急性腹症(acute abdomen)

急性腹症(acute abdomen)とは外科領域で広く用いられている表現です。

一般的には急激な腹痛を主訴とし、その原因が腹部の諸臓器、組織の病的変化によるものと推測されるもので確定診断に至らないが急性の経過をとるため、緊急開腹手術の適応か否かの迅速な判断が要求される疾患群にとりあえず用いられる総称です。

かつては術前診断の精度が低くこの用語が汎用されていました。現在は診断機器の開発に伴う診断技術(特に画像診断)の進歩により、確実な診断に基づいた合理的治療が行われるようになってきました。

急性腹症の治療においては、時間的経過とともに症状の重篤化が予想されるため、

@ 直ちに緊急手術を行う必要があるのか
A 保存的療法を行いながら経過観察し手術適応を判断することが可能か
B 本来手術治療が禁忌と考えられる疾患か

という点について正しい判断を下すことが必要です。

<急性腹症の手術適応>

表1

緊急手術
待機手術/保存的療法
保存的療法(その他)
【汎発性腹膜炎】 【限局性腹膜炎】 【非腹腔臓器疾患】
消化管破裂・穿孔
壊死型虚血性腸炎
虫垂穿孔
胆嚢穿孔  など
被覆性消化管穿孔
など
胸部:肺梗塞、肺炎、胸膜炎、気胸
循環器:急性心筋梗塞、心膜炎
尿路:尿路結石、腎盂腎炎 など
【重症臓器炎】 【中等度臓器炎】 【腹部疾患】
急性虫垂炎
急性胆嚢炎
急性膵炎 など
急性虫垂炎
急性胆嚢炎
急性膵炎 など
急性胃腸炎、消化性潰瘍、大腸憩室
炎、虚血性腸炎、骨盤腹膜炎など
【血行障害】 【その他】 【その他】
絞扼性イレウス
腸間膜血管閉塞
結腸軸捻転
ヘルニア嵌頓
腸重積 など
単純性イレウス
胆石症
など
帯状疱疹、Schon-lein-henoch紫斑
病、急性鉛中毒、急性ポルフィリン症
など
【大量出血】    
大動脈破裂
子宮外妊娠破裂 など
   

最近の診断治療技術の向上に伴い従来の手術適応基準の枠は狭まりつつありますが、1)消化管穿孔による汎発性腹膜炎、2)急性臓器炎の重症例、3)血行障害による消化管壊死、4)腹腔内大量出血などは緊急手術の絶対的適応です。

【急性虫垂炎】

消化管・一般外科において代表的な疾患です。当科において2008年度では、79例の手術例があります。

虫垂は盲腸の内側端に付属する細長い小指大の管腔臓器で、この化膿性炎症が虫垂炎です。原因はなんらかの原因による虫垂内腔の閉塞と腸内細菌による二次感染によると考えられています。すべての年齢層に起こりますが、10〜20歳代に最も多く、乳幼児および老年者でも時に見られます。男女比は15〜25歳の間では2:1ですが、その後は男女とも同程度になります。わが国では、急性虫垂炎を1)単純性またはカタル性虫垂炎、2)化膿性虫垂炎、3)壊疽性虫垂炎に分類しています。

典型的自覚的症状としては、食欲不振、嘔気、嘔吐、心窩部痛より右下腹部、軽度の発熱などがあります。食欲不振に次いで腹痛が出現し、その際軽度の嘔気を伴います。多くの場合、腹痛は心窩部に始まり次第に右下腹部に限局してきます。しかしながら、右下腹部痛で始まるもの、腹部全体に疼痛を訴えられるもの、臍付近・下腹部に感じるもの、稀に左下腹部痛を訴えるものなどもあります。

【腸閉塞(イレウス)】

腸管内容の肛門側への輸送が何らかの原因により障害されることによって生ずる病態をいいます。

<イレウスの成因別分類>

T. 機械的イレウス
  1.閉塞性イレウス=単純性イレウス
 1)腫瘍、瘢痕、狭窄、先天的奇形など
 2)腹膜癒着、腹腔内腫瘍など
 3)異物による内腔閉塞
  2. 絞扼性イレウス
 1)癒着による索状物、先天性索状物
 2)腸軸捻転
 3)結節形成:腸管が紐を結んだように結節状になる
 4)腸重積
 5)ヘルニア嵌頓
U. 機能的イレウス
  1.麻痺性イレウス
2.痙攣性イレウス

閉塞性(単純)イレウスは、イレウス管挿入と補液療法の保存的療法で軽快することが多いですが、改善しない場合は外科的手術を要します。
 絞扼性イレウスは、腸管および腸間膜の絞扼により腸管壁の血行障害を起こす型のものです。発症は急激で激烈な疼痛があり、ショック症状を呈し、全身状態は急速に悪化します。腸管は壊死に陥り腹腔内には腸管壁により露出した血性浸出物が貯留します。外科的処置を要します。
当科において2008年度では、11例の手術例があります。