埼玉医科大学雑誌 第49巻
埼玉医科大学雑誌 第49巻 第1号(令和4年8月発行)
原著
P1-8 | 帝王切開術におけるsequential combined spinal epidural anesthesia の有用性 | 野口 翔平,他 |
原 著
帝王切開術におけるsequential combined spinal epidural anesthesia の有用性
野口 翔平1)*,仕子 優樹2),川﨑 洋平2),
加藤 崇央2),松田 祐典1),照井 克生1)
1)埼玉医科大学総合医療センター 麻酔科(産科麻酔科)
2)埼玉医科大学総合医療センター 麻酔科(麻酔科)
〔令和3年10月18日受付/令和4年2月17日受理〕
目的:Sequential combined spinal-epidural anesthesia(以下sCSEA)は,低用量の局所麻酔薬を用いた脊髄くも膜下麻酔に,硬膜外麻酔で不足した鎮痛を補う麻酔方法で,しばしば脊髄くも膜下麻酔後の低血圧予防のために選択される.しかし,脊髄くも膜下麻酔で著明な循環変動が懸念される妊婦に対して,実際に低血圧の予防が可能であるかを検討した報告はない.本研究では,帝王切開術において,脊髄くも膜下麻酔で循環変動が懸念される妊婦に対して,sCSEA の有用性を後方視的に検討した.
方法:対象は,2013年1月1日~2017年12月31日(5年間)に埼玉医科大学総合医療センターにてsCSEA を施行した帝王切開術症例(sCSEA群)とし,対照は同一期間に通常の局所麻酔薬量,高比重ブピバカイン塩酸塩水和物12mg を用いてCSEAを施行した帝王切開術症例(Control群)とした.埼玉医科大学総合医療センターの電子診療録より,後方視的に対象を抽出した.評価項目は,母体情報(年齢,身長,分娩時体重,分娩週数,胎児数,帝王切開術の適応),分娩までの平均動脈圧と収縮期血圧の最大低下率(入室時の血圧と分娩までの最低血圧の低下の比率),分娩までの昇圧薬使用回数,分娩までの硬膜外薬剤投与量,初回麻酔高,出血量,尿量,術中輸液量,手術時間,麻酔時間,麻酔開始から分娩までの時間とし,傾向スコアマッチング法と逆確率重み付き法を用いて両群間の比較を行った.
結果:sCSEA群(31人)及びControl群(605人)を検討した.1対1マッチング後の比較では,児娩出までの昇圧薬使用回数(平均値±標準偏差,最小値-最大値,p値.以下同様)(0.82回±0.95,0-3回 vs 2.9±2.9回,0-11回,p=0.0008),および術中輸液量(1287mL±621,500-2800mL vs 1882mL±778,710-4200mL,p=0.0018)において,sCSEA群がControl群よりも少なく,統計学的に有意な差を認めた.麻酔導入後の収縮期血圧の最大低下率(23.4%±10.0,6.7-52% vs 24.5%±11.1,6.7-58.7%,p=0.6727)および平均動脈圧の最大低下率(25.4%±10.0,7.2-48.2% vs 27.7%±10.8,12.2-58.2%,p=0.3945)には,両群間で統計学的に有意な差を認めなかった.1対2マッチング後および逆確率重み付き法での検討でも同様の傾向を認めた.
結論:sCSEAは循環動態の変動を防ぎたい病態をもつ妊婦に施行した場合に,通常のCSEAと同程度の血圧低下が起こり得るが,より少ない昇圧薬使用と輸液で循環管理が行える麻酔方法である.
帝王切開術におけるsequential combined spinal epidural anesthesia の有用性
野口 翔平1)*,仕子 優樹2),川﨑 洋平2),
加藤 崇央2),松田 祐典1),照井 克生1)
1)埼玉医科大学総合医療センター 麻酔科(産科麻酔科)
2)埼玉医科大学総合医療センター 麻酔科(麻酔科)
〔令和3年10月18日受付/令和4年2月17日受理〕
目的:Sequential combined spinal-epidural anesthesia(以下sCSEA)は,低用量の局所麻酔薬を用いた脊髄くも膜下麻酔に,硬膜外麻酔で不足した鎮痛を補う麻酔方法で,しばしば脊髄くも膜下麻酔後の低血圧予防のために選択される.しかし,脊髄くも膜下麻酔で著明な循環変動が懸念される妊婦に対して,実際に低血圧の予防が可能であるかを検討した報告はない.本研究では,帝王切開術において,脊髄くも膜下麻酔で循環変動が懸念される妊婦に対して,sCSEA の有用性を後方視的に検討した.
