埼玉医科大学 生理学教室 

Department of Physiology, Saitama Medcal University

分子時計プロジェクト

(池田正明)

プロジェクトリーダー 池田正明

プロジェクトメンバー 熊谷 恵、楊 芳、朴 承

研究テーマ

研究概要

地球上の生物は、地球の自転によって生じる24時間の周期を体内に取り込むことにより、太陽が作り出す光環境の変化をあらかじめ予想して、体内の代謝や行動を制御することが出来るシステムを作り出しています。このシステムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれており、時計遺伝子の転写・翻訳・翻訳後修飾などからなるフィードバック機構によって、約24時間周期の振動が生み出されていることが明らかになって来ています。私たちの研究グループは時計遺伝子の探索プロジェクトを1990年代初頭に立ち上げ、時計遺伝子Bmal1の発見(BBRC 1997、 BBRC 1998)、末梢時計関連遺伝子Bmal2の発見(BBRC 2000)、Bmal1プロモーター/エンハンサー領域の同定(BBRC 2002)およびBmal1転写促進因子としてRORαの同定(FEBS lett. 2004)などの成果をあげて来ています。このような基盤に立って、本研究プロジェクトは以下の項目に代表される課題を遂行することにより、概日時計の分子機構を解明するとともに疾病の治療や予防を可能とする技術開発の端緒となる応用研究に道筋をつくることを研究目的としています。

1. 概日リズムの分子機構の解明 -時計遺伝子BMAL1の機能解析を中心として-

 私たちは概日時計の発振機構の解明のため時計遺伝子の転写調節機構に注目し解析を進めてきています。時計遺伝子は昼に発現が高くなるいわゆる昼時計遺伝子と、夜に高くなる夜時計遺伝子があり、Per1, Per2, Cry1, Cry2は昼時計遺伝子に、Bmal1は夜時計遺伝子に分類されています。時計遺伝子の中で昼間に発現が高くなる遺伝子(Per1, Per2, Cry1, Cry2)の産物は、BMAL1/CLOCKによる転写活性化を抑制することによって自身の転写を抑制し、夜高くなるBmal1の転写は逆に促進します。夜発現が高くなるBmal1はRORレスポンスエレメントを介してRORαによって転写活性化を受け、REV-ErbαやRev-Erbβによって転写抑制を受けています。本研究課題では、約24時間のリズム発振の発現する機構や、位相・振幅を決定している因子の検索、時計の出力機構の解明を行っています。

共同研究

2.概日リズムと恒常性の維持・代謝調節機構の解明

 時計遺伝子は概日リズムの中枢である視交叉上核(SCN)ばかりでなく末梢の臓器・組織にも発現し、約24時間の周期でリズムを刻んでいます。このリズムはBMAL1/CLOCKやDBPなどの時計(関連)遺伝子を介してレセプター、酵素、細胞骨格などを構成する様々な遺伝子の転写を調節し、リズム性発現を直接制御していると考えられています。例えば脂質代謝はPPARα、PPARβ、PPARγなどの転写因子が脂質特異的な遺伝子の発現を制御することにより、脂肪細胞特有の形質や分子の合成、代謝を行っていますが、これらの反応は食事性の応答やコルチゾールの分泌によって変動するばかりでなく、時計遺伝子の制御下に日内変動を示すものがあると考えられています。本研究では脂質代謝の調節と時計遺伝子の関連を明らかにすることにより、代謝調節機構における概日リズム性調節の分子機構を解明することをめざしています。

共同研究

3.時計遺伝子と細胞増殖・腫瘍との接点の解明、腫瘍の時間治療応用への分子基盤の解明

 概日時計は視床下部にある視交叉上核で約24時間周期のリズムを発生し、末梢臓器に同期のシグナルを送っています。末梢臓器を構成する細胞も約24時間周期のリズムを発生しており、これらのリズムは時計遺伝子BMAL1/CLOCK ヘテロ二量体とPER、CRY遺伝子群による時計遺伝子群転写のフィードバックループによって作り出されています。私たちはBMAL1/CLOCKの末梢臓器における標的遺伝子の検索を行ってきましたが、その過程で細胞周期を制御する因子の中にBMAL1/CLOCKの直接の標的遺伝子になっている可能性のあるものを見いだしています。私たちは、細胞周期に関与する因子のプロモーターをクローニングし、時計遺伝子による転写調節機構を解析すると共に、正常およびガン細胞の細胞周期および増殖と時計遺伝子の関係、抗ガン剤の増殖抑制作用における時計遺伝子の関与を明らかにしようと試みています。さらに時計遺伝子と抗ガン剤の治療効果との関係を明らかにすることにより、抗ガン剤の至適投与時刻と時計遺伝子の関係を分子レベルで解明し、時間治療の基盤を確立することをめざしています。

