埼玉医科大学雑誌 第40巻
埼玉医科大学雑誌 第40巻

埼玉医科大学雑誌 第40巻 第1号(2013年8月発行)

学内グラント 終了時報告書

P1-6 臨床試験に向けた慢性C型肝炎治療ワクチン研究とインフルエンザワクチンへの応用 研究代表者:赤塚 俊隆
研究分担者:内田 哲也,持田 智,
小林 信春,堀内 大,髙木 徹
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P7-11 脂肪細胞分化・骨芽細胞分化の2方向性分化で機能するアンチセンスRNAの解析 研究代表者:仲地 豊 PDF
P12-15 シミュレーションによる関節リウマチ末梢血のサイトカイン抑制機構の理解 研究代表者:三由 文彦 PDF
P16-18 3テスラ磁気共鳴装置を用いたテンソル画像による糖尿病性腎症の早期診断の研究 研究代表者:小澤 栄人
研究分担者:井上 勉,田中 淳司
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P19-23 食道扁平上皮癌の拡大,超拡大内視鏡観察と分子生物学との関連 研究代表者: 熊谷 洋一 PDF
P24-27 抗原表面結合リポソームを用いた抗腫瘍ワクチン開発の基礎研究 研究代表者:堀内 大
研究分担者:赤塚 俊隆,小林 信春
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P28-31 関節リウマチにおけるTNF・IL-6により誘導される破骨細胞様細胞の機能解析 研究代表者:横田 和浩 PDF
P32-35 術中迅速変異型IDH1遺伝子検出のグリオーマ手術への応用 研究代表者:安達 淳一
研究分担者:西川 亮
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P36-40 体幹筋機能が膝前十字靭帯損傷メカニズムに及ぼす影響 研究代表者:大久保 雄 PDF
P41-44 下咽頭癌三剤併用導入化学療法の効果予測因子の探索と多因子に基づくテイラード療法 研究代表者:中平 光彦
研究分担者:西山 正彦,江口 英孝,
和田 智,菅澤 正
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P45-47 新生児領域における臓器血流量分布に着目した次世代循環モニタリングシステムの開発 研究代表者:石黒 秋生 PDF
P48-51 単量型マウスTLR4による細胞内情報伝達の分子機序と意義の解明 研究代表者:魚住 尚紀 PDF
P52-54 連続切片を用いた立体モデルの作製技術とそのデータベース化 研究代表者:猪股 玲子
研究分担者:駒崎 伸二,高野 和敬
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P55-58 光操作による情動行動を担う脳リズム回路の解明 研究代表者:向井 秀夫 PDF
P59-61 プロスタグランジン類の生理活性調節による神経変性疾患の治療 研究代表者:吉川 圭介 PDF
P62-63 発達期体性感覚野スパイクタイミング可塑性におけるBDNFの役割 研究代表者:伊丹 千晶 PDF
P64-65 TRPM1チャネルを介した網膜内シナプス伝達は体温で最適化されているのか? 研究代表者:田丸 文信 PDF
一括 学内グラント終了時報告書PDF PDF

