シナプス接着仮説による神経疾患の発症メカニズム解明

 

(背景)
 シナプス接着分子は、神経細胞が情報をやり取りするシナプスという構造の形成・安定に関わる重要なタンパク質群です。中でも、ニューレキシン(NRXN)ニューロリギン(NLGN)は、シナプス間隙で結合することで適切なシナプスを形成し、その維持にも役立っています。NRXNとNLGNは共に自閉症スペクトラム(ASD)の遺伝的原因として知られています。
 NRXNやNLGNに変異が入ると、NRXNやNLGNが膜に局在出来なくなったり、適切な結合が阻害されたりします。動物実験ではこの変異の導入が、社会性行動の異常を呈することが明らかになっています(図1)。
 またNRXNとNLGNはアルツハイマー病における老人斑の構成要素であるアミロイドβ(Aβ)と相互作用することが示されています。


 

 

(研究内容)
  当研究室では、NRXNとNLGNの結合を制御する分子に着目し、ASDやアルツハイマー病の発症メカニズムを明らかにすることを目指しています。当研究室では、ASDの発症に深く関わっている、男性ホルモン(TSTN)がNRXN-NLGN結合を阻害することを明らかにしました。また、NRXN-NLGN結合の阻害により、社会性行動にも傷害が認められました。これらのことから、NRXN-NLGN結合の阻害がシナプス形成に異常を起こすことで、ASDの発症を招くという仮説を導きました。
 また、AβもNRXNおよびNLGNと相互作用することから、発生段階でのTSTNによるNRXN-NLGN結合の阻害がASDなどの発達障害を、老齢段階でのAβによるNRXN-NLGN結合の攪乱がアルツハイマー病を引き起こすという、シナプス接着仮説を提唱し、その正否を明らかにするべく研究を行っています(図2)。


 


(関連論文)
Yagishita-Kyo N*, Ikai Y, Uekita T, Shinohara A, Koshimoto C, Yoshikawa K, Maruyama K, Yagishita S. Testosterone interrupts binding of Neurexin and Neuroligin that are expressed in a highly socialized rodent, Octodon degus. Biochemical and Biophysical Research Communications. 2021, 551, pp54-62, DOI: 10.1016/j.bbrc.2021.03.015
                            

2024年04月15日