埼玉医科大学雑誌 第39巻
埼玉医科大学雑誌 第39巻 第1号(2012年8月発行)
学内グラント 終了時報告書
P1-3 | 生理活性物質をリード化合物とする構造展開による多発性骨髄腫の新規分子標的薬の開発 | 研究代表者:佐川 森彦
研究分担者:木崎 昌弘,得平 道英, 根本 朋恵,富川 武樹 |
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P4-8 | 関節リウマチにおけるエピジェネティクス制御の異常の解明 | 研究代表者:荒木 靖人 | |
P9-13 | インフルエンザウイルス特異的CTLの誘導を増強するプラットフォームの開発 | 研究代表者:川野 雅章
研究分担者:松井 政則,禾 泰壽, 半田 宏 |
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P14-18 | ペプチド表面結合リポソームワクチン用C型肝炎ウィルスCTLエピトープの同定 | 研究代表者:高木 徹 | |
P19-23 | Coherent Anti-Stokes Raman Scatteringによる無侵襲血糖値モニターの研究 | 研究代表者: 戸井田 昌宏 | |
P24-28 | 咀嚼筋腱腱膜過形成症のプロテオーム解析 | 研究代表者:依田 哲也
研究分担者:坂本 安,佐藤 毅, 中本 文 |
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P29-32 | カルシウム非依存性ホスホリパーゼA2(iPLA2)欠損マウスにおけるウイルス感染防御 | 研究代表者:中野 貴成
研究分担者:松井 政則,小谷 典弘 |
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P33-35 | 着床不全に対する新規治療法の開発とその臨床応用 | 研究代表者:梶原 健
研究分担者:板倉 敦夫 |
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P36-38 | 脳内神経回路オシレーション発生におけるGABAニューロンの役割 | 研究代表者:伊丹 千晶
研究分担者:村越 隆之 |
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P39-40 | Arterial spin-labeled MRIを用いた鍼刺激前後の脳血流評価―片頭痛患者と健康成人の比較― | 研究代表者:山口 智
研究分担者:荒木 信夫,松田 博史, 本田 憲業,松居 徹,三村 俊英, 小俣 浩,菊池 友和,鈴木 真理, 田中 晃一,新井 千枝子 |
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P41-45 | 卵巣がんにおけるmicro RNAの新規マーカーおよび分子標的としての有用性の検討 | 研究代表者:長谷川 幸清 | |
P46-48 | 小児の駆出率の保たれた心不全の病態解明と発症予測への展望 | 研究代表者:増谷 聡
研究分担者:先崎 秀明 |
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P49-51 | GLUT4小胞輸送に必須な蛋白同定による糖尿病治療薬の開発 | 研究代表者:保坂 利男 | |
P52-53 | 新規消化管ホルモンIBCAPを標的にした膵β細胞再生の分子基盤の解明 | 研究代表者:横尾 友隆
研究分担者:豊島 秀男 |
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P54-55 | 生体吸収性素材を併用した自己組織化素材と自己組織幹細胞を用いた頭蓋骨再生法の開発 | 研究代表者:宮内 浩 | |
P56-58 | 次世代シーケンサーによる高速な既知の疾患遺伝子スクリーニング系の開発 | 研究代表者:神田 将和 | |
P59-60 | 肝胆膵術後,胆管―腸吻合部合併症予防を目的とした生体吸収性ステントの臨床応用 | 研究代表者:宮澤 光男
研究分担者:小山 勇,合川 公康, 利光 靖子,岡田 克也 |
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P61-62 | ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対する低侵襲な外科療法開発のための基礎的研究 | 研究代表者:佐藤 毅
研究分担者:福島 洋介,佐藤 智也, 千田 大 |
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P63-65 | 神経ペプチドを利用した多能性幹細胞から膵β細胞の分化・再生誘導と糖尿病の再生医療 | 研究代表者:松本 征仁
研究分担者:犬飼 浩一,平崎 正孝, Mark Huising,Wylie Vale |
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P66-68 | 次世代シーケンサーを活用した乳がんの新規診断・治療法の開発 | 研究代表者:伊地知 暢広
研究分担者:堀江 公仁子,佐伯 俊昭, 大崎 昭彦 |
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P69-70 | ペルオキシソーム局在プロテアーゼTysnd1の脳神経系での役割 | 研究代表者:水野 由美
研究分担者:穐田 真澄 |
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P71-73 | 皮膚扁平上皮癌におけるエストロゲンの役割 | 研究代表者:阿部 佳子
研究分担者:新井 栄一 |
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P74-76 | 小型尿路上皮癌細胞が持つ癌幹細胞的性格について | 研究代表者:周東 真代 | |
一括 | 学内グラント終了時報告書PDF |
学内グラント 終了後報告書
P77 | 視床下部インスリン/レプチン抵抗性の分子機構と摂食・糖代謝調節 | 研究代表者:小野 啓
研究分担者:住田 崇,鈴木 徳子 |
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P78 | がん幹細胞において野生型p53の活動を制限するnucleosteminの役割 | 研究代表者:加藤 英政