学内グラント 終了後報告書

P66 生理活性物質をリード化合物とする構造展開による多発性骨髄腫の新規分子標的薬の開発 研究代表者:佐川 森彦
研究分担者:木崎 昌弘,得平 道英,
根本 朋恵,富川 武樹
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P67 関節リウマチにおけるエピジェネティクス制御の異常の解明 研究代表者:荒木 靖人 PDF
P68 インフルエンザウイルス特異的CTLの誘導を増強するプラットフォームの開発 研究代表者:川野 雅章
研究分担者:松井 政則,禾 泰壽,
半田 宏
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P69 ペプチド表面結合リポソームワクチン用C型肝炎ウィルスCTLエピトープの同定 研究代表者:髙木 徹 PDF
P70 Coherent Anti-Stokes Raman Scatteringによる無侵襲血糖値モニターの研究 研究代表者: 戸井田 昌宏 PDF
P71 着床不全に対する新規治療法の開発とその臨床応用 究代表者:梶原 健
研究分担者:板倉 敦夫
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P72 脳内神経回路オシレーション発生におけるGABAニューロンの役割 研究代表者:伊丹 千晶
研究分担者:村越 隆之
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P73-74 小児の駆出率の保たれた心不全の病態解明と発症予測への展望  研究代表者:増谷 聡
研究分担者:先崎 秀明
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P75-78 GLUT4小胞輸送に必須な蛋白同定による糖尿病治療薬の開発 研究代表者:保坂 利男 PDF
P79 新規消化管ホルモンIBCAPを標的にした膵β細胞再生の分子基盤の解明 研究代表者:横尾 友隆
研究分担者:豊島 秀男
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P80 次世代シーケンサーによる高速な既知の疾患遺伝子スクリーニング系の開発 研究代表者:神田 将和 PDF
P81 神経ペプチドを利用した多能性幹細胞から膵β細胞の分化・再生誘導と糖尿病の再生医療 研究代表者:松本 征仁
研究分担者:犬飼 浩一,平崎 正孝,
Wylie Vale,Mark Huising
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P82 次世代シーケンサーを活用した乳がんの新規診断・治療法の開発 研究代表者:伊地知 暢広
研究分担者:堀江 公仁子,佐伯 俊昭,
大崎 昭彦
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P83 ペルオキシソーム局在プロテアーゼTysnd1の脳神経系での役割 研究代表者:水野 由美
研究分担者:穐田 真澄
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P84 皮膚扁平上皮癌におけるエストロゲンの役割 研究代表者:阿部 佳子
研究分担者:新井 栄一
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P85 小型尿路上皮癌細胞が持つ癌幹細胞的性格について 研究代表者:周東 真代 PDF
一括 学内グラント終了後報告書PDF PDF

医学研究センター

P86 医学研究センター 松下 祥 PDF
P87 研究主任部門 池淵 研二 PDF
P88-89 共同利用施設運営部門 坂本 安 PDF
P90-92 知財戦略研究推進部門 岡﨑 康司 PDF
P93-94 安全管理部門 赤塚 俊隆 PDF
P95 研究支援管理部門 村越 隆之 PDF
P96-97 フェローシップ部門 丸山 敬 PDF
P98 研究評価部門 椎橋 実智男 PDF
一括  医学研究センターPDF   PDF

研究室紹介

P99-101 大学病院 消化器内科・肝臓内科 持田 智 PDF
P102-103 総合医療センター 消化器外科・一般外科 石田 秀行 PDF
P104-105 国際医療センター 乳腺腫瘍科 佐伯 俊昭 PDF
P106-107 ゲノム医学研究センター 発生・分化・再生部門 奥田 晶彦 PDF

Thesis(別頁)

T1-T11 インドメタシン起因性小腸潰瘍形成過程におけるアドレノメデュリンの作用機序についての検討 可児 和仁 PDF
Thesis
インドメタシン起因性小腸潰瘍形成過程におけるアドレノメデュリンの作用機序についての検討


可児 和仁
臨床医学研究系 内科学

医学博士 甲第1227号 平成25年3月22日 (埼玉医科大学)

【背景】
 アドレノメデュリンは血流増加作用,抗炎症作用などを有することが報告されている.今回,インドメタシン小腸潰瘍形成過程におけるアドレノメデュリンの発現変化とその受容体の発現につき検討するとともに,アドレノメデュリン・アンタゴニストを用いて小腸潰瘍形成に及ぼす影響について検討した.
【方法】
 インドメタシンを連日2日間皮下注射して小腸潰瘍を作成し,アドレノメデュリンおよびその受容体であるcalcitonin receptor-like receptor (CRLR)とreceptor activity modifying protein (RAMP)-2の発現を検討した.同時にアドレノメデュリン,CRLR,RAMP-2 および炎症性サイトカインであるCXCL-1 mRNAの発現をreal time RT-PCR法を用いて検討した.また,アドレノメデュリン・アンタゴニストAdrenomedullin(22-52)peptideの作用についても検討した.
【結果】
 インドメタシン小腸潰瘍形成はday2が有意に強かった.炎症性サイトカインであるCXCL-1 mRNAの発現も同様に有意に高かった.アドレノメデュリン,CRLR,RAMP-2の発現は上皮細胞,間質細胞,筋肉に広く発現し,day2ではアドレノメデュリンmRNAの発現は有意に高かった.CRLR,RAMP-2mRNAの発現も高い傾向にあった.Adrenomedullin(22-52)peptideは濃度依存性にインドメタシン小腸潰瘍の形成を増悪させた.
【結論】
 本研究により,インドメタシンによる組織障害発症時には内因性アドレノメデュリンおよびその受容体の発現が増加し,内因性アドレノメデュリンの増加はインドメタシン小腸潰瘍形成に対し抑制的に働くことが示唆された.