方法:対象は,2013年1月1日~2017年12月31日(5年間)に埼玉医科大学総合医療センターにてsCSEA を施行した帝王切開術症例(sCSEA群)とし,対照は同一期間に通常の局所麻酔薬量,高比重ブピバカイン塩酸塩水和物12mg を用いてCSEAを施行した帝王切開術症例(Control群)とした.埼玉医科大学総合医療センターの電子診療録より,後方視的に対象を抽出した.評価項目は,母体情報(年齢,身長,分娩時体重,分娩週数,胎児数,帝王切開術の適応),分娩までの平均動脈圧と収縮期血圧の最大低下率(入室時の血圧と分娩までの最低血圧の低下の比率),分娩までの昇圧薬使用回数,分娩までの硬膜外薬剤投与量,初回麻酔高,出血量,尿量,術中輸液量,手術時間,麻酔時間,麻酔開始から分娩までの時間とし,傾向スコアマッチング法と逆確率重み付き法を用いて両群間の比較を行った.
結果:sCSEA群(31人)及びControl群(605人)を検討した.1対1マッチング後の比較では,児娩出までの昇圧薬使用回数(平均値±標準偏差,最小値-最大値,p値.以下同様)(0.82回±0.95,0-3回 vs 2.9±2.9回,0-11回,p=0.0008),および術中輸液量(1287mL±621,500-2800mL vs 1882mL±778,710-4200mL,p=0.0018)において,sCSEA群がControl群よりも少なく,統計学的に有意な差を認めた.麻酔導入後の収縮期血圧の最大低下率(23.4%±10.0,6.7-52% vs 24.5%±11.1,6.7-58.7%,p=0.6727)および平均動脈圧の最大低下率(25.4%±10.0,7.2-48.2% vs 27.7%±10.8,12.2-58.2%,p=0.3945)には,両群間で統計学的に有意な差を認めなかった.1対2マッチング後および逆確率重み付き法での検討でも同様の傾向を認めた.
結論:sCSEAは循環動態の変動を防ぎたい病態をもつ妊婦に施行した場合に,通常のCSEAと同程度の血圧低下が起こり得るが,より少ない昇圧薬使用と輸液で循環管理が行える麻酔方法である.
The validity of sequential combined spinal epidural anesthesia for cesarean section:
a retrospective observational study using propensity score matching and inverse probability weighting
Shohei Noguchi1)*, Yuki Shiko2), Yohei Kawasaki2),
Takao Kato2), Yusuke Mazda1), Katsuo Terui1)
1) Department of Obstetric Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
2) Department of Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 1- 8
(Received October 18, 2021/Accepted February 17, 2022)
Keywords: anesthesia for cesarean section, sequential combined spinal epidural anesthesia, perioperative hemodynamic changes
a retrospective observational study using propensity score matching and inverse probability weighting
Shohei Noguchi1)*, Yuki Shiko2), Yohei Kawasaki2),
Takao Kato2), Yusuke Mazda1), Katsuo Terui1)
