埼玉医科大学雑誌 第48巻 第1号 (令和3年8月) 18-22頁◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています

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原 著
最重症型重症心身障害児における血清β2 ミクログロブリンを用いた
推算糸球体濾過量の検討

飛田和 えりか,荒尾 正人,秋岡 祐子
埼玉医科大学病院 小児科

〔令和2年10月14日受付/令和3年2月16日受理〕

 小児のGFR 推算値(eGFR)算出には,血清クレアチニン(sCr)と身長を用いた男女別のGFR 推算式が頻用されている.ただし,筋肉量が極端に少ない重症心身障害児のeGFR はsCysC で算出することが推奨されている.またその後に作成されたsβ2MG eGFR も筋肉量が少ない患者に適用しうるとされているが,sCysC eGFR とsβ2MG eGFR の整合性は検討されていない.本研究の目的は重症心身障害児におけるsβ2MG を用いた推算式の有用性を明らかにすることである.
 【方法】埼玉医科大学病院小児科で在宅医療管理を行っている15 歳未満の大島分類1 に該当する重症心身障害児12 例を対象とした.非感染時の定期受診時におけるsCr,sCysC,sβ2MG 値から算出したeGFR を比較検討した.
【結果】対象年齢は中央値3.7 歳,身長は中央値−3.7 SD,体重は中央値 11.8 kg であった.各eGFR の中央値は,sCreGFR 113.1,sCysC eGFR 117.6,sβ2MG eGFR 81.9 ml/min/1.73 m2 であった.sCysC eGFR とsβ2MG eGFR の間には,強い正の相関が認められ(r=0.9091, p<0.0001),sβ2MG eGFR は対応するsCysC eGFR よりも全例において有意に低値だった(p<0.0001).sβ2MG が上昇しsβ2MG eGFR が低下する要因として,潜在する炎症性疾患が関与する可能性について検討し,非発熱時で感染徴候がないにもかかわらず7 例(70%)にCRP の上昇を認めたことから,体温や血液検査では現れない慢性炎症がsβ2MG の上昇に少なからず影響している可能性が考えられた.
 【結論】大島分類1 の重症心身障害児では,sβ2MG eGFR はsCysC eGFR より低値であった.sCysC とsβ2MG に影響を及ぼす各因子を十分に検討し腎機能を評価する必要がある.

J Saitama Medical University 2021; 48(1): 18- 22
(Received October 14, 2020/Accepted February 16, 2021)

Keywords: severe motor and intellectual disabilities, serum beta-2 microglobulin, serum cystatin C, serum creatinine,estimated glomerular filtration rate


(C) 2021 The Medical Society of Saitama Medical University