髄膜腫

髄膜腫は良性脳腫瘍の中ではもっとも多い腫瘍のタイプですが、発生する部位によって、

などの症状を出してきます。

たしかにほとんどの髄膜腫は良性ではありますが、 「髄膜腫がある」といわれた方にとっては気持ちが落ち着かずさまざまな情報をもっと知りたいとお考えになることでしょう。

最近では軽い頭部外傷における画像検査や脳ドックなどをきっかけとして受けた脳のMRIやCT検査で、この髄膜腫が偶然見つかるということが増えてきています。こうした髄膜腫を本当に治療する必要があるのかは、いわゆる髄膜腫の「自然歴」の理解が必要です。もっとも避けなくてはいけないのは、治療しなくてもよいような腫瘍を治療したり、そのために合併症が生じたりすることです。したがって、最新の知識に基づいて正しく患者さんに説明を行い、ともに治療方針を考えていく姿勢が大切であると考えています。

髄膜腫は、脳を包む硬膜という膜から発生し脳や神経、血管を押すように大きくなってくることが多く、治療を進める上では「硬膜のどの部位から腫瘍が発生してきたのか」ということが非常に重要になります。手術で全摘出できれば、その後の再発の危険性は非常に低いものとなります。しかし、重要な血管や神経とくっついてはがしにくい場合には、その部分だけ残すこともしばしばあります。その理由は、髄膜腫はそもそもほとんどが良性腫瘍であるわけで、もっとも重要なことは「患者さんの症状を良くすること、そして、症状が軽かったりあるいは症状のない患者さんには、今と変わらない生活を送っていただけること」、が大切だからです。このことは、われわれの施設においても最も大切な治療方針と考えています。

そのためには、手術だけではなく術後に放射線治療を併用して、患者さんの生活の質を落とさないような治療を行うこともあります。当院でも、こうしたさまざまな方法による治療が可能となっています。以下に、簡単ではありますが腫瘍の発生部位別に髄膜腫の手術治療に関してご説明します。

  1. 脳表の髄膜腫

    医学的な用語でいいますと、「円蓋部髄膜腫」「傍矢状洞部髄膜腫」「大脳鎌髄膜腫」などがこれに当たります。脳表に近いため、通常は安全な手術摘出が可能ですが、腫瘍が大きい場合には、周りの脳への圧迫が強く起こったり、あるいは周辺に走る静脈とくっついてきたりします。全摘出できる可能性の高い腫瘍ですが、大きな腫瘍では術後に手足の麻痺やしびれ、記銘力障害、失語などの合併症が生じることもあり、そのリスクを十分に下げる手術が大切です。



  2. 前頭蓋底髄膜腫(前床突起、嗅窩部、蝶形骨平面、鞍結節部、蝶形骨縁、眼窩周辺)

    脳の中でも真ん中から前の方の脳の下部にできる腫瘍です。これらは前頭葉を圧迫して、性格の変化ややる気などの活気の低下を起こしたり、ものを見るために必要な視神経や、においがわかる嗅神経などの障害を引き起こします。また内頚動脈などの太い動脈にも接していることが多いので、十分に注意が必要です。当科では、特に視神経管と呼ばれる視神経の通る骨の中のトンネル内の中へ腫瘍が進行する点に着目しており、従来は必ずしも十分な注意が払われていなかったこの部位の腫瘍も摘出することにより、術後の視神経障害からの回復を最大として、さらに再発の危険性を最小にする治療を心がけております。

  3. 後頭蓋窩、頭蓋底髄膜腫(錐体骨、錐体斜台部、大孔部)

    脳の下半分に位置する、脳幹や小脳の主に前部に存在する腫瘍です。この部位の腫瘍は、眼を動かしたりする神経、顔を動かす神経、耳の聞こえの神経、そして飲み込みや発声に関係する神経などの重要な神経とくっついています。また脳底動脈あるいは椎骨動脈というたいへん重要な動脈とも接していることがあります。手術治療が非常に難しい場所にできる髄膜腫であるといえますが、当科では豊富な経験を元に、患者さんの生活が第一に大切である、ということを目標にした治療を行っています。もちろん摘出困難な部位であっても、できるだけ腫瘍を摘出したほうが腫瘍の再発リスクを下げることができますので、最大の努力をして高い摘出率を目指します。しかし一方で、放射線治療も発達した現代外科においては腫瘍を全摘出することが最大の目的なのではなく、利用できる手段をいろいろと駆使して腫瘍によって患者さんの生活の質が下がることを防ぎ、長期にわたって患者さんの人生や生活のマネージメントのお手伝いをする、という方針が、頭蓋底外科が目指す新しい目標であると考えています。


