胃がん

■はじめに

胃がんは胃の粘膜から発生し、次第に深くに進展し粘膜下層、筋層、漿膜、漿膜外に達し、それに伴い転移をしやすくなります。転移部位はリンパ節、肝、腹膜などが多く、深さと転移状況で進行度を決めています。そのため、治療前には胃カメラ、胃透視、超音波内視鏡、CT、腹部超音波などの検査を行ないます。また、年齢、全身状態を考慮し最終的に治療法を決定します。

当科の方針としては転移のほとんどない早期がんに対しては内視鏡的治療を行い、それ以外の早期がんに対しては、低侵襲である小切開手術や、腹腔鏡補助下手術を積極的に取り入れています。進行胃がんは開腹による胃切除を原則としていますが、術前術後抗がん剤治療を含めた集学的治療を行い、成績向上に努めています。

また、腹膜転移が疑われる胃がんに対しては腹腔鏡を用い、術前診断を正確に行い適切な治療を行えるようにしております。切除不能・再発胃がんの治療は抗がん剤が中心となりますが、症状緩和のための手術、放射線治療も併用し、生活の質の維持も考慮に入れております。さらに、術後補助化学療法、免疫療法等の臨床試験も積極的に行い医療の向上を目指しています。以下に各々の治療法について説明します。

図1 胃がんの進展と深さ
図2 胃がんの3大転移形式(リンパ節、肝、腹膜)
図3 胃がんの進行度 胃がん治療ガイドラインより引用

■治療

@内視鏡治療

早期がんの一部は内視鏡で治療できます。内視鏡的粘膜下層剥離術という方法です。生理的食塩水を内視鏡を通して粘膜の下に注入し、がんを浮き上がったところを高周波電流を用いた電気メスで切除します。この方法は胃が残るというメリットがありますが、深達度の深いがんやリンパ節転移の可能性があるがんでは適応がありません。

ガイドラインによると組織型(がん細胞の顔つき)は高分化型(胃の腺管構造を保つもの)で、大きさが2cm以下、形は問いませんが陥凹したものでは潰瘍のないものとなっています(現在適応の拡大が検討されています)。適応から外れる場合でも、高齢の方や、手術のリスクが高い方には選択の一つとなると思われます。逆に治療前は適応であっても切除し回収した病巣を顕微鏡で調べ、その結果、がんが残っていたり、リンパ節転移の可能性があれば手術をおこないます。

A手術治療

内視鏡的な治療の適応でない場合、手術がもっとも有効な治療法です。もっとも標準的なのは、胃を一定範囲のリンパ節を含め切除(リンパ節郭清といいます)するものです。胃を全部切除するか残すかは胃がんの進行度よりも、腫瘍のできた場所によります。定型手術より切除範囲を小さくしたり、リンパ節郭清の程度を控えたりしたものを縮小手術といい、早期がんに行われます。縮小手術とは逆に、切除範囲をひろげ胃だけではなく、脾臓、膵臓、大腸、肝臓など周囲の臓器を同時に切除したり、リンパ節郭清の範囲を広げたりしたものを拡大手術と言います。これは、進行したがんに対し行なわれますが手術時間、術中出血も多くなります。そのため体に対する負担も大きく、術後の合併症の頻度も高くなります。以前は、拡大手術が積極的におこなわれていた時代もありましたが、手術によるリスクに見合う治療効果があるかどうかは疑問であり、適応は限られます。

また、これまでは治療を目的とした手術を述べましたが、胃がんの手術には緩和手術といって食事が取れない、がんからの出血をコントロールするなど症状を軽減する目的で手術する場合もあります。

図3 手術の切除範囲 左 幽門側胃切除 右 胃全摘術切除範囲はがんの部位、進行度によって決定します。

*腹腔鏡下手術

お腹に小さな孔を開けカメラを挿入してモニターを見ながら器具を用いて胃を切除する方法です。
開腹手術に比べ傷が小さく、患者さんの体の負担が少ないとされています。最近導入する施設が増加しており保険適応も認められています。当科では侵襲の少ない胃切除として小切開による胃切除や内視鏡外科学会技術認定の資格を有した医師を中心に腹腔鏡補助下の胃切除を導入し良好な成績を収めています。