研究分担者:片野 幸,佐川 森彦 |
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P79 | 全ゲノムSNP解析を用いた日本人由来サルコイドーシス関連遺伝子の同定 | 研究代表者:田中 知明 | |
P80-81 | 新生犬心室機能特性とCa Sensitizerの有効性に関する研究 | 研究代表者:先崎 秀明
研究分担者:増谷 聡,関 満, 石戸 博隆 |
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P82 | 2型糖尿病における脳内酸化ストレスの動態とその制御による認知機能障害への効果 | 研究代表者:菅 理江
研究分担者:島津 智一,井上 郁夫 |
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P83 | アレルギー疾患患者における上・下気道連関の研究 | 研究代表者:永田 真
研究分担者:加瀬 康弘,中込 一之, 中村 晃一郎,森 圭介,松下 祥 |
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P84 | 交流磁界が細胞内Ca2+濃度の調整機能に及ぼす影響の解析 | 研究代表者:駒崎 伸二
研究分担者:猪股 玲子 |
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P85 | 細胞分化に伴う上皮Naチャネルの発現と組織内局在を規定する因子の同定 | 研究代表者:高田 真理
研究分担者:金子 優子, 青葉(藤牧) 香代,穂苅 茂 |
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P86 | 地域の社会福祉施設での早期体験実習は医学生の意識をどう変えるか | 研究代表者:佐藤 真喜子
研究分担者:荒木 隆一郎,柴崎 智美, 鈴木 洋通,森 茂久,有田 和恵, 鈴木 郁子,丸木 和子 |
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P87 | 食道ESD後の狭窄予防を目的とした新規生体内分解性ステントの開発 | 研究代表者:野中 康一
研究分担者:宮澤 光男,小山 勇, 喜多 宏人,合川 公康 |
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P88-91 | 標準化半定量Real-time PCR法(HIRA-TAN)を用いた呼吸器感染症の包括的起炎病原体の診断方法 | 研究代表者:平間 崇 | |
P92 | BOLD MRIを用いた腎機能評価法の確立 | 研究代表者:井上 勉
研究分担者:小澤 栄人,岡田 浩一, 竹中 恒夫,鈴木 洋通 |
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一括 | 学内グラント終了後報告書PDF |
TOPICS
P93-96 | 包括的がんセンターにおける精神腫瘍科の役割 | 大西 秀樹,石田 真弓 |
研究室紹介
P97-98 | 医学部 腎臓内科 | 鈴木 洋通 | |
P99-100 | 総合医療センター 皮膚科 | 伊崎 誠一 | |
P101-102 | 総合医療センター 病理部 | 田丸 淳一 | |
P103-104 | 医学部 薬理学 | 丸山 敬 |
Thesis(別頁)
T1-T7 | 漢方薬六君子湯の健常成人における血漿中消化管ホルモン濃度への作用 | 高林 英日己 |
Thesis
漢方薬六君子湯の健常成人における血漿中消化管ホルモン濃度への作用
高林 英日己
臨床医学研究系 内科学 消化器・肝臓内科学
医学博士 甲第1191号 平成24年1月27日 (埼玉医科大学)
【背景】
漢方薬の六君子湯は数百年前に我が国において確立された調合薬である.これまで慢性胃炎によると思われる上腹部症状や食欲不振に対して処方されてきたが,最近では新たな疾患概念である機能性胃腸障害の患者への投与が試みられ,胃運動を改善し,その上腹部症状や食欲不振を改善することが報告されている.しかし,これらの作用メカニズムは十分に解明されていない.
【目的】
六君子湯による上腹部症状改善作用のメカニズムを明らかにするために我々は消化管の運動や分泌機能の調節作用を有するアシルグレリン,デスアシルグレリン,ガストリン,コレシストキニン(CCK)の血漿濃度に対する六君子湯の効果を検討した.
【方法】
C21人の健常成人を被験者として上記の消化管ホルモンの測定のために血液検体を空腹期・流動食(300 Kcal)摂取1時間後・2時間後に採取した.1週間六君子湯を服薬後に同様に採血検査を施行した.アシルグレリン,デスアシルグレリン,ガストリン,CCKは市販の測定キットにて測定した.
【結果】
1週間の六君子湯投与により空腹期・食後2時間での血漿アシルグレリン濃度が六君子湯服薬前に比べて有意に上昇した.しかし,デスアシルグレリンおよびガストリンの血漿濃度には影響がなかった.1週間の六君子湯投与はCCKの空腹期の血漿濃度を低下させた.
【結論】
これらの結果より,六君子湯は空腹期と食間(食後2時間)のアシルグレリンの血漿濃度を上昇させ,空腹期のCCK血漿濃度上昇を低下させることが示唆された.六君子湯は少なくとも部分的にアシルグレリンとCCKの分泌への作用を介することで食前および食間の食欲亢進を促すことが示唆された.
漢方薬六君子湯の健常成人における血漿中消化管ホルモン濃度への作用
高林 英日己
臨床医学研究系 内科学 消化器・肝臓内科学
医学博士 甲第1191号 平成24年1月27日 (埼玉医科大学)
【背景】
漢方薬の六君子湯は数百年前に我が国において確立された調合薬である.これまで慢性胃炎によると思われる上腹部症状や食欲不振に対して処方されてきたが,最近では新たな疾患概念である機能性胃腸障害の患者への投与が試みられ,胃運動を改善し,その上腹部症状や食欲不振を改善することが報告されている.しかし,これらの作用メカニズムは十分に解明されていない.
【目的】
六君子湯による上腹部症状改善作用のメカニズムを明らかにするために我々は消化管の運動や分泌機能の調節作用を有するアシルグレリン,デスアシルグレリン,ガストリン,コレシストキニン(CCK)の血漿濃度に対する六君子湯の効果を検討した.
