解説
下肢難治性潰瘍の病態1:血管障害による下肢潰瘍
膠原病などを原因としたものや悪性腫瘍など特殊なものを除き、下肢潰瘍で頻度が高く典型的なものは①血管障害による潰瘍、②糖尿病による潰瘍です。
血管障害による下肢潰瘍の病態を解説します。
[1] 皮膚潰瘍の原因となる血管病変
動脈性と静脈性に大別されます。潰瘍そのものの治療以前に原疾患の理解が必要となるのは言うまでもありません。
I 動脈性(虚血性)潰瘍
末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)による潰瘍です。PADには閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans: ASO)とバージャー(Buerger)病(閉塞性血栓性血管炎; thromboangitis obliterans: TAO)があり、頻度として前者がほとんどです。
特殊な病態としてblue toe syndromeについても説明します。
(1)閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis obliterans: ASO)
① 疾患の概念
大動脈および腸骨動脈、大腿動脈など下肢への血管に動脈硬化が起こり内腔が著しく狭窄または閉塞して、患肢が虚血になることで症状を発症する疾患です。高年齢層に多く、動脈硬化を基礎疾患とする高血圧、糖尿病、心筋梗塞、脳血管障害などの合併症を背景とし、とくに糖尿病合併の頻度が高いです。
② 症状
下肢への動脈が閉塞するとさまざまな虚血症状がみられます。症状を軽いものから重いものへ4段階に分けたFontaine(フォンテイン)の分類がよく用いられます。
I度:足の冷汗やしびれ感。
II度:少し歩くとフクラハギや足底部の筋肉が痛くなるが、休むと軽快する。この症状を間歇性跛行(かんけつせいはこう)(intermittent claudication: IC)という。
III度:足を動かさなくても足部に痛みを生じる。足を下垂していると少し軽快する安静時疼痛を生じるもの。
IV度:足趾や足部に潰瘍や壊死を生じ、適切な治療が行われなければ、下肢の切断が必要になる可能性のあるもの。
慢性虚血性安静時疼痛(2週間以上持続)や潰瘍・壊疽などの虚血性皮膚病変を呈するもの(上記Fontaine III度またはIV度)は重症下肢虚血(critical limb ischemia: CLI)と呼ばれます。近年では、虚血のみならず、神経障害、感染などの肢切断リスクを持ち、治療介入が必要な下肢の総称として、包括的高度慢性下肢虚血 (Chronic Limb threatening Ischemia:CLTI )という概念が提唱されています。
③ 動脈性潰瘍の特徴
皮膚潰瘍の部位としては足趾、足背、足底に多くみられ、下腿にもしばしば生じます。動脈性潰瘍は下腿外側に多く辺縁明瞭で円形に近く、筋膜や筋肉に及ぶことも少なくありません。また周辺皮膚に色素沈着を認めません(図1)。(これに対し静脈性下腿潰瘍は主に下腿内側に発生し、辺縁不規則で筋膜より浅く、周辺に色素沈着を伴います(後述))
(2)バージャー(Buerger)病(閉塞性血栓性血管炎; thromboangitis obliterans: TAO)
① 疾患の概念
四肢の中・小動脈を分節的に侵す非動脈硬化性の炎症性動脈閉塞疾患で若年(20-40歳)のheavy smokerに好発します。病変の寛解・増悪の背景に喫煙があるのが特徴です。
好発動脈は下肢ではASOと対照的に浅大腿動脈病変が少なく、膝窩動脈から下腿動脈に分節病変を形成します。
② 症状
初発症状は冷感、知覚異常、チアノーゼ、間歇性跛行(intermittent claudication: IC)、安静時疼痛、指趾潰瘍、壊疽などです。TAOはASOと異なり安静時疼痛や潰瘍・壊疽で初発する例があることからFontaine分類は適用するべきでないと言われます。
(3)Blue toe syndrome
① 疾患の概念
突然生じる足趾の冷感、疼痛、網状斑を主徴とする疾患で大動脈など大血管壁に存在する粥状硬化巣や動脈瘤の壁在血栓から微小塞栓(コレステロール結晶)が飛散し、足趾の小血管を閉塞し発症します。
微小塞栓飛散の原因として大血管手術や血管内治療(endovascular therapy; EVT)などの血管内操作による機械的損傷あるいは動脈瘤に対するワーファリン、ヘパリンなどによる抗凝固療法があげられます。誘因なく発生する特発性のものもあります。
② 症状
早期に足趾、足底にかけてlivedo様紅斑(網状斑)、冷感、疼痛が出現し、進行するにつれて紫斑、blue toesを呈します(図2)。さらに進行すると、足趾の潰瘍・壊死を生じます。
腎動脈、腸間膜動脈などの内臓動脈にも塞栓を来すため各種臓器障害を生じる