T13-T20 プロテオーム解析による咀嚼筋腱腱膜過形成症患者の側頭筋腱に特異的に発現するタンパク質の同定 中本 文 PDF
Thesis
プロテオーム解析による咀嚼筋腱腱膜過形成症患者の側頭筋腱に特異的に発現するタンパク質の同定


中本 文
臨床医学研究系 口腔外科

医学博士 甲第1228号 平成25年3月22日 (埼玉医科大学)

【目的】
 咀嚼筋腱腱膜過形成症は,側頭筋の腱や咬筋の腱膜などが過形成するために,筋の伸展を妨げて開口制限を呈する新しい疾患である.組織学的には正常な腱組織の過形成とされているが,病態について不明な点も多い.本研究では,腱組織のプロテオーム解析により本疾患に特徴的に発現するタンパク質を見出し,病態を解明することを目的とした.
【対象と方法】
 対象は,疾患群として本疾患患者3名,対照群として開口制限のない顎変形症患者3名の側頭筋腱組織とした.各組織に対してタンパク質の二次元電気泳動を行い,マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)/飛行時間型質量分析計(Time of Flight Mass Spectrometry)(MALDI/TOF MS)を用いたペプチドマスフィンガープリンティング分析(PMF分析)を行なった.
【結果】
 同定された24のタンパク質のうち,対照群との比較において疾患群で特徴的な発現がみられたのは,fibrinogen fragment D,β-crystallin A4,myosin light chain 4の3つであった.
【結語】
 本研究で特徴的な発現がみられたタンパク質が組織の線維化や腱細胞の機能低下,ストレスに関与していることから,組織学的には正常に見えても,タンパク質レベルでは正常でないことが考えられ,これらのタンパク質が本疾患の有用な診断マーカーとなることも考えられた.

T21-T28 18F-fluoromisonidazole(FM ISO)PET/CTによる低酸素イメージングの定量法の検討 島野 靖正 PDF
Thesis
18F-fluoromisonidazole(FMISO)PET/CTによる 低酸素イメージングの定量法の検討


島野 靖正
臨床医学研究系 放射線医学

医学博士 甲第1229号 平成25年3月22日 (埼玉医科大学)

【目的】
 低酸素イメージング製剤である18F-fluoromisonidazole(FM ISO)は,腫瘍低酸素状態評価に有用である.従来,FM ISOによる低酸素状態の定量は腫瘍対血液比による方法で行われており,静脈採血カウントが必要なため煩雑であった.最近の高性能PET/CTにより高精度の計測が可能となっている.今回,我々は,18F-FM ISO PET/CTにて腫瘍対血液比に代わるパラメーターとして,腫瘍組織と健常組織の比を適用できるか,最適な参照部位はどこかを検討した.
【方法】
 脳腫瘍および頭頸部癌患者の計20人を対象に,FM ISOを投与して2時間後にPET/CT撮像を実施した.低酸素状態の定量指標として,撮像前後に静脈採血を,組織対血液比を計算するために実施した.全ての患者において,脳,上行大動脈,大動脈弓,下行大動脈,左室,右室,筋肉,肝臓の8箇所に関心領域(region of interest: ROI)を設定することにより,組織対血液比を計測した.SUV(standardized uptake value)は,投与量と体重から算出した.また,全ての患者において,原発病巣及び転移巣にROIを設定した.腫瘍対血液比,腫瘍対参照部位比(tumor-to-reference organ ratio)及びSUV最大画素値(SUVmax)は,これらのROIsから算出した.
【結果】
 8箇所の参照部位の中で,左室対血液比は最も低い変動係数(8.9%)を示した.また,全参照部位における腫瘍対参照部位比と腫瘍対血液比との間での相関係数を比較すると,腫瘍対左室比が最も高い相関係数(ρ=0.967,p<0.001)を示した.また,腫瘍対血液比とSUVmaxの間でも高い相関係数(ρ=0.909,p<0.001)を認めたが,腫瘍対左室比に比べると,相関係数は低かった.また,腫瘍低酸素状態の閾値とされる腫瘍対血液比が1.2に相当する値をそれぞれの回帰直線式から求めると,腫瘍対左室比では,1.0,SUVmaxでは1.6となった.
【結論】
 静脈血を用いないFM ISO PET/CTにおける腫瘍低酸素状態の定量評価において,腫瘍対左室内腔比法は,最も妥当な定量法と考えられる.