共同研究

4. 転写の定量・イメージング技術の開発と応用

 私たちは時計遺伝子やClock-controlled geneのリズム発現の機構を詳細に検討するため、同時に複数の時計遺伝子転写活性を経時的に測定可能なシステムを構築し、概日時計発振のメカニズムを解明することをめざしています。すでに細胞レベルで3色のレポーターを用いることにより、3種類の時計遺伝子のプロモーター/エンハンサー活性を5日間に亘って測定することに成功しています。本プロジェクトでは、時計遺伝子や発現誘導性の遺伝子に最適なレポーターシステムを開発するとともに、このシステムをin vivo 系にも導入し複雑な概日リズムの解析に用いて実用性を確認する計画です。また発光強度の強いレポーターを用いてシングルセルにおける遺伝子発現をCCDカメラでモニター可能なシステムを構築し、概日リズムをはじめ転写と生体現象の解析に応用していく予定です。

共同研究

主要文献 (過去10年間)

  • 1) Ikeda M and Nomura M:
    cDNA cloning and tissue-specific expression of a novel basic helix-loop-helix/PAS protein (BMAL1) and identification of alternatively spliced variants with alternative translation initiation site usage.
    Biochem Biophys Res Commun, 233: 258-264, 1997
  • 2) Honma S, Ikeda M, Abe H, Tanahashi Y, Namihira M, Honma K, and Nomura M:
    Circadian oscillation of BMAL1, a partner of a mammalian clock gene Clock, in rat suprachiasmatic nucleus.
    Biochem Biophys Res Commun, 250:83-87, 1998
  • 3) Abe H, Honma S, Namihira M, Tanahashi Y, Ikeda M, Yu W, and Honma K:
    Phase-dependent induction by light of rat Clock gene expression in the sup rachiasmatic nucleus.
    Mol Brain Res,66:104-110, 1999
  • 4) Namihira M, Honma S, Abe H, Tanahashi Y, Ikeda M, and Honma K:
    Daily variation and light responsiveness of mammalian clock gene, Clock and BMAL1, transcripts in the pineal body and different areas of brain in rats.
    Neurosci Lett, 267:69-72, 1999
  • 5) Yu W, Ikeda M, Abe H, Honma S, Ebisawa T, Yamauchi T, Honma K, and Nomura M:
    Characterization of three splice variants and genomic organization of the mouse BMAL1 gene.
    Biochem Biophys Res Commun, 260:760-767,1999
  • 6) Ikeda, M, Yu, W, Hirai, M, Ebisawa, T, Honma, S, Yoshimura, K, Honma K, and Nomura M:
    cDNA Cloning of a Novel bHLH-PAS Transcription Factor Superfamily Gene, BMAL2; Its mRNA Expression, Subcellular Distribution, and Chromosomal Localization
    Biochem Biophys Res Commun, 275:493-502, 2000
  • 7) Masubuchi S, Honma S, Abe H, Ishizaki K, Namihira M, Ikeda M, and Honma K:
    Clock genes outside the suprachiasmatic nucleus involved in manifestation of locomotor activity rhythm in rats
    Eur J Neurosci, 12:4206-4214, 2000
  • 8) Yu W, Nomura M, Ikeda M:Interactivating feedback loops within the mammalian clock:BMAL1 is negatively autoregulated and upregulated by CRY1,CRY2 and PER2.Biochem Biophys Res Commun, 290:933-941, 2002
  • 9) Nakajima Y, Ikeda M, Kimura T, Honma S, Ohmiya Y, Honma K.Bidirectional role of orphan nuclear receptor RORalpha in clock gene transcriptions demonstrated by a novel reporter assay system.FEBS Lett, 565:122-126, 2004
  • 10) Nakajima Y, Kimura T, Sugata K, Enomoto T, Asakawa A, Kubota H, Ikeda M, Ohmiya Y.Multicolor luciferase assay system: one-step monitoring of multiple gene expressions with a single substrate.Biotechniques, 38:891-894, 2005
  • 11) Nishide S, Honma S, Nakajima Y, Ikeda M, Baba K, Ohmiya Y, and Honma K.New reporter system for Per1 and Bmal1 expressions revealed self-sustained circadian rhythms in peripheral tissues. Genes to Cells 11:1173-1182, 2006
  • 12) Noguchi T, Ikeda M, Ohmiya Y, Nakajima Y: Simultaneous monitoring of independent gene expression patterns in two types of cocultured fibroblasts with different color-emitting luciferases BMC Biotechnology 8:40, 2008

総説 (2007)

  • 1) 中島芳浩、野口貴子、池田正明、近江谷克裕:
    概日リズム研究におけるルシフェラーゼとその応用.
    時間生物学 13:37-47,2007
  • 2) 池田正明
    私が名付けた遺伝子Bmal1:発表10年を振り返って
    時間生物学 13:2-7,2007
  • 3) 池田正明
    気分障害の治療と概日リズム
    -リチウムの作用機構と時計遺伝子の関連について−
    日本薬理学雑誌 130,469-476,2007
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