ことがあり、総称してコレステロール結晶塞栓症(Cholesterol Crystal Embolization: CCE)といいます。
③ 治療
抗凝固剤を使用している場合は中止します。ステロイド、prostaglandin製剤、LDL吸着療法などが有効であると報告されています。
動脈性潰瘍の診断・治療については治療の項をご覧ください。
II 静脈性潰瘍(うっ滞性潰瘍)
動脈から送り出された血液は組織に酸素・栄養を供給した後静脈を通って心臓に戻りますが、下肢では血液が重力に逆らって流れねばならないので逆流しやすい状況にあります。逆流を防止するため静脈にはところどころに弁がありますが、この弁がうまく働かないと血液が逆流し、うっ滞による障害が生じることになります。この状況が慢性静脈不全症(chronic venous insufficiency: CVI)で静脈性潰瘍の原因となる病態でです。
① CVIの病態
下肢の主な静脈は、深部静脈系と表在静脈系(大伏在静脈と静脈およびその枝)から成り、穿通枝(交通枝)が両者を繋ぎます(図3A)。これらの静脈系の弁に機能不全が生じると深部静脈血が表在静脈、皮下組織に逆流し、静脈瘤や皮膚障害を起こします。静脈弁不全は深部静脈、表在静脈、穿通枝のいずれにも起こる可能性がありますが、穿通枝弁不全の頻度が最も高いです(図3B)。誘因として立ち仕事、妊娠・出産、遺伝的要因などがあります。
② CVIの症状と診断
自覚症状としては下肢重量感、立位による緊満感、浮腫、夜間の痙攣(足がつる)などがあります。
静脈瘤を認めるものは見た目から比較的診断が容易といえますが、静脈瘤を認めないものもあります。後者では下腿の腫脹、発赤、板状の皮下硬結をみることから、うっ滞性脂肪織炎、強皮症様皮下組織炎、硬化性脂肪織炎などとも呼ばれます。この診断に関しては動脈性潰瘍、膠原病などに合併する血管炎、感染症、血液疾患、壊疽性膿皮症などを除外しなければなりません。
視診・触診による診断以外に血管エコー、MR angiographyなどを行います。
③ CVIによる皮膚潰瘍
皮膚潰瘍の部位は下腿下3分の1の内側に多いですが、足背、下腿外側にもみられます。大きさや形状は様々で辺縁は不規則で、潰瘍は浅く、動脈性潰瘍と異なり、筋膜を貫くことは通常ありません。周辺皮膚は色素沈着を認め、肥厚、硬化します(図4)。
④ CVIの治療
保存療法
すべての静脈性潰瘍の直接病因は下腿の静脈圧上昇です。足部を下げている肢位では上昇した静脈圧より高い圧力で弾性包帯や弾性ストッキングで持続的に圧迫療法を行うことが基本です。圧迫療法は潰瘍が治癒しても永続することが肝要となります。
腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)の運動は筋のポンプ作用で静脈の還流が改善すると報告されています。
外科療法
表在静脈の弁不全と筋膜下穿通枝の弁不全による深部静脈からの逆流が原因の静脈性潰瘍に対しては圧迫療法をしつつ、外科的な表在静脈の処理と適宜静脈瘤摘出術を行います。これについては、現在、血管外科で専門的な加療を行っており、血管外科へ紹介させていただいています。
いずれの外科療法の後でも再発予防のため圧迫療法の継続が推奨されます。
下肢難治性潰瘍の病態2:糖尿病性足病変
糖尿病は一言でいえば膵臓から分泌されるインシュリンの不足または作用低下によって糖分がうまく体内で利用されず、血液や尿の糖が過剰になる病気です。過剰な糖は血管の壁へ付着することで血管を障害していきます。血管がもろくなったり、血液の流れが悪くなったり、血管の動脈硬化がすすんだり、さらには血管がつまったりすることで合併症を起こします。
[1] 糖尿病の合併症
糖尿病の血管障害は大きく二つに分類されます。その二つとは微小血管障害(microangiopathy)と大血管障害(macroangiopathy)です。
微小(細小)血管障害は糖尿病では特に目の網膜と腎臓の血管に起こりそれぞれ糖尿病性網膜症(後天的な失明の多くはこれが原因)、糖尿病性腎症(透析患者さんの多くはこれによる)となります。この二つに糖尿病性神経障害を加えて糖尿病の三大合併症といいます。
[2] 糖尿病性足病変とは
糖尿病は皮膚にも合併症をもたらします。これは足部に好発してひどい場合は切断となるのでquality of lifeに重大な影響を及ぼします。世界保健機構(WHO)では「神経学的異常といろいろな程度の末梢血管障害を伴った下肢の感染、潰瘍形成、または深部の破壊」を糖尿病性足病変(diabetic foot)と定義しています。
[3] 糖尿病性足病変のメカニズム
神経障害と血管障害のどちらか、あるいは両者が合わさって病変を生じますが、典型的な糖尿病性足病変は主に神経障害性です。
(1)神経障害がなぜ足病変をひき起こすか?