T29-T41 関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびに疾患活動性との関連 中嶋 京一 PDF
Thesis
関節リウマチにおけるBAFFと臨床的指標ならびに疾患活動性との関連


中嶋 京一
大学病院 リウマチ膠原病科
※ 現所属:国立病院機構東埼玉病院 リウマチ科

医学博士 乙第1222号 平成25年2月22日 (埼玉医科大学)

【目的】
 関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患において,B細胞刺激因子(B-cell-activating factor belonging to the TNF family: BAFF)が上昇することが知られている.本研究では,まずRA滑膜組織におけるBAFFとBAFF-Rの分布と機能ならびに血清と関節液中の可溶性BAFF濃度について検討した.次に,RAにおける臨床的指標と血清中の可溶性BAFF濃度との相関の有無をACPA陽性群に注目して臨床的な検討を加えた.疾患活動性指標は,SDAIおよびCDAIを使用した.
【結果】
 RAの滑膜組織から分離したB細胞・T細胞・CD14陽性単球でBAFFが発現し,BAFF-RはB細胞とT細胞で発現していた.mRNAレベルでは,滑膜単核細胞においてBAFFとBAFF-Rのいずれも発現を認めた.免疫組織化学染色では,滑膜組織中に単核細胞の局所的もしくはびまん性の浸潤と一部胚中心様構造を認め,いずれにおいてもBAFFとBAFF-RがT細胞とB細胞で発現していた.またCD3陰性CD20陰性BAFF陽性細胞が滑膜表層ではなく深層に存在し,BAFF-Rは表層および深層のいずれにも発現していなかった.RA患者滑膜検体を処理し4から6継代して得た線維芽細胞様滑膜細胞(RA-FLS)は無刺激の状態で細胞質にBAFF蛋白およびmRNAを発現していたが細胞表面にBAFF蛋白は存在せず,BAFF-Rは蛋白質ならびにmRNAいずれのレベルでも発現していなかった.関節液中の可溶性BAFF濃度を同じ日に採取した血清中の可溶性BAFF濃度と比較すると,関節液中の可溶性BAFF濃度が常に高値だった.臨床的評価では,全症例において可溶性BAFF濃度とプレドニゾロン投与量に関連を認め,罹病期間とも弱い関連を認めた.ACPA陽性群においては,可溶性BAFF濃度と罹病期間が関連し,プレドニゾロン投与量と軽度関連していた.ACPA陽性群において,SDAIと各臨床的指標との単回帰分析で関連した項目(可溶性BAFF濃度,IgM-RF,赤沈,MMP-3,HAQ,プレドニゾロン投与量)を説明変数,SDAIを目的変数として重回帰分析を施行したところ,可溶性BAFF濃度・IgM-RF・HAQ・プレドニゾロン投与量が有意な説明変数だった(自由度調整R2=0.64).一方,ACPA陽性群においてCDAIと単回帰分析で関連を認めたのはIgM-RF・赤沈・MMP-3・HAQ・プレドニゾロン投与量で,これらを説明変数としSDAIを目的変数とした重回帰分析を施行したところ,IgM-RF・HAQが有意な説明変数(自由度調整R2=0.58)だった.CDAIと可溶性BAFF濃度は軽度の関連を認めたが,有意ではなかった.また,CRPと血清中の可溶性BAFF濃度は相関しなかったが,関節液中の可溶性BAFF濃度とは有意な相関を認めた.
【結論】
 RAの滑膜組織にBAFF陽性細胞を認め,血清および関節液中の可溶性BAFF濃度が上昇していることから,RAとBAFFとの関連が示唆された.またACPA陽性RAにおいて血清中の可溶性BAFF濃度とSDAIに関連を認めており,臨床的に有用な予後予測因子になる可能性がある.

