埼玉医科大学雑誌 第50巻 第2号 (令和6年3月) 61-66頁◇論文(図表を含む全文)は,PDFファイルとなっています

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症例報告
A case of revision surgery for loosening in a hinge-type knee arthroplasty
with massive tibial bone defect performed approximately 50 years ago

Akira Izumi1,2)*, Kensuke Nakamura2), Naohiro Izawa1), Yuho Kadono1)

1)Department of Orthopaedic Surgery, Saitama Medical University Hospital
2)Department of Orthopaedics, Saitama Red Cross Hospital


約50年前に行われたヒンジ型人工膝関節で脛骨巨大欠損を伴う弛みに対して
再置換を行った1例


泉 亮良1,2)*,中村謙介2),伊澤直広1),門野夕峰1)

1)埼玉医科大学病院 整形外科・脊椎外科
2)さいたま赤十字病院整形外科


症例:63歳男性,主訴は左膝から下腿の疼痛による歩行困難.
現病歴:15歳時に交通事故により重度の左膝開放脱臼骨折を受傷した.当時の医療レベルでは再建困難な脛骨巨大欠損があったが,大腿切断ではなく,当時は信頼性の乏しかった人工関節による患肢温存が選択された.術後経過は良好で,成人後は,身体障害者ゴルフの選手となるほど活動性は高かった.62歳時より膝の不安定感が生じ,その後疼痛で歩行困難となり当科受診.単純X線にて大腿骨,脛骨両方のコンポーネントの弛みと菲薄化による脛骨骨折が見られ,2ヶ月間の外固定による保存治療後,TKA再置換術を行った.
手術方法:使用されていた機種はShiers(1953年)というヒンジ型人工関節であった.ヒンジの結合部の支柱を叩き出して分離した後,大腿骨・脛骨コンポーネントとも容易に抜去可能であった.脛骨の母床への接触面積が全周の3分の2以上となるように骨切り部を決め,脛骨外側部の欠損に対しては、同種骨移植を用いたImpaction bone graft法で,メッシュは用いず外側の瘢痕膜をcement blockによるinduced membraneと考え欠損再建を行った.MCL付着部以遠の骨切りとなるため,腫瘍用インプラントを選択した.膝蓋骨は存在せず伸展機構は瘢痕組織のみであった為,ファイバーワイヤーで脛骨インプラントと締結後,4週間のギプス固定とした.
結果:術後1ヶ月で独歩獲得,6ヶ月でゴルフを再開した.現在術後3年で移植骨は生着しており,インプラントの弛みはない.KSS2011は術前24点から術後85点まで改善した.
結語:約50年前に行われたヒンジ型人工膝関節で,脛骨巨大骨欠損を伴う弛みに対する再置換を行う極めて稀な症例を経験したので詳細を報告する.

J Saitama Medical University 2024; 50(2): 61- 66
(Received December 25, 2023/Accepted February 20, 2024)

Keywords:revision TKA, bone defect, IBG


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