【方法】
C21人の健常成人を被験者として上記の消化管ホルモンの測定のために血液検体を空腹期・流動食(300 Kcal)摂取1時間後・2時間後に採取した.1週間六君子湯を服薬後に同様に採血検査を施行した.アシルグレリン,デスアシルグレリン,ガストリン,CCKは市販の測定キットにて測定した.
【結果】
1週間の六君子湯投与により空腹期・食後2時間での血漿アシルグレリン濃度が六君子湯服薬前に比べて有意に上昇した.しかし,デスアシルグレリンおよびガストリンの血漿濃度には影響がなかった.1週間の六君子湯投与はCCKの空腹期の血漿濃度を低下させた.
【結論】
これらの結果より,六君子湯は空腹期と食間(食後2時間)のアシルグレリンの血漿濃度を上昇させ,空腹期のCCK血漿濃度上昇を低下させることが示唆された.六君子湯は少なくとも部分的にアシルグレリンとCCKの分泌への作用を介することで食前および食間の食欲亢進を促すことが示唆された.
T9-T17 | 咀嚼筋腱腱膜過形成症の病態に関する組織学的検討ならびに元素組成分析 | 堀 直子 |
Thesis
咀嚼筋腱腱膜過形成症の病態に関する組織学的検討ならびに元素組成分析
堀 直子
臨床医学研究系 口腔外科学
医学博士 甲第1194号 平成24年2月24日 (埼玉医科大学)
【目的】
咀嚼筋腱腱膜過形成症は,咬筋および側頭筋における腱および腱膜の過形成による筋の伸展障害により生じる疾患であるが,腱および腱膜の病態については未だ不明である.本研究では,組織学的検討および元素分析により,この病態の解明を行うことを目的とした.
【対象と方法】
対象は,疾患群として側頭筋腱腱膜部分切除術を行った咀嚼筋腱腱膜過形成症患者6名(女性6名),対照群として開口制限がない顎変形症患者6名(男性2名,女性4名)とした.対象の側頭筋腱組織を組織学的に観察し,腱分化に関与するとされるGDF5,Smad8,Tenomodulinの発現を免疫組織化学的に観察した.また,電子顕微鏡による筋組織および腱組織の構造観察を行い,エネルギー分散型X線分析装置を用いて腱組織の元素組成について分析を行った.
【結果】
本疾患患者の側頭筋において,組織学的観察および卓上電子顕微鏡による観察では,腱組織に微小石灰化とみられる粒子様物質が散在していた.透過型電子顕微鏡における観察では,筋線維横断面の変性および血管内腔の狭小化がみられた.元素組成分析の結果では,腱組織に散在していた粒子様物質および粒子様物質周囲の腱組織からカルシウム,リンに加え,ケイ素が検出された.
【結語】
ケイ素を含む粒子様物質の散在および,粒子様物質周囲の腱組織におけるケイ素の集積が,本疾患の病態形成に影響している可能性が否定できないものと考えた.
咀嚼筋腱腱膜過形成症の病態に関する組織学的検討ならびに元素組成分析
堀 直子
臨床医学研究系 口腔外科学
医学博士 甲第1194号 平成24年2月24日 (埼玉医科大学)
【目的】
咀嚼筋腱腱膜過形成症は,咬筋および側頭筋における腱および腱膜の過形成による筋の伸展障害により生じる疾患であるが,腱および腱膜の病態については未だ不明である.本研究では,組織学的検討および元素分析により,この病態の解明を行うことを目的とした.
【対象と方法】
対象は,疾患群として側頭筋腱腱膜部分切除術を行った咀嚼筋腱腱膜過形成症患者6名(女性6名),対照群として開口制限がない顎変形症患者6名(男性2名,女性4名)とした.対象の側頭筋腱組織を組織学的に観察し,腱分化に関与するとされるGDF5,Smad8,Tenomodulinの発現を免疫組織化学的に観察した.また,電子顕微鏡による筋組織および腱組織の構造観察を行い,エネルギー分散型X線分析装置を用いて腱組織の元素組成について分析を行った.
【結果】
本疾患患者の側頭筋において,組織学的観察および卓上電子顕微鏡による観察では,腱組織に微小石灰化とみられる粒子様物質が散在していた.透過型電子顕微鏡における観察では,筋線維横断面の変性および血管内腔の狭小化がみられた.元素組成分析の結果では,腱組織に散在していた粒子様物質および粒子様物質周囲の腱組織からカルシウム,リンに加え,ケイ素が検出された.
【結語】
ケイ素を含む粒子様物質の散在および,粒子様物質周囲の腱組織におけるケイ素の集積が,本疾患の病態形成に影響している可能性が否定できないものと考えた.
T19-T31 | 全身性エリテマトーデス患者における血漿Pentraxin 3濃度の意義 | 島田 祐樹 |
Thesis
全身性エリテマトーデス患者における血漿Pentraxin 3濃度の意義
島田 祐樹
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学
医学博士 甲第1196号 平成24年3月23日 (埼玉医科大学)
【背景と目的】
Pentraxin 3(PTX3)は免疫や炎症,動脈硬化において重要な役割を担っている急性反応性蛋白である.IL-1やTNF-αなどの炎症刺激に反応して全身の細胞から産生されるため,局所的な炎症に敏感に反応する指標と考えられており,急性心筋梗塞,感染,自己免疫疾患の患者では血中のPTX3濃度が増加している.全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性炎症性の自己免疫疾患であるが,若年齢より動脈硬化が進行しており動脈硬化性心血管病による死亡率,罹病率が高い.そこで本研究ではSLE患者の血漿PTX3濃度を測定し,PTX3がSLEの疾患活動性を反映するか,血漿PTX3濃度高値はSLE患者における臓器障害および重症度や生命予後と関連するか,SLE患者の血漿PTX3濃度が動脈硬化の程度を反映するかについて検討した.