T43-T51 創傷底微小循環可視化技術の開発と陰圧負荷の急性効果 大河内 裕美 PDF
Thesis
創傷底微小循環可視化技術の開発と陰圧負荷の急性効果


大河内 裕美
大学病院 形成外科・美容外科

医学博士 乙第1231号 平成25年4月26日 (埼玉医科大学)

【背景と目的】
 局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy, 以下NPWT)は創傷を密閉して陰圧を負荷することにより治癒を促進する治療法で,適切な湿潤環境の維持,過剰な組織間液の排出,血行改善,細菌負荷軽減により創傷治癒を促進するとされている.NPWTの有効性に関しては臨床研究や基礎研究で多数検証されているが,創傷治癒を促進する詳細なメカニズムについてはまだ解明されていない.NPWTの創傷治癒促進機序として最も重要と考えられる局所循環動態の変化については過去の論文では創傷縁周囲の血流量を計測するのみであった.本実験では創傷治癒過程の母床である創傷底の微小循環を可視化する動物実験モデルを開発し,陰圧負荷による創傷底微小循環の応答を解析した.
【方法】
 創傷底微小循環可視化モデルの開発では手術用顕微鏡下にマウスの臀部に真皮下血管網を温存した創を作成し,得られた蛍光顕微鏡画像を生体顕微鏡-ビデオコンピューターシステムを利用して観察・記録した.陰圧下の創傷底微小循環への急性効果については独自の陰圧負荷システムを使用して-125 mmHg(n=12),-500 mmHg(n=12),0 mmHg(n=8)の3段階の圧を負荷し,血流量の変化を計測し,比較を行った.
【結果】
 本実験モデルでは陰圧を負荷された創傷底微小循環を安定的に観察できた.-125 mmHg群で有意な血流増加を認め,-500 mmHg群で負荷5分後に有意な減少を認めた.
【結論】
 陰圧負荷による創傷治癒メカニズムには創傷底の微小循環血流増大も関与することが示唆された.


表紙PDF   目次PDF   奥付PDF   別頁表紙PDF   投稿規定

埼玉医科大学雑誌 第40巻 第2号(2014年3月発行)

総説

P109-116 肥満・糖尿病に対する外科治療 Bariatric and Metabolic Surgery 笠間 和典,関 洋介 PDF
P117-122 アレルギー診療の最近の動向 ~舌下免疫療法の登場から専門医育成の方向性まで 永田 真 PDF

原著

P123-130 慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)患者における細菌感染症入院に関わるリスクの検討 佐藤 貴彦,他 PDF
原 著
慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)患者における細菌感染症入院に関わるリスクの検討

佐藤 貴彦,井上 勉,鈴木 洋通
埼玉医科大学 医学部 腎臓内科
〔平成25年11月13日 受付 / 平成26年2月4日 受理〕
Risk factors for bacterial infection-related hospitalization in chronic kidney disease (CKD) patients
Takahiko Sato, Tsutomu Inoue, and Hiromichi Suzuki
Department of Nephrology, Faculty of Medicine, Saitama Medical University,
38 Morohongo, Moroyama, Iruma-gun, Saitama, 350-0495, Japan

【Background】
 To date, it is unknown whether renal insufficiency is associated with increased morbidity from bacterial infections. The aim of this study is to evaluate the relationship between renal insufficiency and bacterial infection-related hospitalization.
【Methods】
 This study is an observational, retrospective cohort study at our center. Nominal logistic regression analysis was used for multivariate analysis. The event investigated was “bacterial infection making hospitalization necessary”, and the investigation items were gender, age, diabetes mellitus, presence of cancer, use of statins and immunosuppressive agents, and several laboratory values, including albumin levels and total cholesterol.
【Subjects】
 All patients visiting our outpatient clinic between January and December 2005, and for whom complete medical records were available for at least 3 years from 2005, were enrolled. Patients who received renal replacement therapy, peritoneal dialysis (PD), or hemodialysis (HD), were excluded.
【Results】
 A total of 836 patients were surveyed (466 males; 370 females). The mean period of observation was 4.87±1.39 years. A total of 61 patients had at least one episode of hospitalization and were categorized as the “infected group”. The mean estimated glomerular filtration rate (eGFR) was 56.3±36.8 ml/min/1.73 m2 in the infected group and 64.3±35.4 ml/min/1.73 m2 in the non-infected group. The percentages of chronic kidney disease (CKD) stage 3 or more were 63.9% in the infected group and 45.1% in the non-infected group, with more patients with advanced renal insufficiency observed in the infected group than in the non-infected group. In a multivariate logistic regression analysis, a CKD stage of 3 or more, immunosuppressive agents, and diabetes mellitus were statistically significant risk factors for bacterial infection-related hospitalization; the adjusted odds ratio were 2.177, 2.443, and 2.140 respectively.
【Conclusions】
 Renal insufficiency, immunosuppressive agents, and diabetes mellitus are important risk factors for bacterial infection-related hospitalization.

