学習・記憶の形成および障害の分子機構の解明

研究テーマ
1.虚血による中枢および末梢神経系の慢性期障害の検討
2. 周産期におけるタウリン負荷の学習への影響
3. シンタキシンIaノックアウトマウスの表現系解析
4. 糖尿病モデルラットを用いた脳血管性認知症の機序の解明
研究概要
動物の行動と脳の可塑性の関連性を研究することによっての学習の形成と障害機序の解明を目指しています。
認知症をはじめとして、認知機能障害は様々な疾患に関連して起こり、そのメカニズムの解明は治療、リハビリテーション、長期的病態の理解など多くの問題の基礎として必要とされています。さまざまなモデル動物の行動を測定することによってこの問題に取り組み、学習課題・精神病理学的測定などにより個体としての動物がどのような認知機能の障害・回復を示し、中枢・末梢神経系の障害とどのような関わりを示しているのかを長期的・連続的に検討しています。
現在は虚血動物を用いて脳血管障害による認知機能障害を中心に薬物投与動物、ノックアウト動物を用いて検討し、病態の解明や治療法の開発を目指して研究を進めています。
1.虚血による中枢および末梢神経系の慢性期障害の検討
虚血動物モデルを用いた,心停止による虚血性脳障害後の認知・学習機能障害について,メカニズムの解明とそれを基礎とした治療法の発見が本研究の目的である。特に治療において重要な問題であるにも関わらず取り組みの少なかった,慢性期の長期的な障害の変容と精神病理学的問題に注目し,予防よりも長期的な治療に力点をおいた研究としたい。これまでの本研究室の明暗弁別課題を用いた研究によって,虚血が既習の学習の維持・再学習両方に障害をもたらすことが明らかにされ,慢性期において著しい成績の低下、特に学習課題へのモチベーションの低下が観察された。このことから,虚血動物を用いた長期的な学習課題は卒中後鬱病のモデルとして有効であると考えられる。この現象に注目し,行動変容と中枢・末梢神経系の変性の関係を明らかにする。
参加研究者
- 菅 理江
- 金子 優子
- 荒木 信夫(神経内科)
- 澤田 雅彦(神経内科)
2. 周産期におけるタウリン負荷の学習への影響
タウリンは脳組織中に豊富に存在するアミノ酸の一つであり、人乳中には特に高濃度に存在し、乳児の発達につれ濃度が減少することが知られている。胎児脳を用いた組織培養系による実験例ではタウリン添加により神経細胞の分裂増殖促進が報告されており、発育過程に重要な働きが果たすことが予想される。
本研究ではタウリンを異なる成長段階で摂取させることにより、タウリン摂取の認知学習機能発達への影響を検討する。特に妊娠確定マウスを用いて、周産期より継続的な摂取と成熟後からの摂取を比較し、発達段階によるタウリンの機能的変化を解明する。
参加研究者
- 菅 理江
- 細江 伸央 (東邦大・佐倉病院・内科)
- 山本 哲 (東京歯科大)
- 平野 修助 (額田医学生物学研)
3. シンタキシンIaノックアウトマウスの表現系解析
ウィリアムズ症候群は一方の染色体の7q11.23部位にある17以上の遺伝子が欠失することによって循環器系の異常・乳児期高カルシウム血症・発育及び発達遅延を引き起こすものである。欠損遺伝子のいくつかは判明しつつあるが、未だ認知的表現型との相関性は見られていない。これらの遺伝子の中の一つシンタキシンIaは神経系に多く見られ、シナプス伝達に重要な役割を果たすと考えられている。
本研究ではシンタキシンIaノックアウトマウスを用いて、その行動特性を検討することによって学習障害との関連性を探り、認知的表現型との相関を模索する。
ウィリアムズ症候群ではその症状に多くのバリエーションがあり、最も典型的である大動脈弁上狭窄以外に、認知学習機能障害、聴覚過敏症、両眼視の発達不全、不安症など認知・精神病理に関連する障害が報告されている。本プロジェクトではすでに確立されている行動測定の手法を用いてシンタキシンIa由来の表現型を探る。また両眼視の不全に注目し、脳と網膜の組織化学的検討から中枢・末梢神経の発達不全を検証する。
参加研究者
- 菅 理江
- 金子 優子
- 藤原 智徳 (杏林大学)
- 赤川 公朗 (杏林大学)
4. 糖尿病モデルラットを用いた脳血管性認知症の機序の解明
糖尿病患者は認知症を引き起こしやすく、脳虚血時は非糖尿病患者に比べ、脳浮腫が増大することが知られている。この特徴は脳血管性認知症の解明の手がかりになると考えられる。そこでII型糖尿病モデルラットであるOLET-Fを用いて、学習、脳浮腫、酸化ストレスに着目して脳血管性認知症のメカニズムを研究している。
参加研究者
- 菅 理江
- 島津 智一(神経内科)
- 長谷川 元(総合医療センター・腎・高血圧内科)
- 井上 郁夫(第四内科)
研究発表 (2005-)
- 1) 平野修助・山本哲・平山明彦・野村正彦・菅理江・本田加奈子・細江伸央・古部勝・諸田隆・浅野貴之・油田正樹“タウリン負荷による脳組織の発達と学習行動について”必須アミノ酸研究, 2006, 22, p69-74.