【対象と方法】
SLE患者70例および健常人53例より静脈血5mlを採取し,血漿PTX3濃度をELISA法で測定した.SLE患者の臨床所見,臓器障害,動脈硬化危険因子,炎症マーカー(CRP,ESR),SLE関連マーカー(抗ds-DNA抗体,CH50)について確認した.またSLEの疾患活動性評価にはSLE disease activity index(SLEDAI),British isles lupus assessment group index(BILAG Index)を利用した.潜在性動脈硬化の有無は頸動脈エコーにて確認した.
【結果】
SLE患者群の血漿PTX3濃度は健常対照群と比較して有意に高値を示した(6.8±9.4 ng/mL vs 2.2±1.1 ng/mL, p<0.001).SLE患者の血漿PTX3濃度はSLEDAI,BILAG Index,ステロイド投与量と正の相関があり,血清ヘモグロビンおよびアルブミン値とは負の相関があった.動脈硬化関連項目とは相関がなかった.SLEDAIは精神神経障害の配点が高いことから血漿PTX3濃度高値のSLE患者は精神神経障害を有する可能性が高いと考えられた.そこで精神神経障害の有無でSLE患者を比較した.精神神経障害のあるSLE患者の血漿PTX3濃度は精神神経障害がない患者と比較して有意に高値を示した(15.6±19.4 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.030).抗ds-DNA抗体価,CH50値,ステロイド投与量および抗リン脂質抗体の陽性頻度に差はなかった.横断性脊髄炎あるいは精神障害を呈したSLE患者では血漿PTX3濃度が著明に高かった.重症かつ生命予後不良と予測されるSLEDAI≧20のSLE患者はSLEDAI<20の患者と比較して血漿PTX3濃度が高かった(17.6±21.0 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.003).
【結論】
SLE患者の血漿PTX3濃度は健常人と比較して有意に高かった.血漿PTX3濃度はSLEの疾患活動性と相関があり,特に精神神経障害があるSLE患者で増加していた.SLEの血漿PTX3濃度は疾患活動性と重症度を反映するマーカーとして有用な可能性が示された.
全身性エリテマトーデス患者における血漿Pentraxin 3濃度の意義
島田 祐樹
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学
医学博士 甲第1196号 平成24年3月23日 (埼玉医科大学)
【背景と目的】
Pentraxin 3(PTX3)は免疫や炎症,動脈硬化において重要な役割を担っている急性反応性蛋白である.IL-1やTNF-αなどの炎症刺激に反応して全身の細胞から産生されるため,局所的な炎症に敏感に反応する指標と考えられており,急性心筋梗塞,感染,自己免疫疾患の患者では血中のPTX3濃度が増加している.全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性炎症性の自己免疫疾患であるが,若年齢より動脈硬化が進行しており動脈硬化性心血管病による死亡率,罹病率が高い.そこで本研究ではSLE患者の血漿PTX3濃度を測定し,PTX3がSLEの疾患活動性を反映するか,血漿PTX3濃度高値はSLE患者における臓器障害および重症度や生命予後と関連するか,SLE患者の血漿PTX3濃度が動脈硬化の程度を反映するかについて検討した.
【対象と方法】
SLE患者70例および健常人53例より静脈血5mlを採取し,血漿PTX3濃度をELISA法で測定した.SLE患者の臨床所見,臓器障害,動脈硬化危険因子,炎症マーカー(CRP,ESR),SLE関連マーカー(抗ds-DNA抗体,CH50)について確認した.またSLEの疾患活動性評価にはSLE disease activity index(SLEDAI),British isles lupus assessment group index(BILAG Index)を利用した.潜在性動脈硬化の有無は頸動脈エコーにて確認した.
【結果】
SLE患者群の血漿PTX3濃度は健常対照群と比較して有意に高値を示した(6.8±9.4 ng/mL vs 2.2±1.1 ng/mL, p<0.001).SLE患者の血漿PTX3濃度はSLEDAI,BILAG Index,ステロイド投与量と正の相関があり,血清ヘモグロビンおよびアルブミン値とは負の相関があった.動脈硬化関連項目とは相関がなかった.SLEDAIは精神神経障害の配点が高いことから血漿PTX3濃度高値のSLE患者は精神神経障害を有する可能性が高いと考えられた.そこで精神神経障害の有無でSLE患者を比較した.精神神経障害のあるSLE患者の血漿PTX3濃度は精神神経障害がない患者と比較して有意に高値を示した(15.6±19.4 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.030).抗ds-DNA抗体価,CH50値,ステロイド投与量および抗リン脂質抗体の陽性頻度に差はなかった.横断性脊髄炎あるいは精神障害を呈したSLE患者では血漿PTX3濃度が著明に高かった.重症かつ生命予後不良と予測されるSLEDAI≧20のSLE患者はSLEDAI<20の患者と比較して血漿PTX3濃度が高かった(17.6±21.0 ng/mL vs 5.0±3.8 ng/mL, p=0.003).
【結論】
SLE患者の血漿PTX3濃度は健常人と比較して有意に高かった.血漿PTX3濃度はSLEの疾患活動性と相関があり,特に精神神経障害があるSLE患者で増加していた.SLEの血漿PTX3濃度は疾患活動性と重症度を反映するマーカーとして有用な可能性が示された.