  4. その他(脳室内、頭蓋外、脊椎)

    比較的稀で、難易度が高い腫瘍です。重要な血管や神経との関連が問題となります。手術に際しては、ナビゲーションシステムを用いて場所を正確に確認しながら行うことが望ましく、当科でも最新のナビゲーションシステムを利用した手術が可能となっています。

まずは不安を少しでも解消していただくために、当科では、髄膜腫と診断され治療法を詳しくお知りになりたい方向けの「髄膜腫外来」を設けています(毎週月・火曜日)。髄膜腫に関しては、ここ数年でさまざまな新しい知見が報告されてきております。たとえば、部位別に腫瘍増大の速度が違う可能性が指摘されごく最近ではそれを裏付ける遺伝子上の相違なども報告されてきています。また治療に関しても、部位別にさまざまな手術アプローチや脳神経モニタリング法に精通する必要があり、新たな手術法の開発も行われています。特に重要なのは、無症状あるいは症状が軽い段階で見つかる場合も多いため、治療すべきかどうかをどう判断するか、です。この治療適応の決定はときに非常に難しく、髄膜腫に対する深い臨床経験と髄膜腫の生物学的特徴に基づいた専門的知識が要求される作業です。無症候のうちは治療する必要がないという考え方もあり、当科でも症状がない場合は原則的に経過観察とする場合がほとんどです。無症候性髄膜腫の治療適応については脳腫瘍を専門とする外科医の間でも意見の分かれるところですが、当科の原則的な基準は、
 ① 30才以下など非常に若い
 ② 画像上、髄膜腫以外の腫瘍である可能性がある
 ③ 周囲に高度な脳浮腫がある
 ④ 経過観察中に増大した場合、増大のしかたによっては摘出率が下がる可能性がある
としています。これらに当てはまる方は決して多くありません。

髄膜腫外来では、髄膜腫に関するわかりやすい説明を心がけております。受診希望の方は、月曜日・火曜日の外来へお越しください。予約は不要です。時間のある場合には、これら以外でも診察いたします。
soichi@saitama-med.ac.jpまでメールをお送りください。

〇髄膜腫に関する当科の取り組み(論文・学会発表など)

(1) 英文論文

    1. Sade B, Oya S, Lee JH. Non-watertight dural reconstruction in meningioma surgery: results in 439 consecutive patients and a review of the literature. J Neurosurg. 2011 Mar;114(3):714-8.
    2. Oya S, Sade B, Lee J. Spheno-orbital meningioma: Surgical technique and outcome. J Neurosurg. 2011 May;114(5):1241-9.
    3. Oya S, Sade B, Lee JH. The natural history of intracranial meningiomas. J Neurosurg. 2011 May;114(5):1250-6.
    4. Oya S, Sade B, Lee JH. Benefit and limitations of diameter measurement in the conservative management of meningiomas. Surg Neurol Int. 2011;2:158.
    5. Oya S, Kawai K, Nakatomi H, Saito N.Significance of Simpson grading system in modern meningioma surgery: integration of the grade with MIB-1 labeling index as a key to predict the recurrence of WHO Grade I meningiomas. J Neurosurg. 2012 Jul;117(1):121-8.
    6. Fukushima Y, Oya S, Nakatomi H, Shibahara J, Hanakita S, Tanaka S, Shin M, Kawai K, Fukayama M, Saito N.Effect of dural detachment on long-term tumor control for meningiomas treated using Simpson Grade IV resection. J Neurosurg. 2013 Dec;119(6):1373-9.
    7. Hanakita S, Koga T, Igaki H, Murakami N, Oya S, Shin M, Saito N. Role of Gamma Knife surgery for intracranial atypical (WHO Grade II) meningiomas. J Neurosurg. 2013 Dec;119(6):1410-4.