血管障害では酸素供給が途絶えて組織が虚血壊死に陥るため潰瘍が生じるというプロセスをすぐ理解できますが、神経障害がなぜ壊死や潰瘍をひき起こすかはすぐには納得できないかもしれません。
神経には皮膚の感覚を担う知覚神経、筋肉の動きを司る運動神経、血流や発汗を調節する自律神経があり、それぞれの障害が潰瘍に繋がります。
① 知覚神経障害
痛みを感じにくくなり、皮膚が傷ついても気付かないため悪化して潰瘍となる。靴擦れや靴の中の異物に気付かず潰瘍ができることもあります(図4)。熱さにも鈍くなるので熱傷を負って潰瘍になることもあります。
② 運動神経障害
筋肉を支配する神経の障害によって骨間筋が萎縮し足が変形する。足趾が背屈する変形(ハンマー趾 hammer toe)が特徴的です。この変形によって中足骨骨頭部に荷重が集中するようになり、背側に出っ張った趾関節は靴にあたって圧迫されます(図5)。中足骨骨頭部の角質が増生して胼胝(タコ)ができやすくなります。胼胝ができても患者は痛みを感じないので歩き続けてしまします。そのためさらに胼胝が硬く厚くなり、直下の軟部組織を傷つけて潰瘍ができるわけです(図6)。また足趾関節にも潰瘍を形成します(図7)。
③ 自律神経障害
自律神経は血管にまとわりつき血管平滑筋を収縮させたり弛緩させたりして血流を調節しています。血流の調節は酸素供給以外に体温調節に大きな役割を果たしている。寒いときには皮膚血管は収縮して外界に近い体表の血流を少なくして血液の熱が外に逃げないようにします。逆に暑いときは皮膚血流を増加させ熱を外に放出します。この際に「動脈→細動脈→毛細血管→細静脈→静脈」という通常の経路では毛細血管など細い血管の抵抗が強く、あまり多くの血液を流すことができません。そのため細い血管を通らずに動脈と静脈を直接結ぶ血管があらかじめ存在しており、ここに血液を通せば抵抗が小さいため多量の血液を流すことができます。この血管を動静脈シャント(AV
shunt)といいます(図8)。この血管は自律神経に支配されて血流増大が必要な時(暑いときなど)だけ開くように調節されています。
糖尿病で自律神経が障害されると必要もないのにこの動静脈シャントが開いてしまい、その結果皮膚血流量は多いのに酸素供給等の機能を担う微小循環を介さない血液が増えてしまうため循環障害となります。
また、自律神経障害によって発汗も障害され、皮膚が乾燥します。乾燥した皮膚は亀裂が生じやすくこれも潰瘍の要因となります。
神経障害により足の骨・関節の融解・破壊も起こります。これによる足の変形をシャルコー関節(Charcot’s osteoarthropathy)と呼びます。この変形によっても局所に荷重が集中し、潰瘍形成の原因となります。
(2)血管障害大血管障害(macroangiopathy)すなわちASOによる虚血性障害が合併する例が多く治療に難渋します。
様々な程度の微小(細小)血管障害(microangiopathy)も起こり、神経障害や大血管障害と相まって、潰瘍・壊死の発症や増悪に関与します。
(3)感染
糖尿病では好中球機能(遊走能、貪食作用、殺菌能)の低下を中心とした免疫能力の低下が起こり感染に弱くなります。これも糖尿病性足病変の大きな要因で、気付かないような小さなひび割れなどから細菌が侵入します。一旦感染を合併すると微小血栓を形成し循環を悪化させ、壊死をまねきます(図9)。
神経障害、血管障害、易感染性が糖尿病性足病変の三大要因です。
治療方法
下肢動脈血流の評価と検査
(A)視診
皮膚に現れる血流障害の徴候をみます。
a) チアノーゼ、蒼白
b) 脱毛
c) 爪の萎縮、肥厚
d) Blue toe syndrome(解説を参照)
e) Pink painful ischemic foot: CLIでは毛細血管前後の血管が拡張しているため、下垂した際に足がピンク色(紫色)になることがしばしばあります(rubor on pendency)(図10A)。また灌流圧が低いため患肢を挙上すると蒼白となります(palor on elevation)(図10B)。このような状態の患者は虚血性疼痛を訴えることが多いです。高度の安静時疼痛は下肢を下垂することで和らぐためベッドから下肢を垂らすか座位で睡眠をする場合もあり、患肢には浮腫が生じ虚血と疼痛がさらに悪化します。