表紙PDF 目次PDF 奥付PDF 別頁表紙PDF 投稿規定
埼玉医科大学雑誌 第39巻 第2号(2013年3月発行)
原著
P113-120 | 関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびにSDAIとの関連 | 中嶋 京一,他 |
原 著
関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびにSDAIとの関連
中嶋 京一1)※*,進藤 靖史1),神津 教倫2),三村 俊英1)
1) 埼玉医科大学 リウマチ膠原病科
2) こうづ整形外科
※ 現所属:国立病院機構東埼玉病院 リウマチ科
〔平成24年6月22日 受付 / 平成25年1月28日 受理〕
関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびにSDAIとの関連
中嶋 京一1)※*,進藤 靖史1),神津 教倫2),三村 俊英1)
1) 埼玉医科大学 リウマチ膠原病科
2) こうづ整形外科
※ 現所属:国立病院機構東埼玉病院 リウマチ科
〔平成24年6月22日 受付 / 平成25年1月28日 受理〕
Serum BAFF is associated with clinical background and simplified disease activity index (SDAI) in patients with rheumatoid arthritis
Kyoichi Nakajima1)※*, Yasufumi Shindo1), Noritsune Kozu2), and Toshihide Mimura1)
Department of Rheumatology and Applied Immunology, Saitama Medical University,
38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
【Objectives】
The B-cell activating factor belonging to TNF family (BAFF) might play a pathogenic role in rheumatoid arthritis (RA) because it has been reported that BAFF levels increases in RA serum, and anti-BAFF mAb ameliorates RA activity. In this study, we analyzed the relevance of serum soluble BAFF (sBAFF) levels to the clinical background of patients with RA.
【Methods】
Sixty-two RA patients were enrolled in this study. Calculated was the correlation between sBAFF levels and clinical background (age, disease duration, CRP, ESR, IgM-RF, ACPA, MMP-3, IgG, HAQ, dosage of MTX and/or Prednisolone (PSL)), SDAI, Total Sharp score, joint narrowing score, or erosion score. Multiple regression analyses, in which significant parameters in univariate analysis were used as independent variables, were performed to analyze the significance of sBAFF with respect to SDAI as the dependent variable.
【Results】
sBAFF was inversely correlated with dosage of PSL (p=0.03) in all patients and with disease duration (p=0.02) in ACPA-positive patients. In multiple regression analysis, adjusted R2 of SDAI of all and ACPA-positive patients were 0.66 and 0.64, respectively (p<0.0001). Significant independent valuables were sBAFF, IgM-RF, HAQ, and dosage of PSL.
【Conclusions】
sBAFF might be relevant to a patient’s clinical background and SDAI of RA.
J Saitama Medical University 2013; 39: 113-120
(Received June 22, 2012 / Accepted January 28, 2013)
Keywords: rheumatoid arthritis, BAFF, SDAI
Kyoichi Nakajima1)※*, Yasufumi Shindo1), Noritsune Kozu2), and Toshihide Mimura1)
Department of Rheumatology and Applied Immunology, Saitama Medical University,
38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
【Objectives】
The B-cell activating factor belonging to TNF family (BAFF) might play a pathogenic role in rheumatoid arthritis (RA) because it has been reported that BAFF levels increases in RA serum, and anti-BAFF mAb ameliorates RA activity. In this study, we analyzed the relevance of serum soluble BAFF (sBAFF) levels to the clinical background of patients with RA.
【Methods】
Sixty-two RA patients were enrolled in this study. Calculated was the correlation between sBAFF levels and clinical background (age, disease duration, CRP, ESR, IgM-RF, ACPA, MMP-3, IgG, HAQ, dosage of MTX and/or Prednisolone (PSL)), SDAI, Total Sharp score, joint narrowing score, or erosion score. Multiple regression analyses, in which significant parameters in univariate analysis were used as independent variables, were performed to analyze the significance of sBAFF with respect to SDAI as the dependent variable.
【Results】
sBAFF was inversely correlated with dosage of PSL (p=0.03) in all patients and with disease duration (p=0.02) in ACPA-positive patients. In multiple regression analysis, adjusted R2 of SDAI of all and ACPA-positive patients were 0.66 and 0.64, respectively (p<0.0001). Significant independent valuables were sBAFF, IgM-RF, HAQ, and dosage of PSL.
【Conclusions】
sBAFF might be relevant to a patient’s clinical background and SDAI of RA.
J Saitama Medical University 2013; 39: 113-120
(Received June 22, 2012 / Accepted January 28, 2013)
Keywords: rheumatoid arthritis, BAFF, SDAI
P121-129 | 3D analysis of binocular eye movement during head tilt | Kazuki Sugizaki, et al |
原 著
3D analysis of binocular eye movement during head tilt
Kazuki Sugizaki1)*, Yasuo Koizumi2), Mio Iwamura2), Ryuichiro Araki3), Yasuhiro Kase1), Tetsuo Ikezono1), Toshiaki Yagi4)
1) Department of Otolaryngology, Saitama Medical University, 38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
2) Department of Otolaryngology, Nippon Medical School, 1-1-5 Sendagi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8603, Japan
3) Community Health Science Center, Saitama Medical University, 38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
4) University of Human Environments, 6-2 Kamisanhonmatsu, Motojyuku, Okazaki, Aichi 444-3505, Japan
【Objectives】
Ocular counter rolling (OCR) is one type of vestibulo-ocular reflex (VOR) originating in the otolith organ, and is one of the few effective tests of otolith function. The purpose of the present study was to assess the three-dimensional binocular eye movements that occur in response to the roll tilt. Furthermore, the study was intended to find out whether any asymmetry or disconjugacy of eye movements exists in 1genvironment.
