• 網膜の視覚情報処理
  • プロジェクトリーダー

    渡辺修一

  • プロジェクトメンバー

    田丸文信
    平沢統
    金子優子
    青葉香代

  • サブテーマ

    1)網膜アマクリン細胞の機能の解明
    (田丸文信、渡辺修一)
    2)桿体双極細胞とAIIアマクリン細胞間のシナプス伝達の解析
    (田丸文信、渡辺修一)
    3)哺乳類網膜に発現する多様な電位依存性Naチャネルの機能的意義の解明
    (金子優子、渡辺修一)
  • 4)ヒトiPS細胞、ヒトES細胞、マウスiPS細胞および、マウスES細胞を用いた網膜視神経細胞への分化誘導および創薬、再生医学研究への応用
  • (田丸文信、渡辺修一)
  • 5)視覚情報処理における網膜抑制性回路の役割の解明
  • (平沢統、渡辺修一)

  • 概要

    1)網膜アマクリン細胞の機能の解明
    (田丸文信、渡辺修一)

    哺乳類では、桿体視細胞からの光情報は、桿体双極細胞(ON型しかない)へ送られた後、AIIアマクリン細胞を介して錐体経路へ送られることがわかって います。この際、ON情報はAIIアマクリン細胞からギャップ結合を介して錐体経路のON経路へ、OFF情報はAIIアマクリン細胞からグリシン作動性シ ナプスを介して錐体経路のOFF経路へ送られます(図1)。以上のことは形態学的にわかっていることですが、AIIアマクリン細胞を介したON・OFF情 報の振り分けや錐体経路への乗り換えなどのメカニズムについては、不明な点が多く残っています。
    本研究室では、スライスパッチクランプ法を用いて、免疫組織化学法や薬理学的な解析と組み合わせながら、桿体経路におけるAIIアマクリン細胞の光情報 処理機構を明らかにしていきたいと考えています。本研究室ではこれまで、AIIアマクリン細胞の電位依存性Naチャネルが細胞体とproximal dendrite付近に多く発現しており、そのNaチャネルを介して発生する小振幅の活動電位の頻度がグルタミン酸入力に応じて増加することを明らかにし ました(Tamalu and Watanabe, 2007)。これらのことから、AIIアマクリン細胞の小振幅の活動電位の頻度は光情報をコードしていることが示唆されます。
    また、AIIアマクリン細胞の小振幅の活動電位は、桿体経路から錐体OFF経路への乗り換え時のグリシン放出を増幅している可能性が高いと考えていま す。その理由として、(1)AIIアマクリン細胞はarboreal dendriteでギャップ結合を介してON型錐体双極細胞に出力していますが、ギャップ結合にはhigh-cutフィルターの性質があるために活動電位 の振幅が大きく削られること、(2)AIIアマクリン細胞がOFF型錐体双極細胞およびOFF型神経節細胞にグリシン出力をしているproximal dendrite付近により多くの電位依存性Naチャネルが発現していること(Tamalu and Watanabe, 2007)、などが挙げられます。
    今後は、AIIアマクリン細胞と双極細胞、あるいはAIIアマクリン細胞と神経節細胞からダブルパッチクランプ法で記録することによって、AIIアマク リン細胞の活動電位の役割について、より詳細に解析していく予定です。また、電気生理学的解析とCaイメージングとを組み合わせることで、AIIアマクリ ン細胞の活動電位とCa電流およびグリシン放出との関連を調べていこうと考えています。

    2)桿体双極細胞とAIIアマクリン細胞間のシナプス伝達の解析
    (田丸文信、渡辺修一)