(2) 海外学会発表、ほか

    1. Kim SH, Sade B, Oya S, Lee JH. The natural history of intracranial meningiomas; review of 168 patients. Oral presentation. European Society of Skull Base Surgery Meeting. 2009.4. 15-18, Rotterdam, The Netherlands, April 2009.
    2. Sade B, Kim SH, Oya S, Lee JH. The natural history of intracranial meningiomas: review of 168 patients. Oral presentation. 14th World Congress of Neurological Surgery. 2009.8.31 Boston
    3. Oya S, Sade B, Kim SH, Kim CG, Lee JH. The natural history of intracranial meningiomas. Plenary session. Oral presentation. 2010 AANS Annual Meeting 2010.5.3 Philadelphia, Pennsylvania.
    4. Oya, S, Sade, B, Lee, JH. Sphenoorbital meningioma. Surgical technique and outcome. Oral presentation. The 21st Annual Meeting of North American Skull Base Society. 2011.2.18-20. Scottsdale, Arizona.
    5. Oya S, Sade, B, Lee, JH. Assessment of natural history of meningiomas – Comparison between linear and volumetric measurements. Poster presentation. 2011 AANS Annual Meeting 2011.4.9-13. Denver, Colorado.
    6. Oya S, Kawai K, Nakatomi H, Saito N. Integration of MIB-1 labeling indices and Simpson grades to predict meningioma recurrence in modern neurosurgery. Oral presentation. 2012 AANS Annual Meeting 2012. 4.18., Miami, Florida.
    7. Oya S, Fukushima Y, Nakatomi H, Hanakita S, Tanaka S, Shin M, Kawai K, Saito N. How can be the long-term tumor control improved in meningiomas treated by Simpson grade IV resection? – The impact of detachment from the affected dura on retreatment-free survival. Poster presentation. Congress of Neurological Surgeons. San Francisco 2013.10.21
    8. Oya S. Surgical strategy for anterior cranial base meningiomas with optic canal invasion aiming for visual improvement and long-term tumor control. The 1st Shuguang International Conference on Neurosurgery. Shanghai 2013.11.2
    9. Oya S, Indo M, Matsui T. Approach to the cervicomedullary junction: Basics for far lateral approach and modified hypoglossal canal approach. The 1st Shuguang International Conference on Neurosurgery. Shanghai 2013.11.2
    10. Oya S, Fukushima Y, Nakatomi H, Hanakita S, Tanaka S, Shin M, Kawai K, Saito N. Effect of dural detachment to balance the functional outcome and long-term tumor control in complex skull base meningiomas. The 16th Annual Conference of the Skull Base Surgery Society of India. Pondicherry, India. 2014.10.11 (Invited)
    11. Oya S. Anterior cranial base meningiomas with optic canal invasion. The 16th Annual Conference of the Skull Base Surgery Society of India. Pondicherry, India. 2014.10.11 (Invited)
    12. Oya S. Importance of early optic canal decompression to achieve the best visual outcome in anterior cranial base meningiomas. The 4th Asian Congress of Neurological Surgeons Educational Course. Tyumen, Russia. 2014.10.18
    13. Oya S. Surgical strategy for meningiomas based on the biological characteristics. The 2nd Shuguang Hospital Neurosurgical Meeting. Shanghai. 2014.10.31
    14. Oya, S, Toru Matsui. Long-term behavior of residual tumor on the brainstem in petrous/petroclival meningiomas with brain stem adhesion: the effect of dural detachment on tumor control. North American Skull Base Society Annual Meeting. Tampa. 2015.2.20

(3) 邦文総説、ほか

    1. 土屋掌、金太一、大宅宗一、ほか。頭蓋底髄膜腫手術検討における、脳神経の同定に重点をおいた融合3次元画像の有用性。CI研究 3・4:127-134, 2012
    2. 大宅宗一。髄膜腫の自然歴。Annual Review 神経, 2013
    3. 大宅宗一。無症候性髄膜腫あるいは小型髄膜腫の治療適応を考える—自然歴や画像診断を加えた、洗練された治療適応の決定。脳神経外科速報 23(8): 894-900, 2013
    4. 大宅宗一、松居徹。傍鞍部腫瘍の自然歴と治療適応の検討について。脳神経外科 42(2): 99-107, 2014