図4 腹腔鏡手術のイメージ  

B化学療法

化学療法とは抗がん剤を使ってがんの治療をする方法です。この治療は主に手術でがんを取り切れないと判断された方や、術後に再発してしまった方に用いられます。胃がんに対する化学療法は確かに進歩していますが、まだ治せる段階ではなく、状態の良い生活を長く伸ばすことを期待して行なうもので、残念ながら完全にがんが無くなり治癒することは稀です。しかし、化学療法をおこなえば何もしないでいるよりも延命効果が期待できますし、驚くほど抗がん剤が効いて腫瘍がほとんどなくなり長期生存が可能な場合もあります。

抗がん剤にはいろいろな種類があり、場合によっては複数の抗がん剤を併せて使用します。胃がんに用いられる抗癌剤には経口薬ではTS1(ティーエスワン)、注射薬では5-FU、シスプラチン、CPT-11、タキソール、タキソテールなどがあります。副作用としては発疹、吐き気、食欲不振、下痢、造血機能の低下、肺炎、腎機能低下などがあります。現在のところTS1とシスプラチンを組み合わせた治療が最も効果的とされていますが、効果、副作用については個人差もあり、他の治療法を行う場合もあります。また、新しい抗がん剤治療は、臨床試験として安全性と有効性を十分調べながら行われています。

* 術前・術後の抗がん剤治療

術前に抗がん剤を使用することにより予後を改善し、術後に使用することにより再発を少なくすることが期待され研究されています。特に術後の抗がん剤に関しては最近、がんの進行度によってはその有用性が確認されており、手術は施行したものの進行度が高く再発の危険が多いと考えられる場合に、抗がん剤を再発予防の目的で使用します(術後補助化学療法といいます)。

C放射線療法、免疫療法、遺伝子療法

安全性や効果についてはまだ検証中であり胃がんの治療法としては確立していませんが、その有用性が期待されており、今後の研究により臨床応用されてくると思われます。

■治療中または治療後の注意

胃がんで手術を受けた方は胃がない、あるいは不十分な状態ですので、色々な注意が必要になってきます。胃の働きは主に食物の貯留、撹拌であり、アルコールとある種の薬物の吸収がなされますが、栄養素の吸収はほとんどありません。したがって胃がなくなった場合は栄養吸収を助ける撹拌機能は良く噛んで食事をとるということで補います。貯留機能も失われるので一回の食事量が減り栄養障害が生じ易いので、良質の高タンパク、高カロリー食を少しずつ回数を増やして食べることが重要です。

栄養障害とともに胃切除後の代表的な後遺症は、ダンピング症候群です。胃の内容の貯留ができないことに伴う食後の困難症で、食後三十分以内に起こる早期ダンピング症候群は冷や汗、どうき、めまい、頭痛、胸苦しさなどの全身症状と腹部症状(腹鳴、腹痛、下痢)からなり、食事を少量、数多くゆっくりとることによって軽減されます。食後2、3時間で起こるのが晩期ダンピング症候群で、胃がないため急速に食べた物が消化吸収の行われる小腸へ達し、栄養素の吸収が起こり、インスリンの過剰分泌に伴う低血糖が原因の症候群です。全身倦怠、脱力感、無欲状態、めまいなどが主なもので、治療は早期のものと同様です。これらのほかに貧血、骨障害も胃切除後に起こりやすい合併症です。前者は鉄、ビタミンB12の欠乏で起こり、特に胃全摘術後の人は、ビタミンB12を注射で年2−4回補充する必要があります。後者はカルシウム、ビタミンDの欠乏によって起きます。女性では更年期を過ぎるとホルモンの関係で骨粗しょう症になりやすいので注意してください。

通院はがんの進行度によって異なります。進行癌であれば再発のチェックの頻度が多くなり、術後抗がん剤を使用している場合には最低でも1か月に1度の通院は必要です。早期がんであれば再発の可能性は低く半年に1度の診察となります。また、残った胃にまたあらたに胃がんができること(残胃がん)もあるので定期的な胃の内視鏡検査も大事です。

職場への復帰は、回復の程度には個人差があるのでいちがいには言えません。一般的に、術後1ヶ月程度で日常的な生活は普通にできるので、通常の仕事であれば1−2ヶ月で可能と思います。最終的には、仕事内容や経口摂取、体力の回復具合をみて主治医と相談の上決めることになります。