    哺乳類網膜では、桿体視細胞は暗闇中で脱分極しグルタミン酸を放出しており、光が当たるとグルタミン酸放出が止まることが知られています。桿体視細胞か らグルタミン酸入力を受け取る桿体双極細胞の樹状突起には代謝型グルタミン酸受容体が発現しており、グルタミン酸を受け取ることで過分極します。すなわ ち、桿体双極細胞は暗闇で過分極し、光で脱分極することがわかっています。AIIアマクリン細胞は、その桿体双極細胞からグルタミン酸入力を受けています (図1)。
    本研究室の予備実験から、AIIアマクリン細胞の興奮性シナプス電流(EPSCs)の頻度は、室温の時よりも体温に近い温度で記録するほうが有意に高い ことがわかりました。ところが、桿体双極細胞の代謝型グルタミン酸受容体のagonistを潅流投与した(擬似的に暗闇をつくった)状態で温度変化をさせ ても、AIIアマクリン細胞のEPSCsの頻度が変化しないことがわかりました。このことは、桿体双極細胞のグルタミン酸受容体が脱活性化している時にだ け温度依存性が表れることを示唆しています。すなわち、光によって桿体視細胞からのグルタミン酸放出量が減少し、桿体双極細胞の代謝型グルタミン酸受容体 が脱活性化している時にのみ、そのグルタミン酸受容体とカップルしている陽イオンチャネルの開口確率が体温で高められ、最適なシナプス伝達ができるように なっている可能性が考えられます。
    本研究室ではマウスの網膜スライス標本からパッチクランプ法で記録をし、上記のような薬物投与を行いながら記録中の温度条件を変えることで、桿体双極細 胞とAIIアマクリン細胞間のシナプス伝達が体温で最適化されていることを解析しようと考えています。

    3)哺乳類網膜に発現する多様な電位依存性Naチャネルの機能的意義の解明
    (金子優子、渡辺修一)

    (目的)
    電位依存性Naチャネル(NaV)は古くから研究されてきたチャネルであり、現在ではチャネルの構造と機能の関係もかなり理解が進んでいる分子である。NaVはαサブユニットとβサブユニットから構成され、それぞれサブタイプ(αサブユニット;NaV1.1~1.9、βサブユニット;β1~β3)が明らかになっている。NaVは興奮性細胞における活動電位の発生と調節に深く関わり、近年ではその変異と疾患の関係が徐々に明らかにされつつある[for review, see Catterall et al., 2005] 。
    一方、脳神経系の一部といえる網膜神経組織(図3-1)では、多様なNaVの局在とその機能的意義との関係はほとんどわかっていない。そこで、我々は、網膜組織に存在するNaVの分子生物学的同定を行い、電気生理学的な実験結果と合わせて網膜視覚情報処理におけるNaVの多様性の意義を明らかにしていくことを目指している。網膜においてNaVを機能的に発現している神経細胞は、アマクリン細胞の一部と神経節細胞であることが電気生理学的に明らかにされている。この中で神経節細胞については、NaV1.1~NaV1.3、NaV1.6が存在することが明らかにされている [Fjell et al., 1997] 。しかし、アマクリン細胞に存在するNaVの サブタイプはほとんどわかっていなかった。そこで我々は、活動電位発生型のアマクリン細胞に注目して実験を進め、in situハイブリダイゼーション法(ISH)法と免疫組織化学的手法を用いた二重染色により活動電位発生型アマクリン細胞の1つであるAIIアマクリン細 胞には主にNaV1.1が発現していることを初めて明らかにした(図3-1a,b,d)[Kaneko and Watanabe, 2007] 。現在は、やはり活動電位発生型アマクリン細胞であるドパミン作動性アマクリン細胞について調べている(図3-1c)


  • 業績

    (原著)
    Yuko Kaneko, Rie Suge, Tomonori Fujiwara, Kimio Akagawa, Shu-Ichi Watanabe
    Unsual retinal layer organization in HPC-1/syntaxin 1A knockout mice.
    Journal of Molecular Histology, 42(2011),483-489

    Tamalu, F and Watanabe, S-I.
    Glutamatergic input is coded by spike frequency at the soma and proximal dendrite of AII amacrine cells in the mouse retina.
    Eur J Neurosci. 2007; 25: 3243-3252.