【Methods】
Ten healthy subjects (6 males and 4 females) participated in this experiment. The subjects were tilted to the left or to the right on the naso-occipital axis up to 35 degrees (deg.). The eye movements were recorded and an analysis of these eye movements was performed using a video-oculographic method.
【Results】
In torsional eye movement, there was counter-rolling of the eyes in response to head tilt. In terms of horizontal eye movement, the left eye deviated towards the right during left ear down (LED) tilt, and the right eye deviated towards the left during right ear down (RED) tilt. There was no asymmetry in the performance of horizontal, vertical or torsional eye movements. There was no disconjugacy in the vertical or torsional eye movements, and in the horizontal eye movements disconjugacy was observed in which the lowermost eye to the tilt deviated towards the opposite side.
【Conclusions】
In normal subjects in a 1genvironment, each of the three eye movements was symmetrical during head tilt. There was disconjugacy observed in the horizontal eye movements. The deviation of the lowermost eye towards the opposite relative to the tilt direction may be explained by the anatomical and/or physiological characteristics of the utricular nerve projection to the abducens nucleus.
J Saitama Medical University 2013; 39: 121-129
(Received August 17, 2012 / Accepted February 1, 2013)
Keywords: eye movements, ocular counter rolling, binocular, symmetry, disconjugacy
3D analysis of binocular eye movement during head tilt
Kazuki Sugizaki1)*, Yasuo Koizumi2), Mio Iwamura2), Ryuichiro Araki3), Yasuhiro Kase1), Tetsuo Ikezono1), Toshiaki Yagi4)
1) Department of Otolaryngology, Saitama Medical University, 38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
2) Department of Otolaryngology, Nippon Medical School, 1-1-5 Sendagi, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8603, Japan
3) Community Health Science Center, Saitama Medical University, 38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama 350-0495, Japan
4) University of Human Environments, 6-2 Kamisanhonmatsu, Motojyuku, Okazaki, Aichi 444-3505, Japan
【Objectives】
Ocular counter rolling (OCR) is one type of vestibulo-ocular reflex (VOR) originating in the otolith organ, and is one of the few effective tests of otolith function. The purpose of the present study was to assess the three-dimensional binocular eye movements that occur in response to the roll tilt. Furthermore, the study was intended to find out whether any asymmetry or disconjugacy of eye movements exists in 1genvironment.
【Methods】
Ten healthy subjects (6 males and 4 females) participated in this experiment. The subjects were tilted to the left or to the right on the naso-occipital axis up to 35 degrees (deg.). The eye movements were recorded and an analysis of these eye movements was performed using a video-oculographic method.
【Results】
In torsional eye movement, there was counter-rolling of the eyes in response to head tilt. In terms of horizontal eye movement, the left eye deviated towards the right during left ear down (LED) tilt, and the right eye deviated towards the left during right ear down (RED) tilt. There was no asymmetry in the performance of horizontal, vertical or torsional eye movements. There was no disconjugacy in the vertical or torsional eye movements, and in the horizontal eye movements disconjugacy was observed in which the lowermost eye to the tilt deviated towards the opposite side.
【Conclusions】
In normal subjects in a 1genvironment, each of the three eye movements was symmetrical during head tilt. There was disconjugacy observed in the horizontal eye movements. The deviation of the lowermost eye towards the opposite relative to the tilt direction may be explained by the anatomical and/or physiological characteristics of the utricular nerve projection to the abducens nucleus.
J Saitama Medical University 2013; 39: 121-129
(Received August 17, 2012 / Accepted February 1, 2013)
Keywords: eye movements, ocular counter rolling, binocular, symmetry, disconjugacy
特別講演
P130 | 自殺予防の基礎知識 | 高橋 祥友 | |
P131 | グリオーマの病理診断-その要点と最近の話題 | 中里 洋一 | |
P132 | 脂肪センサーGPR120が食事性肥満の原因遺伝子であることの発見 | 平澤 明 | |
P133-134 | 臨床試験の全体像と臨床試験・臨床研究における倫理的な問題点 | 齋藤 好信 | |
P135 | 髄膜がん腫症に対する治療:特に抗がん剤髄腔内投与にはどのような適応・意義があるのか | 田部井 勇助 | |
P136-137 | Small RNA regulation pluripotency and embryonic development | Robert Blelloch | |
P138-139 | 国際病院評価機構JCI認定取得の意義とその概要 | 斎藤 健一 | |
P140 | 産褥出血の管理 | Jose CA Carvalho | |
P141 | 新しい「救命の連鎖」と小児救命集中治療 | 清水 直樹 |
TOPICS
P142-145 | 学部教育におけるリサーチマインドの涵養:基礎医学 | 村越 隆之 | |
P146-148 | 特定健康診査・特定保健指導の要積極的支援者の血清亜鉛とインスリンについて | 宮﨑 孝,大野 洋一,佐藤 真喜子,
柴﨑 智美,荒木 隆一郎,鈴木 洋通 |
研究室紹介
P149-150 | 大学病院 神経精神科・心療内科 | ||
P151-152 | 医学部 生理学 | 渡辺 修一,池田 正明 | |
P153-154 | ゲノム医学研究センター ゲノム科学部門/トランスレーショナルリサーチ部門 | 岡﨑 康司 |
Thesis(別頁)
T33-T46 | 自殺企図患者の動機別臨床的検討 | 松木 麻妃 |
Thesis
自殺企図患者の動機別臨床的検討
松木 麻妃
総合医療センター 神経精神科(メンタルクリニック)
医学博士 乙第1203号 平成24年5月25日 (埼玉医科大学)
【目的】
日本では1998年以降,毎年3万人以上が自殺によって死亡している.うつ病の早期発見および治療をはじめ自殺防止のためのさまざまな研究,実践活動が活発に行われているが,自殺者数の明確な減少は生じていない.このような現状を踏まえ,新たな自殺防止対策のため,自殺企図の動機とそれに関係する諸因子に注目し,自殺企図の動機別に自殺企図患者の特徴を検討した.