感染による蜂窩織炎と間違えやすいので注意が必要です。虚血肢は冷たいが蜂窩織炎は熱感を有し足を挙上しても紅斑が持続することが多いです。
(B)検査
下肢動脈拍動の確認ドップラー聴診器を用いて足部で足背動脈、後脛骨動脈の血流音を確認します(図11)。聴こえない場合や音が微弱な場合はそれより中枢の動脈に閉塞や狭窄があることを疑います。
Ankle brachial pressure index (ABPIまたはABI)ドップラー聴診器を利用して血圧測定と同様の方法で足部の足背動脈や後脛骨動脈のドップラー音が聴取できる圧を測定します。同時に上腕の血圧を測定し、下肢の血圧との比(ABI=下肢の血圧/上肢の血圧)を求めます。正常値は0.95以上1.3未満で、0.9以下の場合は何らかの虚血があると疑います。
仮に正常値であっても、動脈硬化や石灰化により血管が硬くなり、加圧で動脈が閉塞しにくくなるため、虚血があるにもかかわらずABIが低下しないこともあるので注意が必要です。
経皮的酸素分圧(transcutaneous oxygen pressure: TcPO2)43-44℃に加温したセンサーを皮膚にあて、その部の血流をできるだけ増加させて微小血管から拡散する酸素分圧を皮膚を通して計測します(図12)。下肢の正常値は仰臥位にて40mmHg以上で、20mmHg以下では重症虚血肢となり創傷の治癒機転が働く血行を有していないことを示します。
皮膚灌流圧(Skin perfusion pressure:SPP)計測したい部位にレーザードップラー血流計のセンサーを装着し、その上を血圧計のようなマンシェットを巻きます。加圧し皮膚微小循環血流を途絶してから徐々に減圧し、血流が回復する圧をみる検査で(図13)、その圧がSPPになります。創部におけるSPP値が30mmHg以下になると創傷治癒機転が働かないと考えられています。
血管超音波腹部大動脈から足趾動脈にかけて非侵襲的に血管内腔の観察することができます。カラードップラー法、パルスドップラー法を用いて血流量を測定することもできます。
MR angiography (MRA)ガドリニウム造影剤を使用する造影MRAと使用しない非造影MRAがある。末梢動脈まで描出するには造影MRAが勧められます。
非造影MRAは撮像時間が長くかかるが繰り返し評価が必要な症例やスクリーニングに適しています。
MRAは多方向から画像検索が可能です。
CT Angiography(CTA)ヘリカルCTの検出器を複数配列したMDCT(Multidetector-row CT)が開発され鮮明な画像が得られるようになりました。1 mm以下のスライス厚で1回の撮像から再構成された画像は自由な角度から表示できますが、ヨード造影剤の使用や放射線被爆、血管の石灰化によるアーチファクト(ノイズ)などが難点です。
血管造影検査としては侵襲性が高く、最近では血管エコー、MRA、MDCTなどの非侵襲的検査が発展してきたため診断目的のみで実施されることは少なくなりましたが、直接的によりリアルな血流の評価が可能です。現在では血行再建術を前提で行われることが多く、CTA同様、ヨード造影剤の使用や放射線被爆などが難点です。
神経障害の評価と検査
神経障害には知覚神経障害、運動神経障害、自立神経障害がありますが、糖尿尿病性足病変に代表される病態です。
① 知覚神経障害
痛みを感じにくくなり、皮膚が傷ついても気付かないため悪化して潰瘍となります。靴擦れや靴の中の異物に気付かず潰瘍ができることもあります。温度に対する感覚も鈍くなるので熱傷を負って潰瘍になることもあります。
Semmes-Weinstein monofilament test:足のさまざまな部位(特に足趾、前足部、中足骨骨頭部)に直径の異なるナイロン製のフィラメントを当て屈曲するまで加圧して触知可能かを調べます(図14)。
② 自律神経障害
自律神経障害は足部の視診と全身の自律神経検査により判断します。
視診a) 皮膚乾燥:糖尿病の自律神経障害では一般に上半身の発汗は多くなるが、足の発汗は抑制され乾燥する。乾燥のため胼胝も硬くなる。