J Saitama Medical University 2014; 40(2): 123-130
(Received November 13, 2013 / Accepted February 4, 2014)

Keywords: chronic kidney disease, bacterial infection, risk factor, diabetes mellitus

症例報告

P131-134 Trousseau syndrome accompanied by cholangiocellular carcinoma: Report of two Ryuichi Yamamoto, et al PDF
Case Report
Trousseau syndrome accompanied by cholangiocellular carcinoma: Report of two

Ryuichi Yamamoto1)*, Shingo Kato1), Masatomo Takahashi1),
Shino Ono1), Tomoya Sakurada1), Sumiko Nagoshi1),
Ko Nishikawa2), Koji Yakabi1)
1)Department of Gastroenterology and Hepatology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
2)Department of the Gastroenterology, Ageo Central General Hospital

 Two cases of Trousseau syndrome associated with cholangiocellular carcinoma have been reported. The first patient, a 82-year-old woman, received chemotheraphy with weekly gemcitabine after the placement of a self-expanding metal stent for palliation of unresectable malignant biliary obstruction. She was admitted to our hospital because of dizziness in October 2010. A computed tomography (CT) showed fresh cerebral infarcts in the area of left middle cerebral artery and in the right temporal lobe. The final diagnosis was Trousseau syndrome accompanied by cholangiocellular carcinoma. She died 36 days after admission. The second patient, a 69-year-old woman, was admitted to our hospital because of disturbed consciousness. Her CT showed a cerebral infarct in the right temporal lobe. An enhanced abdominal CT showed a malignant tumor in left hepatic lobe. A fine needle biopsy showed a cholangiocellular carcinoma. The final diagnosis was Trousseau syndrome accompanied by cholangiocellular carcinoma. She died 25 days after admission.

J Saitama Medical University 2014; 40(2): 131-134
(Received October 2, 2013 / Accepted January 14, 2014)

Keywords: Trousseau syndrome, cholangiocellular carcinoma

特別講演

P135 周産期脳障害と脳性麻痺・発達障害 岡 明 PDF
P136-137 臨床研究の倫理とは何か 青谷 恵利子 PDF
P138-139 なでしこジャパンの奇跡:チームドクターとしてワールドカップとロンドンオリンピックを支えて 原 邦夫 PDF
P140 歯科口腔領域の病理診断のポイント 槻木 恵一 PDF
P141-142 At early or metastatic stage, pathological analysis gives important clinical informations in colorectal cancer Benoit Terris PDF
P143-144 新生児・周産期医療に応用出来る成人教育理論とシミュレーターの効果的な用い方 Benjamin Worth Berg PDF
P145-146 脂質栄養及び肝脂肪酸合成能の脳機能への関係 五十嵐 美樹 PDF
P147 Transcriptional control of BMP-dependent osteoblast and adipocyte lineage determination by Zinc finger protein 521 William N Addison PDF
P148-149 心臓の発生に関与する分子機構 山岸 敬幸 PDF
P150 分子標的薬による皮膚障害の症状と対応 ~EGFR阻害薬を中心に~ 清原 祥夫 PDF
P151-152 和温療法:慢性心不全に対する高度先進医療 鄭 忠和 PDF

研究室紹介

P153-155 大学病院 口腔外科 依田 哲也 PDF
P156-158 総合医療センター 小児科・新生児科 田村 正徳 PDF
P159-161 国際医療センター 脳神経外科/脳脊髄腫瘍科 西川 亮 PDF
P162-163 医学部 解剖学 永島 雅文 PDF
P164-165 ゲノム医学研究センター 遺伝子構造機能部門 黒川 理樹 PDF

