埼玉医科大学雑誌 第48巻 第1号 (令和3年8月) 23-28頁◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています

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原 著
MRI 検査時のチアミラールによる鎮静の効果と安全性

野々宮 瑞紀1),植田 穣1),秋岡 祐子1),徳山 研一1),山内 秀雄1,2)*

1)埼玉医科大学病院 小児科
2)埼玉医科大学病院 てんかんセンター

〔令和3年2月9日受付/令和3年5月28日受理〕

【背景】MRI 検査は小児の診療に有益な情報をもたらす画像検査法であるが,良質な画像を得るためには体動の抑制のため鎮静が必要な場合が多い.しかし鎮静剤使用においては呼吸抑制などの合併症が報告され,小児の鎮静下MRI 検査は十分な安全管理下で施行する必要がある.本研究の目的はMRI 検査時の鎮静をチアミラール投与によって行った場合の有効性と安全性を後方視的に検討することによって,安全に小児のMRI 検査時の鎮静を実施する際の一知見を得ることである.
【方法】対象は2017年1月〜12月に鎮静によるMRI検査目的に当科に入院した患者を,診療録を用いて後方視的に検討した.検討項目は,年齢,性別,鎮静の理由,チアミラール総投与量,合併症,MRI 画像の質とし,鎮静に伴う合併症の有無から対象を2 群に分類し,合併症発症にかかわる因子を検討した.検査施行中の呼吸状態は,パルスオキシメーターによる経皮的酸素飽和度を指標とした.
【結果】対象は57例であった.対象の平均年齢は平均2歳10か月,男児31例(54.4%),女児26例(45.6%)であった.疾患領域の内訳は中枢神経疾患が35 例(61.4%)で最も多かった.鎮静時の平均チアミラール総投与量は4.3 ± 2.1 mg/kg,平均検査時間は33.9 ± 10.8分間であった.MRI 画像の質の評価は,全例体動の影響がない画像と判定した.鎮静に伴う合併症は呼吸抑制を4例(7.0%)に認めた.呼吸抑制あり群,呼吸抑制なし群に分類し2群の比較を行った結果,呼吸抑制あり群ではチアミラール総投与量が有意に高かった(p=0.0098).また,チアミラール総投与量が 5 mg/kg 以上となった症例は15例あり,このうち2例に呼吸抑制を認めた.5mg/kg 未満であった症例は42例であり,2例に呼吸抑制がみられた.チアミラール総投与量 5mg/kg 以上を投与した場合,5mg/kg 未満の場合よりも呼吸抑制出現が統計的に有意に多いことが示された(p=0.023).呼吸抑制は酸素投与を必要としたが,時間経過とともに改善し,重大な合併症には至らなかった.検査時間は,呼吸抑制あり群が呼吸抑制なし群に比べて有意に長かった(p=0.0078).
【結論】MRI検査時の鎮静において,チアミラール総投与量が 5mg/kg 以上では呼吸抑制を来たす可能性が高い.より安全に検査を行うためにはその投与量に留意することが重要である.

J Saitama Medical University 2021; 48(1): 23 -28
(Received February 9, 2021/Accepted May 28, 2021)

Keywords: MRI, thiamylal, sedation, respiratory depression


(C) 2021 The Medical Society of Saitama Medical University