b) 皮膚亀裂:乾燥のため特に足底に亀裂が生じやすい。
c) 静脈怒張:動静脈シャント(AV shunt)開大のため足背、足関節部の静脈が怒張する。
d) 脱毛:PADなどによる虚血または動静脈シャント開大による皮膚微小循環血流の減少により。脱毛する。
③ 運動神経障害
視診運動神経障害に基づく筋肉萎縮、筋肉バランス異常、筋力低下などのため足変形や歩行障害が起こります。
a) 凹足変形 (pes cavus):足の甲が高くなり、中足骨骨頭部が下に突出します。足底圧が上昇して足病変を起こしやすくなります(図15)。
b) 足趾の変形:ワシ爪趾(claw toe: PIP, DIP関節の屈曲変形)(図16)、ハンマー趾(hammer toe: PIP関節屈曲, DIP関節の伸展変形)(図17)。
c) 歩行障害:筋力低下のため動揺性歩行などを生じることがあります。
④ 神経障害による骨・関節変形:シャルコー関節(Charcot’s osteoarthropathy)
シャルコー関節とは100年以上前にシャルコーが報告した神経障害を原因とする骨の破壊を示す病態です。種々の神経障害に付随して見られ神経病性関節症とも呼ばれます。
糖尿病性神経障害が原因となる場合はほとんど足関節以下に発生するがまれに膝関節にもみられます。骨・関節の破壊、靭帯の弛みにより足底のアーチが消失します。
骨破壊が進行すると足底に骨が突出します。典型的なものはrockerbottom deformity(ゆりかご底状変形、舟底型変形)と呼ばれる変形となります。足底が凸状となり多くは潰瘍を伴います(図18A)。足根骨間、足根中足関節の離開や変位がみられるようになります(図18B)。
下肢難治性潰瘍の治療
動脈障害、神経障害(糖尿病)による下肢潰瘍についてその治療を解説します。
I 動脈性(虚血性)潰瘍の治療
(1)末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)治療の概要
内科的全身療法として運動療法と薬物療法、血行再建術として血管内治療、外科的バイパス手術などがあります。
Fontaine I度(無症候性)では禁煙、生活習慣の改善が中心となります。
Fontaine II度(間欠性跛行)では薬物療法および運動療法が推奨されており、効果がなければ血行再建を考慮します。
Fontaine III、IV度(安静時疼痛、潰瘍、壊疽)は、薬物療法とともに可及的早期に血行再建を考慮します。
(2)末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)の内科的治療
① 薬物療法
下肢の血流を改善するため以下のような抗血小板凝集抑制、血管拡張作用のある薬剤を用います。
(a) 経口薬
サルポグレラート(アンプラーグ®)、シロスタゾール(プレタール®)、ベラプロスト(プロサイクリン®)、チクロピシン(パナルジン®)、イコサペント酸(エパデール®)など
(b) 注射薬
リポPGE1(パルクス®、リプル®)、PGE1(プロスタンジン®)
② 運動療法
Fontaine I, II度が適応となります。歩行訓練を中心とした運動療法の効果が多く報告されています。
(3)血行再建
① 血管内治療
血管内にカテーテルを挿入して動脈の狭窄・閉塞部位を治療します。血管内治療(Endovascular treatment:EVT)として、EVTという略語も使われます。
先端にバルーンがついたカテーテルを挿入し狭窄部でバルーンを膨らませて血管内腔を押し広げる経皮経管的血管形成術(Percutaneous transluminal angioplasty :PTA)が一般的です。この際、ステントと呼ばれる金網状のチューブを病変部に留置して内腔を確保することもあります。当院でも施行していますが、病変が複雑な場合などは、専門の病院へ紹介となる場合もあります。造影剤を使用するため腎臓の機能が悪い方では加療が難しいことがあります。
② 外科的バイパス術
人工血管や自家静脈(多くはご自身の大伏在静脈)を用いて行われます。
血流の悪い部分を飛び越えるように、血管をつないで脇道をつくる手術です。血管外科に紹介して施行いただきます。
