医学部− 49 −柳下-姜楠11医学部薬理学シナプス接着分子は、神経細胞が情報をやり取りするシナプスという構造の形成・安定に関わる重要なタンパク質群である。中でも、ニューレキシン(NRXN)とニューロリギン(NLGN)は、シナプス間隙で結合することで適切なシナプスを形成し、その維持にも役立っている。NRXNとNLGNは共に家族性自閉症の原因として遺伝子変異が知られている。家族性自閉症の変異が入ることで、NRXNやNLGNが膜に局在出来なくなったり、適切な結合が阻害されたりする。動物実験ではこの変異の導入が、社会性行動の異常を呈することが明らかになっている(図1)。またNRXNとNLGNは、アルツハイマー病における老人斑の構成要素であるアミロイドβ(Aβ)と相互作用することが示されている。当研究室では、NRXNとNLGNの結合を制御する分子に着目し、自閉症やアルツハイマー病の発症メカニズムを明らかにすることを目指している。当研究室では、自閉症の発症に深く関わっている、男性ホルモン(TSTN)がNRXN-NLGN結合を阻害することを明らかにした。また、NRXN-NLGN結合の阻害により、社会性行動に傷害が認められた。これらのことから、NRXN-NLGN結合の阻害がシナプス形成に異常を起こすことで、自閉症の発症を招くという仮説が導かれた。また、AβもNRXNおよびNLGNと相互作用することから、発生段階でのTSTNによるNRXN-NLGN結合の阻害が自閉症などの発達障害を、老齢段階でのAβによるNRXN-NLGN結合の攪乱がアルツハイマー病を引き起こすという、シナプス接着仮説を提唱し、その正否を明らかにするべく研究を行っている(図2)。得意な技術(ノウハウ)共免疫沈降によるタンパク-タンパク結合アッセイ構造相補性レポータ(NanoLuc)によるタンパク質間相互作用薬物投与による動物の社会性行動テスト知的財産・論文・学会発表学会発表柳下-姜楠, 上北朋子, 伊海結貴, 篠原明男, 越本知大, 柳下聡介, 丸山敬.高度な社会性を有する齧歯類O.degusの遺伝情報を用いた新たな自閉症スペクトラム障害発症メカニズムの解明.第42回分子生物学会年会.2019年12月3日Nan Yagishita-Kyo, Kei Maruyama.Highly concentrative testosterone impaired social behavior by interrupting Neurexin and Neuroligin binding. Neuro2022. 2022年7月2日論文Yagishita-Kyo N*, Ikai Y, Uekita T, Shinohara A, Koshimoto C, Yoshikawa K, Maruyama K, Yagishita S. Testosterone interrupts binding of Neurexin and Neuroligin that are expressed in a highly socialized rodent, Octodon degus. Biochemical and Biophysical Research Communications.2021,551,pp54-62, DOI: 10.1016/j.bbrc.2021.03.015構成員研究概要シナプス接着因子、自閉症、アルツハイマー病、NRXN、NLGNシナプス接着仮説による神経疾患の発症メカニズム解明薬理学研究員柳下-姜楠キーワード
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