    Yuko Kaneko and Shu-Ichi Watanabe
    Expression of Nav1.1 in rat retinal AII amacrine cells.
    Neuroscience Letters 424: 83-88 (2007)

    (最近の学会発表)
    2012年
    第89回生理学会大会
    Yuko Kaneko, Shu-Ichi Watanabe. Voltage-gated sodium channel α subunit subtypes expressed in a small population of dopaminergic amacrine cells in the rat retina. The Journal of Physiological Sciences 62, Supplement, S185 (2012)

    2011年
    第34回日本神経科学学会
    Fuminobu Tamalu, Shu-Ichi Watanabe, Robert Barlow. Functional roles of TRPM1 channels in the synaptic transmission between rod bipolar and AII amacrine cells in the mouse retina. Neuroscience Research 71,Supplement, e256 (2011)

    第15回視覚科学フォーラム
    金子優子、渡辺修一
    ドパミン作動性アマクリン細胞にはどの電位依存性Naチャネルサブタイプが発現しているのか

    2010年
    第234回生理学東京談話会 シンポジウム「網膜の情報処理」
    田丸文信
    桿体経路における網膜AIIアマクリン細胞の情報処理機構

    第33回日本神経科学学会(Neuro2010)
    Fuminobu Tamalu, Yumiko Umino, Yuning Sun, Eduardo Solessio, Shu-Ichi
    Watanabe, Robert Barlow. Response of retinal rod bipolar cells in chronically hypoglycemic mice. Neuroscience Research 68,Supplement1, e268 (2010)

    第14回視覚科学フォーラム
    田丸文信、海野由美子、Drew Everhart、Yuning Sun、Eduardo Solessio、渡辺修一、
    The Late Robert Barlow Jr
    慢性低血糖マウスの月齢依存的視覚低下の原因の1つは桿体入力型双極細胞の応答低下
    である

    FASEB Summer Research Conferences (Retinal Neurobiology and Visual Processing)
    Yuko Kaneko, Shu-Ichi Watanabe. NaV1.2 and NaV1.6 were expressed in dopaminergic amacrine cells in the rat retina.

    第87回生理学会大会
    Yuko Kaneko, Shu-Ichi Watanabe. Voltage-gated sodium channel subtypes expressed in dopaminergic amacrine cells in the rat retina. The Journal of Physiological Sciences 60, Supplement, S136 (2010)

    2009年
    39th Annual Meeting of Society for Neuroscience 2009(第39回北米神経科学会)(Chicago, USA)Fuminobu Tamalu, Shu-Ichi Watanabe. Body temperature optimizes the synaptic transmission from retinal rod bipolar cells to AII amacrince cells.

    第13回視覚科学フォーラム
    田丸文信、渡辺修一
    桿体入力型双極細胞からAIIアマクリン細胞へのグルタミン酸放出は温度依存性である

    第32回日本神経科学学会
    Yuko Kaneko, Shu-Ichi Watanabe. Voltage-gated sodium channel subtypes expreesed in the inner nuclear layer of the rat retina. Neuroscience Research 65,Supplement, S171 (2009)

    36th International Congress of Physiological Sciences(IUPS2009,第86回日本生理学会大会)
    Fuminobu Tamalu, Shu-Ichi Watanabe.Optimizatio of the synaptic transmission by body temperature in the mouse retina. The Journal of Physiological Sciences 59,Supplement1,p139 (2009)

    36th International Congress of Physiological Sciences(IUPS2009,第86回日本生理学会大会)
    Yuko Kaneko, Shu-Ichi Watanabe. Expression pattern of voltage-gated sodium channel subtypes in retinal amacrine cells of the rat retina. The Journal of Physiological Sciences 59,Supplement, 250 (2009)

    (その他)
    2009年
    田丸文信(2009)「IUPS 2009 Whole-day symposium “Processing and integration of sensory information”と感覚合同グループディナー“Sensory Physiology Social Dinner”に参加して」(日本神経科学学会 神経科学ニュース No.5(通巻177)p.18-20