炎症性腸疾患 【Inflammatory Bowel Disease:IBD】

■はじめに

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といい、クローン病と潰瘍性大腸炎がIBDの代表です。これらの疾患は若年発症で、長期間に複雑な経過をたどります。そのため、病期や患者の生活習慣に応じた治療が必要になります。

■疫学

@ クローン病:好発年齢は10歳代後半から20歳代に多く、男女比は約2:1で男性に多い傾向にあります。手術率は発症10年で70.8%であり、平成16年度医療受給者証交付件数でみると23188人が登録されています。
A 潰瘍性大腸炎:発症年齢はピークで20〜29歳ですが、若年者から高齢者まで発症し、性差はみられません。平成14年度には77073人が登録されており、毎年増加の一途をたどっています。

■症状

@ クローン病:腹痛、下痢、体重減少、発熱、肛門病変などがよくみられる症状です。ときに腸閉塞、腸穿孔、大出血で発症することもあり、手術が必要な場合があります。合併症として痔ろう、貧血、低蛋白血症、強直性脊椎炎、口内アフタ、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎、成長障害などがあります。
A 潰瘍性大腸炎:血便、粘血便、下痢、あるいは血性下痢を呈します。軽症例では血便が少量で下痢を伴わない場合も多いが、より重症化すれば、血性下痢となります。これ以外の症状としては腹痛、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などが加わります。

■診断

クローン病・潰瘍性大腸炎ともに臨床所見の把握が大切です。造影X線検査、内視鏡検査、生検など詳細な検査で特徴的な所見が得られたらば、各々の診断基準を参照し診断します。

■治療

@ クローン病:本症を完治させる根本的な治療法はなく、薬物療法・栄養療法・外科療法を組み合わせて、栄養状態を維持し、症状を抑え、炎症の再燃・再発を予防することにあります。
A 潰瘍性大腸炎:容態によっては入院のうえ、脱水、電解質異常(特に低カリウム血症)、貧血、低蛋白血症、栄養障害などに対する対策が必要です。激症例は急性増悪の可能性が高いため、内科と外科の連携のもと短期間で手術の選択を決定します。

〈薬物療法〉

一般的にサラゾスルファピリミジン(商品名サラゾピリン)、メサラジン(商品名ペンタサ)などの5-アミノサリチル酸製剤と副腎皮質ステロイド剤が代表です。
クローン病では抗TNFα抗体を用いた抗サイトカイン療法が標準となりつつあります。潰瘍性大腸炎ではアザチオプリンや6-MPなどの免疫抑制剤、薬物療法以外に透析を用いた白血球除去療法もあります。

〈外科療法〉

■絶対的適応

以下のような場合には手術が行われます。
@穿孔:腸管に穴が開くA大出血B中毒性巨大結腸症:大腸が拡張し毒素が産生され、全身に周るC癌が並存する

■相対的適応

一般的に「ステロイドの総使用量が10000mgを超えたら手術」と言われています。最近は手術技術の向上や情報が普及したため、手術を希望する人が増えてきました。重篤な副作用が出る前に、安定している緩解期を狙って手術する方が、より安全で高い術後QOL(生活の質)を保てる可能性が高いと考えられます。また、術後、速やかにステロイドから離脱できるという大きなメリットがあります。

■手術方法

@ クローン病:病状に応じた様々な手術が行われます。
A 潰瘍性大腸炎:

回腸嚢肛門管吻合術:IACA

1-2cm程の直腸(粘膜)を残して、大腸を切除します。直腸の代わりに便を溜めるポーチ(嚢)を小腸で作り、肛門管に繋ぎます。わずかに残った直腸粘膜に炎症が再燃したり癌化する可能性は残ります。粘膜を完全に除去する回腸嚢肛門吻合術よりも「術後の排便回数・漏便頻度が少ない」と言われています。

直腸粘膜切除・回腸嚢肛門吻合術:IAA

大腸を全て摘出し、小腸で作ったポーチ(嚢)を肛門に繋ぎます。肛門管吻合術では残ってしまう直腸粘膜も全て切除します。そのため、粘膜の再燃・癌化の危険性がなくなります。手術の難易度が高いため、熟練した技術が必要で、安全の為に複数回に分割して手術をおこないます。当院では年間10例以上のIAAを施行し良好な成績をあげています。IAAはIACAに比べて術後の肛門の回復が遅く、トイレ回数や便回数が多いと言われていますが、術式の差より個人差の方が大きいようです。

回腸嚢肛門吻合術:IAA
回腸嚢肛門管吻合:IACA
引用:Digestive Surgery 大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術p.146〜

その他、緊急の手術の場合には大腸を全摘し、一時的に小腸で人工肛門造設を行うこともありますが、最初からこの手術が選ばれる事はほとんどありません。

※腹腔鏡併用手術:腹腔鏡を併用して、開腹創を小さくして手術を行います。傷が小さいため痛みも少なく、癒着防止や回復の速さも見込めます。当院では積極的にこの術式を取り入れ良好な成績をおさめています。