(4) 国内学会発表、ほか

    1. 後頭蓋窩病変におけるMRI画像診断の治療成績への貢献。第28回日本脳外科CI学会、高松、2005.3.18
    2. Natural history of intracranial meningiomas. 第69回日本脳神経外科総会、福岡、2010.10.27
    3. 最大径を測定して髄膜腫を経過観察する際の注意点とは?-最大径法とVolumetryの直接比較. 第34回日本脳神経CI学会総会、米子、2011.2.5
    4. 頭蓋底髄膜腫におけるSimpson分類による再発予後予測の限界について。第23回日本頭蓋底外科学会、大阪、2011.6.16
    5. Sphenoorbital meningiomaの手術。視力障害の回復・再発制御・整容の3つの視点から。第23回日本頭蓋底外科学会、大阪、2011.6.17
    6. 髄膜腫の経過観察において、最大直径の変化を追う場合に知っておくべきこと—Volumetryとの直接比較。第20回日本脳ドック学会総会、東京、2011.7.8
    7. 両側の視神経管へ浸潤する前頭蓋底髄膜腫に対する、前頭側頭アプローチによる両側視神経管開放法について。第16回日本脳腫瘍の外科学会、横浜、2011.9.9
    8. MIB-1標識率は、WHO grade1の良性髄膜腫の術後再発の予測に有効である。第16回日本脳腫瘍の外科学会、横浜、2011.9.10
    9. 髄膜腫手術におけるParadigm shift: Simpson分類の現代での臨床的意義の限界とMIB-1 indexとの統合による再発予期の重要性について。第70回日本脳神経外科学会学術総会、2011.10.13
    10. Modified Dolenc approachの基本と応用—特に視神経管内病変への対処に関して。頭蓋底外科学会。東京、2012.7.12
    11. 髄膜腫治療の術前・術後の経過観察に関する新たな知見:自然歴を深く理解した治療適応の検討と、Simpson分類の限界を克服した術後追跡法. 日本脳神経外科学会総会。大阪、2012.10.19
    12. 嗅覚保存を目指した前頭蓋底手術と嗅覚モニタリング。日本頭蓋底外科学会、2013.6.26
    13. Significance of Simpson grading system in modern meningioma surgery: integration of the grade with MIB-1 labeling index as a key to predict the recurrence of WHO Grade I meningiomas. 日本頭蓋底外科学会、2013.6.26
    14. 血流の豊富な腫瘍に対する摘出手技について。ビデオシンポジウム。脳腫瘍の外科学会、2013.9.19
    15. 全摘出が困難な良性頭蓋底髄膜腫において、長期的な腫瘍制御効果を向上させるようなSimpson grade 4の摘出法について。日本脳神経外科学会総会、2013.10.17
    16. 無症候性髄膜腫のガイドラインにおけるcontroversy — 蝶形骨縁内側型に対する予防的手術は本当に必要か。第23回日本脳ドック学会総会 2014.6.6
    17. Spheno-orbital meningiomaの手術法と術後成績。日本頭蓋底外科学会 2014.6.19
    18. 中頭蓋窩髄膜腫に対する手術法と合併症について。日本頭蓋底外科学会 2014.6.19
    19. 両側前頭葉および外包へと特徴的な浮腫を呈する前頭蓋底髄膜腫の手術成績。第19回日本脳腫瘍の外科学会 2014.9.12
    20. 髄膜腫の長期治療成績:長期にわたって再治療率を下げ機能を維持するための課題。第19回日本脳腫瘍の外科学会 2014.9.13

〇ほか

    1. 髄膜腫の手術—クリーブランドクリニック頭蓋底外科フェローシップで学んだこと。埼玉脳神経外科若手手術手技フォーラム。さいたま市、2012.3.28
    2. 髄膜腫手術の考え方と基本的手技。第2回武蔵脳神経外科手術手技研究会。東京、2013.1.11
    3. 髄膜腫の生物学と治療戦略。第5回Musashi-脳神経外科講演会、2013.4.7
    4. 現代の頭蓋底外科技術を用いて、髄膜腫の手術成績を向上させるMicrosurgical nuanceをいかに出すか。ランチョンセミナー、日本頭蓋底外科学会、2013.6.27
    5. 米国頭蓋底外科フェローシップで感じた米国式の良さ、日本式の良さ。東海若手脳腫瘍手術研究会。2013.11.17
    6. 髄膜腫の生物学的特性を考慮した手術法。大宅宗一。第69回関東脳神経外科懇話会、2014.11.8