(1)くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)
もっとも重篤な脳卒中であるくも膜下出血は、大部分が脳動脈瘤の破裂によって生じます。当センターではCTやカテーテルによる脳血管撮影により、動脈瘤の場所、大きさ、形を直ちに診断し、脳卒中外科医と脳血管内治療医が必ず話し合って、開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術のうち、より安全で確実な治療法を迅速に判断して施行しています。脳卒中外科は開頭術を担当しており、24時間体制で緊急手術が可能な体制を維持しています。術後は脳血管攣縮の予防のため、脳槽還流による出血の排除を徹底的に行っており、よい治療成績が得られています。
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| 図1a 右中大脳動脈に動脈瘤があります |
図1b 2本のクリップで動脈瘤の造影がなくなりました |
(2)未破裂脳動脈瘤
脳ドックなどで、脳動脈瘤が破裂する前に診断される事も多くなっています。破裂の危険は年間1%程度と低いのですが、破裂すると半数近くの方が亡くなる疾患ですので、治療によるメリットが伴う危険よりも大きいと判断される場合は脳卒中治療ガイドライン2009や脳ドック学会ガイドラインに準拠して治療をお勧めしています(※)。当科は開頭術を担当しておりますが、血管内コイル塞栓術の方が向いている場合もあり、必ず脳血管内治療医とカンファレンスを行って、動脈瘤の形状や患者さんの全身状態から、より適した治療法を選択しています。開頭術が選択された場合、通常の小型の動脈瘤では術後の整容に配慮した、小さな傷による鍵穴手術を積極的に応用しており、患者さんの早期の社会復帰に貢献しています。
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| 左:鍵穴手術の開頭範囲 |
中:術後2週間後の創の様子。5cm程度の創で、髪に隠れて目立ちません(矢印) |
右:術後3カ月後の創の様子。頭蓋の変形などを認めず、創部はよく見ると分かる程度です。 |
※当科で治療を考慮する事をお勧めしている未破裂脳動脈瘤は以下の通りです。
1.10-15年以上の余命が望まれる(75歳以下で全身状態がよい)方で、
2.大きさが5mm以上
3.5mm以下でも
(1)圧迫症状などを呈する症候性脳動脈瘤
(2)前交通動脈、後方循環など、部位的に破裂しやすい場所にある脳動脈瘤
(3)不整形(bleb)など、形態学的に壁の脆弱性が示唆される動脈瘤
(脳卒中の治療ガイドライン2009より)
(3)高難易度(巨大、血栓化など)脳動脈瘤
当センターには、開頭手術と血管内治療を同時に行なったり、術中にCTを施行できる、脳卒中の外科治療専門の最先端の手術室があります(Brain OR :図3)。このハイブリッド手術室では、脳動脈瘤の開頭術中に脳血管内治療医がカテーテルにより動脈瘤への血流を遮断したり、コイル塞栓術を行う事が可能であり、通常の手術室では実施が困難な難しい手術が行える、全国でも数少ない設備です。
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図3 開頭術とカテーテルによる血管内手術が同時に行えるハイブリット手術室BRAIN OR。
治療困難な脳動脈瘤や脳動静脈奇形に対して、脳卒中外科医と脳血管内治療医が同時に手術を行える最先端の手術室です。
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| 図3a 未破裂の大型脳動脈瘤が視神経を圧迫しています |
図3b 手術室内で執刀直前に3D-DSAを撮影することができます |
図3c 手術中にも3D-DSAが撮影できます。4本のクリップによる脳動脈瘤の閉鎖を確認しています |
また、当科では巨大脳動脈瘤や部分血栓化動脈瘤に対して、各種バイパス術の応用による母血管閉塞と血行再建による治療を積極的に行っており、通常の開頭clipping術やコイル塞栓術が不可能な高難易度脳動脈瘤の患者さんを全国より御紹介頂いています。この手術法により、今までは治療不可能とされていた動脈瘤の患者さんでも、社会復帰される方が増えました(図4,5)。
内頸動脈前床突起部巨大脳動脈瘤症例
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| 図4a 術前脳血管撮影:4cm大の巨大脳動脈瘤が描出されています。 |
図4b 術前3D-CTA:内頸動脈そのものが動脈瘤化しており、通常のクリッピング手術は行えません。 |
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| 図4c |
図4d |
| 前腕の動脈を頸部から移植する高流量バイパス術後。正面(c)および側面(d)像。動脈瘤は完全に消失し、脳への血流は正常に保たれています。 |
内頸動脈海綿静脈洞部巨大脳動脈瘤症例
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| 図5a 術前脳血管撮影:3cm大の巨大脳動脈瘤が描出されています。頭蓋底部に存在するため、直達術は困難です。 |
図5b 術前頭部MRI:黒く見える脳動脈瘤は、頭蓋底部にある事がわかります。 |
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| 図5c |
図5d |
| 前腕の動脈を頸部から移植する高流量バイパス術後。脳血管撮影(c)およびMRI(d)像。動脈瘤は完全に消失し、脳への血流は正常に保たれています。 |
(4)脳内出血・脳室内出血