Thesis(別頁)

T53-T60 表層性胃腫瘍 284例 352病変に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の臨床的検討 落合 康利 PDF
Thesis
表層性胃腫瘍 284例 352病変に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の臨床的検討


落合 康利
臨床医学研究系 内科学

医学博士 甲第1249号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)

【背景】
 日本において胃腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)は病変の一括切除が可能な信頼できる治療法として広く受け入れられている.しかし,平均寿命の延長に伴い高齢者の罹患者数が増加しているが高齢者に対するESDの安全性および有効性はあきらかではない.本研究において非高齢者と高齢者の短期および長期成績を比較検討を行い明らかにする.
【対象と方法】
 埼玉医科大学国際医療センターで2007年4月から2010年3月までに表層性胃腫瘍に対しESDを行った284人を対象とした.方法としては連続した治療症例を65歳未満の非高齢者群と65歳以上の高齢者群の2群に分けてその安全性,効果,長期成績についての比較検討を行った.2群間の統計学的評価にはx2検定およびMann-Whitney検定を用いp値<0.05を優位差ありとした.
【結果】
 72人が非高齢者群(男性61人,女性11人,平均年齢59.4歳),212人が高齢者群(男性164人,女性48人, 平均年齢73.5歳)に分類された.平均切除検体径,平均腫瘍径,一括切除率,断端陰性での完全一括切除率,治療後入院期間に優位差を認めなかった.平均手術時間は92分と80分(p=0.045)であった.組織病理学的内訳は非高齢者群が腺癌66例,腺腫15例であり高齢者群が腺癌250例,腺腫21例であった.偶発症は非高齢者群に穿孔1例,後出血3例を認め,高齢者群に穿孔2例,後出血2例を認めたが穿孔した全症例がクリップ縫縮による保存的加療で改善している.治療偶発症もしくは原病による死亡は認めなかった.局所再発および遠隔転移再発は認めなかった.観察期間の中央値は843日(範囲 14-1812日)と775日(範囲 6-1789日)であった.1年生存率は100%と99%であり3年生存率は89%と94%であった.
【結論】
 本研究によりESDは高齢者に対しても安全に施行でき,その治療は効果的であることが確認された.ESDは,表層性胃腫瘍の治療方法として年齢を問わず有効な方法と思われる.

T61-T71 T細胞特異的 c-Maf トランスジェニックマウスにおけるB細胞増多メカニズムの解析 高松 真裕子 PDF
Thesis
T細胞特異的 c-Maf トランスジェニックマウスにおけるB細胞増多メカニズムの解析


高松 真裕子
臨床医学研究系 内科学

医学博士 甲第1250号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)

【目的】
これまでの解析から,T細胞特異的 c-Maf トランスジェニック(Tg)マウスの脾臓では野生型(WT)マウスに比べB細胞の比率が著増していることが判明している.今回このメカニズムを解析した.
【方法】
 c-Maf TgマウスでB細胞が増多するメカニズムとして以下の仮説が考えられる.仮説① 使用したマウスはT細胞特異的(CD2プロモーターの支配下)に c-Maf が強制発現するマウスであるが,B細胞にも c-Maf がある程度発現しており,B細胞が c-Maf の影響を受けて増加する(能動的増加).仮説② c-Maf Tg マウスのT細胞が,例えば濾胞性ヘルパーT(Tfh)のような細胞として機能し,B細胞分化を誘導し,その結果としてB細胞が増加する(T細胞による指令).仮説③ c-Maf TgマウスでT細胞が減っていることにより,そのスペースを埋めるためにB細胞が増加する(受動的増加).これら3つの機序は互いに対立するものではなく,複数の機序が共存している可能性もある.これらの内でどの機序が関与しているかを明らかにするため,骨髄キメラマウスを利用した競合実験(competition assay)を行った.また c-Maf は Tfh 細胞の分化に重要であることが報告されているため,ヒツジ赤血球を腹腔内投与したマウスを用いてフローサイトメトリー(FCM)および免疫組織染色を行い Tfh 細胞や活性化B細胞を解析した.
【結果および考察】
 competition assayにより能動的増加の可能性は否定的であった.興味深いことに,c-Maf Tg 由来のT細胞はWTのT細胞存在下では末梢に存在できず,胸腺の分化段階で消失していることが示された.FCMでは Tfh マーカーを持っている細胞の比率が c-Maf Tgマウスで有意に増加していたが,活性化B細胞の比率は増加していなかった.このことから,T細胞による指令は否定的であった.competition assayでみられた c-Maf TgマウスでのT細胞分化障害について胸腺細胞の解析を行い,DN4分画において TCRβ鎖発現の低下を認めた.このことから c-Maf TgのT細胞分化障害はβセレクションの障害である可能性が考えられた.
【結論】
 T細胞特異的 c-Maf TgマウスのB細胞増多のメカニズムは胸腺におけるT細胞の分化が障害され,末梢のT細胞が減少していることに基づく受動的増加と考えられた.

