大腸がん

■はじめに

最近の20数年間、わが国における大腸がんの増加は顕著であり、わが国における2008年がん統計では、がん死亡数を臓器別に見ると、大腸がんは男性では肺、胃、肝臓について第4位(11%)、女性では第1位(14%)であります。

しかし、大腸がんは早期に発見できれば、内視鏡的切除や外科手術により完全に治すことが可能です。したがって、症状が出現する前に便潜血反応によるスクリーニングによって早期発見に努めることが重要であります。

大腸がんは大腸の粘膜から発生し、次第に深くに進展し粘膜下層、筋層、漿膜、漿膜外に達し、それにしたがい転移をしやすくなっていきます。転移部位は肝臓、肺、リンパ節、腹膜であり、がんの深さと転移状況で進行度が決まります。そのため、治療前には大腸内視鏡検査、注腸透視検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET-CT検査などの検査などをおこない、進行度を予測し、治療方針の決定の一助としています。また、個々の年齢、全身状態を考慮し最終的な治療方針を決定します。

当科では、患者への手術における負担を軽減することを目指して、手術によるキズの長さが通常の手術より短い小切開による手術や、腹腔鏡補助下に行う手術を導入してきました。また、大腸がんの中でも直腸がんの治療には患者の生活の質(QOL)を保つために、さまざまな工夫をおこない、人工肛門を造設することのない手術をおこなってきました。手術で治癒切除できた場合でも、術後補助化学療法、免疫療法等が必要と考えられる場合、十分な説明のもとおこなっております。

また、進行癌であっても手術可能な時期であれば、肝臓や肺へ転移していても、外科療法により完全に治癒が望める場合は、積極的に肝切除、肺切除(呼吸器外科に手術を依頼)を行っております。また、肺、肝臓、リンパ節や腹膜などに切除困難な転移を生じた場合は、手術だけでなく、化学療法や放射線療法をおこなっております。

以下に各々の治療法について説明します。

大腸癌取扱い規約 stage

■治療

当科における大腸がんの診療はおおむね大腸癌治療ガイドライン(大腸癌研究会編、2009年度版)に準拠しています。

@内視鏡治療

粘膜内にがんの増殖がとどまる場合(stage 0)、大部分は内視鏡治療で治癒します。わずかに粘膜より深い(粘膜下層の浅い層にとどまる場合)場合も粘膜内がんに準じた治療を行います。内視鏡治療をおこなった後、病理検査において、内視鏡治療前の診断より、深いところまでがんが増殖していたり、周囲のリンパ管、静脈管にがん細胞が認められたり、がんの分化度(がん細胞の顔つき)が悪い場合は、追加の手術が必要となってくることもあります。

A手術治療

内視鏡治療が困難な場合や、粘膜下よりある程度深く増殖するがん (stage I、 II、 III)に対する治療は、病巣を含む大腸の切除と周囲のリンパ節を取り除く(リンパ節郭清といいます)手術が必要となります。近年大腸がんの治療に腹腔鏡補助下手術が行われていることが多くなっています。腹腔鏡手術は通常炭酸ガスでおなかを膨らませ、鉗子を細い管を通して操作することで、従来の開腹手術と同等の手術を行うものです。この手術でも最終的には5-6 cmの腹部の切開が必要です(病変を取り出したり、腸同士の吻合のため)。当科では6-7cmの腹部小切開をおき、従来の開腹術と同様の手術を行ってきました。この小切開手術は結腸癌には大変適した方法で、腹腔鏡手術に勝るとも劣らない成績を国内外に報告してきました。ただし、病変が直腸に近いところ、結腸の曲がり角にある場合、肥満気味の患者さんには困難な場合があります。この場合には腹腔鏡手術が適しており、患者さんに十分説明させて頂いてから、術式を決定しています。個々の病態にあわせて適格と考える手術法を提示し、最終的手術法を決めております。

小切開写真

B直腸がんに対する手術治療

近年肛門に近い下部直腸がんに対しては、永久的な人工肛門を回避する超低位前方切除術(内括約筋切除を伴う)が普及してきました。術前に放射線治療を併用することもありますが、かなり肛門に近いがんに対しても肛門を温存することが出来るようになりました。このような術式は一般には研究段階ではありますが、数年前から当科でも積極的に取り組んでいます。局所の再発率はきわめて低く、肛門を残しても安全な術式と考えています。直腸がんの手術では、直腸の周囲に多くの自律神経があることから、術後に排尿・性機能障害(男性の場合、勃起・射精障害)が起きることがあります。術前の画像診断を詳細に行い、可能であればこれらに関連する神経を十分残す手術を専門医が心がけて行っています(全自律神経温存術)。

ISRシェーマ

C術後の抗がん剤治療

手術のあとに抗がん剤、免疫抑制剤を使用することにより、再発を少なくすることが研究されています。がんの進行度によって抗がん剤、免疫抑制剤を使用したほうが、再発の危険性が低下すると考えられる場合、再発予防の目的で使用します(術後補助化学療法といいます)。

DStageIV、再発に対する治療

肝、肺、腹膜などに転移がみられる患者さん(stage IVまたは再発)の治療も飛躍的に向上しています。切除可能な肝転移は積極的に切除しています。肺転移は呼吸器外科に手術を依頼しています。手術以外の治療が望ましいと考えられる患者さんでは薬物治療(抗がん剤)の治療が第1選択です。近年の欧米の信頼されるデータでは、オキサリプラチン、イリノテカン、5-FU+ロイコボリンの3種類の治療法(点滴)、さらに分子標的薬である、ベバシズマブ、セツキシマブを組み合わせて行うことが最も予後改善効果がみられることが明らかになってきました。わが国でも2005年春から、オキサリプラチンが保険適応となったため、いわゆる世界の標準治療を患者さんに提供できるようになりました。ただし、副作用、医療費、通院・入院などの問題もあり、個々の患者さんにこれらの事柄について十分な説明をさせて頂き、他の薬剤での治療法を含めて提示した上で治療方針を決定しています。