補助療法)
③ LDLアフェレーシス
これ以上の血行再建が困難な ASO における潰瘍の改善を目的に使用します。患者の血管から取り出された血液を特殊な血液浄化器に直接灌流させることで、特定の物質を選択的に吸着除去し、微小血管の血流改善を促す治療です。血液を定期的に直接灌流させるため、透析をしていない方へは適応が難しい治療法です。
④ 高圧酸素療法
大気圧よりも高い気圧環境におくことで、高濃度の酸素を体内に供給し、血流の低下を補う治療法です。当院では行っていない治療ですので、他院へ紹介しての加療となります。
(4)潰瘍に対する治療
血行が改善したのちに創傷治療を実行するのが原則です。後述します。
II 神経障害性(糖尿病性)潰瘍の治療
(1)神経障害型足病変タイプI(胼胝・小潰瘍型)
胼胝・小潰瘍を繰り返すタイプ。運動神経障害のため足の変形を来し、荷重点が中足骨頭部に集中し胼胝を生じやすくなりまう。この状態に知覚神経障害が加わり、外傷や熱傷に気付かないことから潰瘍化します。
末梢の血流が保たれていれば血行再建の適応とはなりません。
治療
軽いものはフットウェア(後述)による除外力で対処します(図19)。深く難治性の潰瘍は皮弁手術などの外科的治療の適応となりますが(図20)、フットウェアによる術後管理を行わないと容易に再発するので注意が必要です。
(2)神経障害型足病変タイプII(感染型)
感染を主症状とするタイプ。足は温かく、創部は湿潤して悪臭があり、周囲皮膚に発赤を伴うが創傷治癒に必要な末梢血流は保たれているものです。程度は様々で時として敗血症を招くような重症感染も含むので、注意が必要です。
足底・足背の腱に沿って感染が拡大する傾向があります。これらを外科的に展開して感染部と壊死組織を徹底的に切除(デブリードマン)した後に、創部の環境を整えます。感染が沈静化した後に断端形成、植皮、皮弁などで創を閉鎖します(図21)。
(3)虚血性足病変
末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)を、合併したものは前節の動脈性(虚血性)潰瘍の治療に準じ血行再建を最優先します。血流不足の状況で外科的デブリードマンをすると切除断端から新たな壊死を招く危険があります(図22)ので、原則として外科的処置や手術は血行再建後に行います。しかし感染が著しく、速やかに切開排膿や壊死・感染巣の除去を要する場合には、可及的なデブリードマンを先行することもあります。
III 壊死組織の温存とautoamputation
種々の理由で積極的デブリードマンが行えない場合は壊死組織が害を及ぼさないように温存することもあります。その際は感染を防ぎつつ壊死部分を乾燥させてミイラ化を誘導します。
除菌・保清のため毎日足を洗浄したうえで抗菌作用の強い外用剤を塗布します。理想的なのは壊死部分が自然脱落してその下の皮膚が治癒しているという経過であり、このような自然脱落をautoamputationと呼びます。(図23)
IV 大切断(Major amputation)~膝下や膝上での切断~
種々加療をしても壊死の進行、激しい疼痛、重症の進行性感染が治まらない場合はやむを得ず大切断となります。
V フットケア
足潰瘍の治療後に再発を予防するためフットケアを励行します。具体的に以下のようなマネージメントをふくみます。
(1)爪病変① 爪白癬に対する白癬治療指導
② 爪甲鉤彎症に対する爪切り
③ 陥入爪の爪処置
(2)足病変① 趾間型、角化型足白癬に対する白癬治療・指導
② 足底の角化症に対する角質削り
③ 胼胝・鶏眼に対する角質削り
④ 足潰瘍や感染性皮膚疾患に対する足浴および指導
⑤ 歩行指導
VI フットウェア
フットウェアには、足底装具・医科向け靴・特殊靴のような足部に装着するものから、下肢全体の機能を補う装具まで様々なタイプのものがあります。足潰瘍を治療・予防するうえで、除圧・免荷は必須であり、それを実行する有力な方法の1つがフットウェアです。
フットウェアの目的は下記の通りです。
① 疼痛の軽減
② 治療中の除圧、免荷
③ 早期治癒の補助
④ 治癒後の再発予防
⑤ QOLの維持
それぞれの治療過程に応じて目的に合ったものを装着します。