埼玉医科大学 生理学教室 

Department of Physiology, Saitama Medcal University

多様な電位依存性Naチャネルの網膜視覚情報処理における役割の分子生物学的研究

(金子優子、渡辺修一)

(研究の目的)

  電位依存性Naチャネル(NaV)は古くから研究されてきたチャネルであり、現在ではチャネルの構造と機能の関係もかなり理解が進んでいる分子です。NaVはαサブユニットとβサブユニットから構成され、それぞれサブタイプ(αサブユニット;NaV1.1〜1.9、βサブユニット;β1〜β3)が明らかになっています。NaVは興奮性細胞における活動電位の発生と調節に深く関わり、近年ではその変異と疾患の関係が徐々に明らかにされつつあります。例えば骨格筋型NaV(NaV1.4)の変異は高カリウム性周期性四肢麻痺や先天性パラミオトニーの原因遺伝子と同定され、小脳失調症と筋力低下を引き起こすmed変異マウスはNaV1.6の変異を持つことが明らかにされています。

  一方、脳神経系の一部といえる網膜神経組織では、多様なNaVの局在とその機能的意義はほとんどわかっていません。さらに、NaVと特定の疾患との関係は現在全く明らかになっていません。そこで、わたしたちは、網膜組織に存在するNaVの分子生物学的同定を行い、電気生理学的な実験結果と合わせて網膜視覚情報処理におけるNaVの多様性の意義を明らかにしていくことを目指しています。網膜においてNaVを機能的に発現している神経細胞は、アマクリン細胞の一部と神経節細胞であることが電気生理学的に明らかにされています。この中で神経節細胞については、NaV1.1〜NaV1.3、NaV1.6が存在することが明らかにされていますが、アマクリン細胞におけるNaVについては、サブタイプ等の分子的同定が未だなされていません。従ってわたしたちは、アマクリン細胞に注目して実験を進めています。また、アマクリン細胞は形態学的に数十ものサブタイプがあり、活動電位を発生しないサブタイプも存在するので常に電気生理実験と並行してNaV遺伝子発現を調べていきます。

(材料と方法)

  実験には、マウス網膜を用います。網膜アマクリン細胞のNaV遺伝子の単離には、単一アマクリン細胞のmRNAを抽出してcDNAライブラリーを作成し、1)様々なプローブを試してPCR法によりNaV遺伝子の単離を行う方法と、2)神経節細胞の各種NaV遺伝子をプローブとして、アマクリン細胞のcDNAライブラリーからNaVの単離を行う方法の2種類を試みます。単一アマクリン細胞のmRNAを抽出は、以下に述べるように電気生理学実験との組み合わせで行います。網膜スライス標本におけるアマクリン細胞の同定は形態的に可能ですが、アマクリン細胞には活動電位を発生しないサブタイプも存在するので、ホールセル・パッチクランプ法を用いて単一神経細胞の記録をとり、活動電位発生型のアマクリン細胞であることを確認し、その電気的性質を解析した後、記録電極内にアマクリン細胞の細胞体を吸い込み、チューブに移し、単一細胞からのmRNA抽出を行います。このmRNAに対して上述の1)あるいは2)の方法を適用し、アマクリン細胞に存在するNaVの単離を試みます。

  活動電位発生型アマクリン細胞には形態的に分けて幾つかのサブタイプがあるため、それぞれに発現するNaVも異なる可能性があります。単離した各種NaVは、各々プローブを作成し、in situハイブリダイゼーションを行いマウス網膜切片上でのその発現分布を明らかにします。

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