- 2) 藤原智徳・菅理江・小藤剛史・三嶋竜弥・渡辺明子・吉川武男・野村正彦・赤川公朗“HPC-1/syntaxin1A ノックアウトマウスにおける自閉症様行動異常”第84回日本生理学会, 大阪, 2007, Mar.
- 3) 菅理江・細江伸央・古部勝・山本哲・平山明彦・平野修助・野村正彦“マウスにおけるタウリンの負荷時期による学習への影響”日本動物心理学会第66回大会,京都,2006, Oct.
- 4) Suge, R., Sawada. M., Araki. N., Shimazu. K. and Nomura. M. メLong-range effect of temporal global brain ischemia on learned behaviour in miceモ FENS Forum 2006, Vienna, Austria, 2006, Jul.
- 5) 菅理江・本多加奈子・堀江伸央・古部勝・山本哲・平山明彦・平野修助・野村正彦“周産期におけるタウリン負荷の学習への影響” 第83回日本生理学会大会,前橋,2006, Mar.
- 6) 吉松安嗣・細江伸央・古部勝・山本哲・平山明彦・野村正彦・菅理江・本田加奈子・諸田隆・浅野貴之・油田正樹・平野修助“タウリン負荷と脳組織の発達について” 第21回13C医学応用研究会,東京,2005, Nov.
- 7) 菅理江・澤田雅彦・荒木信夫・島津邦男・野村正彦“脳虚血マウスにおける虚血後の学習障害とその回復の検討”日本動物心理学会第65回大会,千葉,2005, Oct.
- 8) Suge, R., Sawada. M., Araki. N., Shimazu. K. and Nomura. M. "Evaluation of learning deficit and effect of Cilostazol in temporal cerebral ischemic mice" The European Brain and Behaviour Society 37th Annual Meeting, Dublin, Ireland, 2005, Sept. (Acta Neurobiologiae Experimentalis, 2005, 65, Suppl., 92)
- 9) 菅理江・澤田雅彦・荒木信夫・島津邦男・野村正彦 “オペラント条件付けを用いた脳虚血マウスの学習障害評価とシロスタゾールの影響”第28回日本神経科学大会,横浜,2005, Jul.
- 10) 澤田雅彦・菅理江・荒木信夫・野村正彦・島津邦男 “脳global ischemia負荷マウスの学習障害に対するシロスタゾールの効果”第46回日本神経学会総会,鹿児島,2005, Jul.
- 11) 菅理江・澤田雅彦・荒木信夫・島津邦男・野村正彦 “脳虚血マウスにおける学習障害の回復とシロスタゾールの効果”第82回日本生理学会大会,仙台,2005, May.
研究費
- 科学研究費補助金若手研究(B) 「虚血性脳障害による精神病理学的後遺症の神経基盤 」 2006-2008
場所:
毛呂山キャンパス
基礎医学棟5F
連絡先:
TEL: 049-276-1152
FAX: 049-294-9961

