埼玉医科大学雑誌 第50巻 第1号 (令和5年8月) 1-8頁◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています

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原 著
選択的帝王切開術における脊髄くも膜下麻酔後低血圧に対するノルアドレナリンと
フェニレフリンの母児アウトカムへの影響:後方視非劣性試験

中野 由惟1)*,川崎 洋平2,3),加藤 崇央2),照井 克生1)
1)埼玉医科大学総合医療センター 産科麻酔科
2)埼玉医科大学総合医療センター 麻酔科
3)日本赤十字看護大学看護学部,千葉大学医学部附属病院生物統計室

〔令和4年4月7日受付/令和5年7月18日受理〕
Noradrenaline for treating maternal hypotension induced by spinal anesthesia
for elective cesarean delivery: a retrospective non-inferiority analysis


Yui Nakano1)*, Yohei Kawasaki2,3), Takao Kato2), Katsuo Terui1)
1) Department of Obstetric Anesthesiology, Center for Maternal-Fetal and Neonatal Medicine,
  Saitama Medical Center, Saitama Medical University
2) Department of Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
3) Japan Red Cross College of Nursing


背景:帝王切開術の麻酔法として脊髄くも膜下麻酔(脊麻)が推奨されている.しかし脊麻による急激で広範な交感神経遮断は母体低血圧をしばしば来し,迅速な治療なしには子宮血流減少から胎児徐脈とアシドーシスを来す.脊麻後低血圧対策としてのノルアドレナリン静注は現在標準的なフェニレフリンよりも母体心拍出量維持効果が高い.そこで,ノルアドレナリンがフェニレフリンと比較して,臍帯動脈pH(UA pH)に関して非劣性であるかどうかを後方視的に検討した.
方法:2017 年10 月から2018 年9 月の期間に脊髄幹麻酔下に選択的帝王切開術を受けた単胎妊婦を対象とした.2018 年4月までフェニレフリン(P 群),それ以降はノルアドレナリン(N 群)ボーラス静注を用いて,母体低血圧を治療した.主要評価項目はUA pH とし,非劣性マージンを0.01 として検討した.副次評価項目として新生児Apgar スコア,麻酔導入から児娩出までの母体の低血圧持続時間,血圧最低値,徐脈頻度を評価した.
結果:対象はP 群71 人,N 群66 人であった.UA pH はP 群7.327±0.033,N 群7.327±0.030 で,平均値差0.0004±0.0054(p=0.028)だった.重回帰分析にて調整したUA pH のノルアドレナリン群とフェニレフリン群の差は0.0003 であり,95%信頼区間−0.0046 から0.0051 であった.副次評価項目には両群に差はなかった.
考察:ノルアドレナリン群とフェニレフリン群のUA pH 差の95%信頼区間下限値が,設定した非劣性マージンである−0.01よりも高かったことから,ノルアドレナリンはUA pH に関してフェニレフリンと比較して非劣性であると考えられた.
結論:選択的帝王切開術における脊髄くも膜下麻酔後低血圧に対してUA pH におけるノルアドレナリンのフェニレフリンに対する非劣性が示された.

J Saitama Medical University 2023; 50(1): 1- 8
(Received April 7,2022/Accepted July 18,2023)

Keywords: cesarean delivery, spinal anesthesia, maternal hypotension, noradrenaline, phenylephrine, neonatal outcome,umbilical arterial pH


(C) 2023 The Medical Society of Saitama Medical University