蛍光抗体法でPCX陽性細胞をカウントし,U-PCX/Cr,A-meg/Cr,C-meg/Crはsandwich ELISA法にて測定した.全ての検体は尿中クレアチニン濃度補正を行った.腎組織評価は盲検的に行い,糸球体病変に関してInternational Society of Nephrology/Renal Pathology Society (ISN/RPS) 2003 分類に従い分類し,活動性および慢性病変に関してはAustinらの報告に従い所見をスコア化した.

【結果】
 U-Pod/Cr,U-PCX/Cr,C-meg/CrはLN (+) 群で有意に高値であった (P <0.0001, P <0.0001, P =0.0003) .Class IVのU-Pod/Crはclass Vと比較して有意に高値であり (P <0.05) ,class VのU-PCX/Crはclass IIIと比較して有意に高値であった (P <0.05) .U-Pod/Crは組織学的なactivity indexと中等度の相関があった (r =0.4704, P =0.0029) .U-Pod/Crと関連がある組織学的病変はcellular crescents (CC) であった (P <0.0001) .U-PCX/Cr,A-meg/Cr,C-meg/Crと関連のある組織学的病変はなかった.U-Pod/CrでCCの存在を予測する場合のreceiver operating characteristic (ROC) analysisでのarea under the curve (AUC) は0.72270であった (P =0.01964) .カットオフ値を2.785cells/mgCrより大とした時の感度は47.06%, 特異度は85.71%であった.血清クレアチニン値,推定糸球体濾過量 (eGFR) ,尿中蛋白/尿クレアチニン濃度比 (uPCR) ではCCの存在を予測できなかった.

【結論】
 U-Pod/Cr, U-PCX/Cr, C-meg/CrはLN (+) 群で有意に高値を示した.U-Pod/Crは組織学的activity indexと相関し,CCの存在予測に有用であった.


(C) 2015 The Medical Society of Saitama Medical University