T73-T79 埼玉県西部地域がん診療連携拠点病院におけるがん化学療法患者の診療連携状況の解析 中山 博文 PDF
Thesis
埼玉県西部地域がん診療連携拠点病院におけるがん化学療法患者の診療連携状況の解析


中山 博文
臨床医学研究系 臨床腫瘍学

医学博士 甲第1251号 平成26年3月28日 (埼玉医科大学)

【背景と目的】
 がんになっても安心して暮らせる社会の構築は,がん対策推進基本計画の全体目標に挙げられるように地域のがん診療において重要な課題である.特に埼玉県は他県よりもがんの罹患者数,死亡数の増加が見込まれており,地域の終末期医療体制を早急に充実させていかなくてはならない.
 多くの国民が希望する終末期における療養の場は自宅療養や緩和ケア病棟であることを踏まえ,本研究は積極的抗癌治療へ耐性となった患者の医療連携の問題点を抽出することを目的とした.また,低い在宅医療への移行率を改善することに着眼しソーシャルワーカーの介入について調査を行った.
【方法】
 腫瘍内科における地域連携の状況を後方視的に検討した.2009年1月から2010年12月までに当科を紹介受診した切除不能または転移性がん患者のうち,化学療法を行った520名を対象とし,電子診療録を用いて地域連携の状況を調査した.
【結果・考察】
 当科受診までの期間は8±2日(平均±標準偏差),治療終了から連携完了までの期間は22±10日と後者が約2.8倍長い状況であった.また当センター内の他科から紹介された例と他の医療施設から紹介された例でも治療終了から連携完了までの期間に差が生じており(当センター内25日対他の医療施設16日),患者の治療背景が原因の一つと考えられた.次いで連携状況には地域間格差と施設間格差が指摘されており,これらの観点から調査を実施した.患者住居から連携先医療機関までの通院距離や緩和医療病床の有無は連携完了までの期間に影響を与える要因とはならなかったが,緩和医療に携わる医師の有無は連携完了までの期間に影響を与える一因であることが明らかとなった(医師有19日対医師無26日 p=0.01).本結果は緩和医療の病床を整えても,緩和医療を行える医師がいなければ連携は機能しないことを意味している.がん腫別に調査した結果では,各がん腫と連携完了までの期間にKruskal-Wallis検定で有意差が認められ(p=0.034),治療に専門性を要する頭頸部腫瘍はWilcoxon検定でも五大がんと比較して有意に連携完了までの期間が長く,改善には緩和ケア技術の向上や臓器横断的な診療の必要性が考えられた.在宅医療は施策上重要な位置づけとされているが, 当科での治療後に在宅で終末期を過ごした患者の割合は約6%(31名)と低く,在宅死の割合は2%強(11名)と低かった.在宅医療に移行したケースの殆どにソーシャルワーカーが介入しており,低い在宅移行率の改善にはソーシャルワーカーの活躍が期待される.
【結論】
 埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科の地域連携において,治療終了から連携完了までの期間が長く,施設間のばらつきが大きいことが明らかとなった.連携期間を短縮するには,緩和医療に携わる医師の増員,特殊性を要するがん腫の治療が可能な医師の育成と臓器横断的診療が重要であること,および著しく低い在宅医療への移行率の改善にはソーシャルワーカーの関わりが重要であることを明らかにした.


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