【方法】
2004年10月から2007年3月までの2年6か月間に埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センターに入院して救命された自殺企図患者のうち,自殺企図の動機を患者自身が述べることのできた206人を対象とした.これらの患者を自殺企図の動機別に「健康問題」,「経済問題」,「家庭・男女問題」,「その他」に分類し,その他を除く各群について,社会人口動態学的因子,医学・医療的因子,自殺企図手段および回数を調査し,各群の特徴を検討した.
【結果】
うつ病性障害の頻度は全群で高く,6割から7割に達した.群別にみると,健康問題群の特徴は,女性が多い,50歳以上の患者が多い,身体表現性障害の頻度が高い,パーソナリティ障害の頻度が低い,身体疾患をもつ患者が多い,精神科以外の診療科の受診率が高い,初回の自殺企図が多いなどであった.経済問題群の特徴は,男性が多い,30~49歳および50歳以上の患者が多い,フルタイム勤務者が多い,衝動制御の障害とパーソナリティ障害の頻度が高いなどであった.家庭・男女問題群の特徴は,女性が多い,10~29歳および30~49歳の患者が多い,パーソナリティ障害の頻度が高い,自殺企図の既往歴をもつものが多いなどであった.
【結論】
自殺企図の動機別に分けた各群はそれぞれ異なった特徴を有しており,精神科医の診療技術の向上をはじめ,地域医療との共同的ケア(Collaborative Care)の充実,経済問題の相談業務を行っている人たちとの連携システムの構築など,個々の特徴に即した自殺防止対策が必要であると考えられた.
自殺企図患者の動機別臨床的検討
松木 麻妃
総合医療センター 神経精神科(メンタルクリニック)
医学博士 乙第1203号 平成24年5月25日 (埼玉医科大学)
【目的】
日本では1998年以降,毎年3万人以上が自殺によって死亡している.うつ病の早期発見および治療をはじめ自殺防止のためのさまざまな研究,実践活動が活発に行われているが,自殺者数の明確な減少は生じていない.このような現状を踏まえ,新たな自殺防止対策のため,自殺企図の動機とそれに関係する諸因子に注目し,自殺企図の動機別に自殺企図患者の特徴を検討した.
【方法】
2004年10月から2007年3月までの2年6か月間に埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センターに入院して救命された自殺企図患者のうち,自殺企図の動機を患者自身が述べることのできた206人を対象とした.これらの患者を自殺企図の動機別に「健康問題」,「経済問題」,「家庭・男女問題」,「その他」に分類し,その他を除く各群について,社会人口動態学的因子,医学・医療的因子,自殺企図手段および回数を調査し,各群の特徴を検討した.
【結果】
うつ病性障害の頻度は全群で高く,6割から7割に達した.群別にみると,健康問題群の特徴は,女性が多い,50歳以上の患者が多い,身体表現性障害の頻度が高い,パーソナリティ障害の頻度が低い,身体疾患をもつ患者が多い,精神科以外の診療科の受診率が高い,初回の自殺企図が多いなどであった.経済問題群の特徴は,男性が多い,30~49歳および50歳以上の患者が多い,フルタイム勤務者が多い,衝動制御の障害とパーソナリティ障害の頻度が高いなどであった.家庭・男女問題群の特徴は,女性が多い,10~29歳および30~49歳の患者が多い,パーソナリティ障害の頻度が高い,自殺企図の既往歴をもつものが多いなどであった.
【結論】
自殺企図の動機別に分けた各群はそれぞれ異なった特徴を有しており,精神科医の診療技術の向上をはじめ,地域医療との共同的ケア(Collaborative Care)の充実,経済問題の相談業務を行っている人たちとの連携システムの構築など,個々の特徴に即した自殺防止対策が必要であると考えられた.
T47-T56 | 全身性エリテマトーデス患者におけるカルシニューリン阻害薬投与によるT細胞受容体ζ鎖の発現回復と臨床効果に関する研究 | 近藤 恒夫 |
Thesis
全身性エリテマトーデス患者におけるカルシニューリン阻害薬投与による T細胞受容体ζ鎖の発現回復と臨床効果に関する研究
近藤 恒夫
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学
医学博士 甲第1217号 平成24年11月16日 (埼玉医科大学)
【背景と目的】
全身性エリテマトーデス(SLE)の病因として,我々はT細胞の近位部シグナル伝達異常に注目し,T細胞受容体ζ鎖(TCRζ鎖)の発現低下を報告してきた.T細胞の活性化を抑制するカルシニューリン阻害薬(CNI)であるタクロリムスがループス腎炎に有効で使用されているが,CNIがSLE患者T細胞のTCRζ鎖発現に与える影響については報告がない.さらにTCRζ鎖発現と臨床効果との関連に関しても不明であるため,これらを明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は1997年のアメリカリウマチ学会のSLEの分類基準を満たし,新規にCNIを投与された26症例.CNI投与前と投与後で,TCRζ鎖の発現を免疫ブロット法で測定し,年齢,性がマッチした健常者11人と比較検討した.SLEの活動性評価は,SLEDAIと,主治医が1つ以上の病態で有効と判断した症例の割合(主治医評価)の2つの方法で行った.