1) Department of Obstetric Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
2) Department of Anesthesiology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 1- 8
(Received October 18, 2021/Accepted February 17, 2022)
Keywords: anesthesia for cesarean section, sequential combined spinal epidural anesthesia, perioperative hemodynamic changes
症例報告
P9-15 | インプラント埋入後10年目に生じたインプラント周囲歯肉癌の1例 | 清水 一,他 |
症例報告
インプラント埋入後10年目に生じたインプラント周囲歯肉癌の1例
清水 一1,2),山﨑 文惠2),柏俣 玲於奈2),矢野 照雄2),
高橋 康輔3),田島 麻衣3),伊藤 耕1)*,佐藤 毅1)
1)埼玉医科大学病院 歯科・口腔外科
2)さいたま市立病院 歯科口腔外科
3)横浜労災病院 歯科口腔外科・顎口腔機能再建外科
〔令和3年12月10日受付/令和4年2月14日受理〕
近年,歯科インプラントによる治療は一般的になりつつあり,インプラント周囲に生じる悪性腫瘍症例がいくつか報告されている.インプラント周囲の発がん危険因子には,口腔癌の既往とそれに関連する放射線療法の既往,白板症や扁平苔癬などの粘膜疾患,飲酒および喫煙が含まれるが,病因はいまだ不明である.今回われわれは,インプラント埋入手術から10年後に右上大臼歯のインプラント周囲の歯肉に発生したインプラント周囲扁平上皮癌のまれな症例を経験した.症例は74歳の男性.右上大臼歯歯肉に潰瘍性病変を呈していた.口腔内検査により,右上第二大臼歯の口蓋側歯肉に5×2.5mmの潰瘍性病変が認められた.エックス線検査では2本のインプラントが右上大臼歯に埋入されており,垂直的な骨吸収像も見られた.生検での病理組織検査では扁平上皮癌の診断結果であったため,全身麻酔下で上顎部分切除術を行った.手術から18ヶ月が経過し再発や転移はなく経過良好である.本症例に加えて,PubMedおよびMedlineデータベースを使用し渉猟した61症例をまとめ,文献的考察を行い報告する.
インプラント埋入後10年目に生じたインプラント周囲歯肉癌の1例
清水 一1,2),山﨑 文惠2),柏俣 玲於奈2),矢野 照雄2),
高橋 康輔3),田島 麻衣3),伊藤 耕1)*,佐藤 毅1)
1)埼玉医科大学病院 歯科・口腔外科
2)さいたま市立病院 歯科口腔外科
3)横浜労災病院 歯科口腔外科・顎口腔機能再建外科
〔令和3年12月10日受付/令和4年2月14日受理〕
近年,歯科インプラントによる治療は一般的になりつつあり,インプラント周囲に生じる悪性腫瘍症例がいくつか報告されている.インプラント周囲の発がん危険因子には,口腔癌の既往とそれに関連する放射線療法の既往,白板症や扁平苔癬などの粘膜疾患,飲酒および喫煙が含まれるが,病因はいまだ不明である.今回われわれは,インプラント埋入手術から10年後に右上大臼歯のインプラント周囲の歯肉に発生したインプラント周囲扁平上皮癌のまれな症例を経験した.症例は74歳の男性.右上大臼歯歯肉に潰瘍性病変を呈していた.口腔内検査により,右上第二大臼歯の口蓋側歯肉に5×2.5mmの潰瘍性病変が認められた.エックス線検査では2本のインプラントが右上大臼歯に埋入されており,垂直的な骨吸収像も見られた.生検での病理組織検査では扁平上皮癌の診断結果であったため,全身麻酔下で上顎部分切除術を行った.手術から18ヶ月が経過し再発や転移はなく経過良好である.本症例に加えて,PubMedおよびMedlineデータベースを使用し渉猟した61症例をまとめ,文献的考察を行い報告する.
