埼玉医科大学研究シーズ集
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医学部図1. (A)最適化された酸性条件下の構造とエネルギープロファイル(B) HOMO-LUMOエネルギーレベルと分子軌道− 26 −土田敦子11教養教育量子化学計算は,実験器具や分析装置の代わりにパソコンを用いて理論的に分子構造・物性・反応を予測するための手段である。本研究では20~100原子程度の種々の低・中分子の有機化合物を対象とし,反応経路および電子状態の解析などを行っている。反応経路の解明に焦点を当てた研究の一例を紹介する。【南洋ハナショウガから得られるセスキテルペン・ゼルンボンの反応性の解明】ゼルンボンはユニークな骨格をもち,反応性が高く,多様な骨格を生み出すリード化合物として知られている。また,それ自身,癌に関係するEBウィルスの抑制作用、抗炎症作用の機能を持つことから,そこから生み出される骨格を変えた化合物についても,香料・抗菌剤あるいは抗癌剤への応用が期待されている。しかしながら,その各種反応はいずれも手順の簡潔さからは考えられないほどドラマチックであり,反応機構には不明な点が多い。例えば,ゼルンボンにエチレンを導入したアレン型ゼルンボンは酸性条件下において医薬品の基盤として重要な三環式化合物を生成するが,中性条件下において反応は生成しない。量子化学計算(密度汎関数法)を用いた反応経路の追跡により,酸性条件では反応の律速段階(図1A TS1)となるCC結合形成の活性化エネルギーが中性条件下よりも約20 kcal/mol低下すること,結合形成に関与する分子軌道のエネルギーギャップの縮小(図1B)がその理由の一因となっていることを明らかにした。反応機構の解明により,医薬品の基盤として有用な炭素骨格生成における収率の向上および新規骨格の生成経路の発見を目指す。得意な技術(ノウハウ)素反応の追跡。電子状態の解析。物性値の解析。知的財産・論文・学会発表学会発表土田敦子, 柏崎玄伍,北山隆. アレン型ゼルンボンを出発とする多環式化合物の合成経路に関する量子化学的研究. 日本化学会第103春季年会. 2023月3月18日.論文KashiwazakiG, WatanabeR,TsuzukiT, YamamotoC, NishikawaA,OhtomoS, YoshikawaT, KitamuraY, UtakaY, KawaiY, TsuchidaN,KitayamaT.Brønsted acid-induced transannulation of the phytochemical zerumbone.Org. Biomol. Chem.2021, 19, 10444-10454, 10.1039/D10B01634B教養教育講師土田敦子キーワード量子化学計算有機化合物反応機構励起状態構成員研究概要有機化合物の反応および物性に関する理論的研究

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