多くは高血圧などにより脳の正常な血管が破綻する事により生じます。血腫が大きく脳の圧迫が強い場合は、脳ヘルニアによる生命の危険があるため、緊急で血腫を除去する必要があります。当科では開頭による血腫除去術のほか、神経内視鏡技術認定医が2人常駐しているため、患者さんの状態によってより低侵襲な内視鏡による血腫吸引術も24時間可能です。
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| 図6a 左の大きな混合型脳内出血です。 |
図6b 開頭血腫除去術後。完全に血腫は除去され、翌日に片麻痺は改善しました。 |
(5)脳動静脈奇形・海綿状血管腫・その他の血管奇形
若年者における脳内出血の原因の代表的疾患である脳動静脈奇形や海綿状血管腫は当科が最も力を入れている疾患です。生来の脆弱な異常血管の集簇により、脳内出血やてんかん発作を生じます。治療には開頭術や血管内塞栓術、定位的放射線治療がありますが、当センターにはどの治療法にも精通したスタッフがおりますので、個々の患者さんに合わせて最適な治療法をを選択したり、各治療法を組み合わせて治療する事が可能です。当科は全国でも数少ない脳動静脈奇形治療センターであり、全国有数の治療数を誇ります。
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| 図7a 脳動静脈奇形の摘出術 |
図7b 左前頭葉の大型の脳動静脈奇形です |
図7c 脳動静脈奇形が全摘出されました |
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| 図8a 延髄背側の海綿状血管腫です |
図8b 延髄海綿状血管腫の摘出後です |
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| 図8c 延髄背側に海綿状血管腫を認めます。
延髄に著明な浮腫があります |
図8d 海綿状血管腫の摘出後に延髄の浮腫は消失しています |
(6)頸動脈狭窄症
頸部の内頸動脈が動脈硬化で細くなった状態です。一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞を生じて発見される事もありますが、偶然にみつかる事もあります。狭窄が高度の場合には将来的に大きな脳梗塞を生じる可能性が大きいため、外科治療が勧められています。当科では動脈を切開して動脈硬化巣を切除する血栓内膜剥離術を施行しており、脳血管内治療科が血管内STENT留置術を担当しています。当センターでは必ず両科の医師が話し合って、患者さんの病態に応じて、より安全で確実な治療法を選んで施行しています。
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| 図9a 右内頚動脈の高度狭窄症の3D-CT画像です |
図9b 内頚動脈の内膜剥離術後です |
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| 図9c 内頚動脈の内膜・アテローマを剥離しているところです |
図9d 内膜剥離術では、ステントによる治療と異なり、アテローマがなくなり内壁がきれいになったのを直接確認することができます |
図9e 摘出したアテローマです。脳梗塞を発症させた原因である内壁の潰瘍が見られます |
(7)内頸動脈閉塞症・もやもや病
脳の主幹動脈が動脈硬化で閉塞したり、もやもや病の場合は、脳血流の検査(SPECT))を行い、脳の血流不足があきらかな場合は頭皮の血管を脳の血管と吻合して血流を増加させる手術(EC-IC バイパス手術)を慎重に施行しています。本手術により、将来的な脳梗塞の発症リスクが有意に減少する事が証明されております。
頻繁に右半身の一過性片麻痺(脳虚血発作)を繰り返した左内頚動脈閉塞症例
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| 図10a 3D-CTAを施行すると脳に血を送る内頚動脈が右側は描出されますが、左側では描出されません。(矢印) |
図10b 血管撮影で頸部での完全閉塞が確認されました(矢印)。 |
図10c 脳血流検査では左(向かって右)大脳半球の広範な血流不足(寒色の領域)が示唆されます。 |
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| 図10d |
図10e |
図10f |
図10g |
| 将来的に大きな脳梗塞の発症が危惧されたため、頭皮の血管を脳の血管につないで血液を補給するバイパス手術(EC-IC bypass)を施行しました。術後、吻合した血管が脳に血流を送っていることが確認されました。(矢印)、 |
脳の血流不足も解消されています。 |
当科における手術成績向上の試み
脳卒中外科では、すべての患者さんに安全で確実な手術を提供するために、また他院で手術が困難と判定された患者さんを無差別に受け入れるために、すべての医師が最高水準の手術技術を獲得・維持する事を最も重要視しています。毎週開かれる手術カンファレンスでは、すべての手術について深夜まで全員で議論し、研究室には24時間いつでも手術トレーニングができるように微小血管吻合用の顕微鏡セットが常備され、医師は日夜練習に励んでいます(図11a)。また積極的に動物を用いたダイセクションコースを開催し、手術技術の進歩や新しい技術の普及に貢献しています(図11b,c)。
当科で研修を希望する全国の若手脳神経外科医の皆様へ
当科は将来脳血管外科を牽引する人材を養成する事をその使命としており、広く研修者を公募しています。出身大学や経験年数は問いません。日本をリードし、世界に通用する脳血管外科医へ、皆様を熱く指導します。希望者は診療科長までご連絡ください。 |