【結果】
26例中20症例はタクロリムスを,6症例はシクロスポリンが投与された.男女比3:23,平均年齢44.7歳で,ステロイド併用率は88.5%,ステロイド量はプレドニゾロン換算で平均21.0 mg/日であった.治療対象病態は,関節炎9例,血球減少7例,腎症7例,発疹6例の順で多く,投与前のSLEDAIは平均6.0±4.9と比較的低かった.CNI投与前のTCRζ鎖発現は全26症例中,20症例(77%)で低下,平均発現量は健常者の55%であった.CNI投与後には,投与前にTCRζ鎖の発現が低下していた20症例中10症例(全体の38%)で回復した(P<0.01).SLEDAIは投与前平均6.0±4.9が,投与後3.3±3.4と改善した(P<0.05).また主治医評価で有効症例は58%であった.TCRζ鎖の変化と臨床病態の改善との関連を検討したところ,TCRζ鎖非回復群では投与前後のSLEDAIに有意差は認めなかったが(P=0.56),TCRζ鎖回復群においては,SLEDAIは投与前7.4±2.1,投与後は2.1±0.7と有意に低下した(P<0.05).主治医評価でも,TCRζ鎖回復群において有効率は80%と高く,TCRζ鎖非回復群に比べ高かった(P<0.05).
【結論】
SLE末梢血T細胞において発現低下しているTCRζ鎖がCNIの投与により回復しうることを初めて明らかにした.これはCNIがカルシニューリンを阻害しT細胞活性化を抑制するだけでなく,TCRζ鎖の発現を回復させる別の機序を有する可能性が考えられた.さらにTCRζ鎖発現の回復と臨床病態の改善との間に関連を認め,TCRζ鎖発現がSLEの病態に関与する可能性が示唆された.
全身性エリテマトーデス患者におけるカルシニューリン阻害薬投与による T細胞受容体ζ鎖の発現回復と臨床効果に関する研究
近藤 恒夫
臨床医学研究系 内科学 リウマチ・膠原病内科学
医学博士 甲第1217号 平成24年11月16日 (埼玉医科大学)
【背景と目的】
全身性エリテマトーデス(SLE)の病因として,我々はT細胞の近位部シグナル伝達異常に注目し,T細胞受容体ζ鎖(TCRζ鎖)の発現低下を報告してきた.T細胞の活性化を抑制するカルシニューリン阻害薬(CNI)であるタクロリムスがループス腎炎に有効で使用されているが,CNIがSLE患者T細胞のTCRζ鎖発現に与える影響については報告がない.さらにTCRζ鎖発現と臨床効果との関連に関しても不明であるため,これらを明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は1997年のアメリカリウマチ学会のSLEの分類基準を満たし,新規にCNIを投与された26症例.CNI投与前と投与後で,TCRζ鎖の発現を免疫ブロット法で測定し,年齢,性がマッチした健常者11人と比較検討した.SLEの活動性評価は,SLEDAIと,主治医が1つ以上の病態で有効と判断した症例の割合(主治医評価)の2つの方法で行った.
【結果】
26例中20症例はタクロリムスを,6症例はシクロスポリンが投与された.男女比3:23,平均年齢44.7歳で,ステロイド併用率は88.5%,ステロイド量はプレドニゾロン換算で平均21.0 mg/日であった.治療対象病態は,関節炎9例,血球減少7例,腎症7例,発疹6例の順で多く,投与前のSLEDAIは平均6.0±4.9と比較的低かった.CNI投与前のTCRζ鎖発現は全26症例中,20症例(77%)で低下,平均発現量は健常者の55%であった.CNI投与後には,投与前にTCRζ鎖の発現が低下していた20症例中10症例(全体の38%)で回復した(P<0.01).SLEDAIは投与前平均6.0±4.9が,投与後3.3±3.4と改善した(P<0.05).また主治医評価で有効症例は58%であった.TCRζ鎖の変化と臨床病態の改善との関連を検討したところ,TCRζ鎖非回復群では投与前後のSLEDAIに有意差は認めなかったが(P=0.56),TCRζ鎖回復群においては,SLEDAIは投与前7.4±2.1,投与後は2.1±0.7と有意に低下した(P<0.05).主治医評価でも,TCRζ鎖回復群において有効率は80%と高く,TCRζ鎖非回復群に比べ高かった(P<0.05).
【結論】
SLE末梢血T細胞において発現低下しているTCRζ鎖がCNIの投与により回復しうることを初めて明らかにした.これはCNIがカルシニューリンを阻害しT細胞活性化を抑制するだけでなく,TCRζ鎖の発現を回復させる別の機序を有する可能性が考えられた.さらにTCRζ鎖発現の回復と臨床病態の改善との間に関連を認め,TCRζ鎖発現がSLEの病態に関与する可能性が示唆された.
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