A case of peri-implant squamous cell carcinoma 10 years after implant placement
Hajime Shimizu1,2), Fumie Yamazaki2), Leona Kashimata2), Teruo Yano2),
Kosuke Takahashi3), Mai Tajima3), Ko Ito1)*, Tsuyoshi Sato1)
1) Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Saitama Medical University
2) Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Saitama City Hospital
3) Department of Dentistry and Oral Surgery, Yokohama Rosai Hospital
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 9 -15
(Received December 10, 2021/Accepted February 14, 2022)
Keywordsoral: squamous cell carcinoma, dental implants, peri-implantitis
Hajime Shimizu1,2), Fumie Yamazaki2), Leona Kashimata2), Teruo Yano2),
Kosuke Takahashi3), Mai Tajima3), Ko Ito1)*, Tsuyoshi Sato1)
1) Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Saitama Medical University
2) Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Saitama City Hospital
3) Department of Dentistry and Oral Surgery, Yokohama Rosai Hospital
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 9 -15
(Received December 10, 2021/Accepted February 14, 2022)
Keywordsoral: squamous cell carcinoma, dental implants, peri-implantitis
P16-19 | 免疫チェックポイント阻害薬および腎部分切除術により
完全寛解を得た慢性腎不全を合併した転移性腎細胞癌の一例 |
五十嵐大介,他 |
症例報告
免疫チェックポイント阻害薬および腎部分切除術により
完全寛解を得た慢性腎不全を合併した転移性腎細胞癌の一例
五十嵐 大介,中山 貴之*,竹下 英毅,新井 昌弘,立花 康次郎,
香川 誠,矢野 晶大,岡田 洋平,諸角 誠人,川上 理
埼玉医科大学総合医療センター 泌尿器科
〔令和4年3月30日受付/令和4年5月13日受理〕
症例は68歳男性.腎機能障害の精査中に,CTで左腎の3.8cmの腫瘍と気管支分岐部リンパ節転移を認めた.腎腫瘍生検の病理組織診断は淡明腎細胞癌であった.画像診断と併せて,左腎癌cT3aN0M1と診断した.全身治療として,イピリムマブとニボルマブの併用療法を開始したが,4コース終了後に免疫関連有害事象と考えられる副腎不全Grade3を発症したため,免疫チェックポイント阻害薬の投与を中止した.イピリムマブ・ニボルマブ投与終了後,転移巣は消失,原発巣は1cmに縮小した.治療開始7ヶ月後に左腎部分切除術を施行し,完全寛解を得た.治療開始前より腎機能障害を認めていたが,治療開始26ヶ月時点で,腎機能の悪化を認めず,再発なく経過している.慢性腎不全を合併した転移性腎細胞癌症例に対して,免疫チェックポイント阻害薬および腎部分切除術により,腎機能を低下させることなく,完全寛解を得ることができた.
免疫チェックポイント阻害薬および腎部分切除術により
完全寛解を得た慢性腎不全を合併した転移性腎細胞癌の一例
五十嵐 大介,中山 貴之*,竹下 英毅,新井 昌弘,立花 康次郎,
香川 誠,矢野 晶大,岡田 洋平,諸角 誠人,川上 理
埼玉医科大学総合医療センター 泌尿器科
〔令和4年3月30日受付/令和4年5月13日受理〕
症例は68歳男性.腎機能障害の精査中に,CTで左腎の3.8cmの腫瘍と気管支分岐部リンパ節転移を認めた.腎腫瘍生検の病理組織診断は淡明腎細胞癌であった.画像診断と併せて,左腎癌cT3aN0M1と診断した.全身治療として,イピリムマブとニボルマブの併用療法を開始したが,4コース終了後に免疫関連有害事象と考えられる副腎不全Grade3を発症したため,免疫チェックポイント阻害薬の投与を中止した.イピリムマブ・ニボルマブ投与終了後,転移巣は消失,原発巣は1cmに縮小した.治療開始7ヶ月後に左腎部分切除術を施行し,完全寛解を得た.治療開始前より腎機能障害を認めていたが,治療開始26ヶ月時点で,腎機能の悪化を認めず,再発なく経過している.慢性腎不全を合併した転移性腎細胞癌症例に対して,免疫チェックポイント阻害薬および腎部分切除術により,腎機能を低下させることなく,完全寛解を得ることができた.
A case of metastatic renal cell carcinoma with renal impairment that
achieved complete remission followed by immune checkpoint
inhibitors and partial nephrectomy
Daisuke Igarashi, Takayuki Nakayama*, Hideki Takeshita, Masahiro Arai, Kojiro Tachibana,
Makoto Kagawa, Akihiro Yano, Yohei Okada, Makoto Morozumi, Satoru Kawakami
Department of Urology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 16 -19
(Received March 30, 2022/Accepted May 13, 2022)
Keywordsoral: metastatic renal cell carcinoma, immune checkpoint inhibitor, renal impairment, partial nephrectomy,ipilimumab, nivolumab
achieved complete remission followed by immune checkpoint
inhibitors and partial nephrectomy
Daisuke Igarashi, Takayuki Nakayama*, Hideki Takeshita, Masahiro Arai, Kojiro Tachibana,
Makoto Kagawa, Akihiro Yano, Yohei Okada, Makoto Morozumi, Satoru Kawakami
Department of Urology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2022; 49(1): 16 -19
(Received March 30, 2022/Accepted May 13, 2022)
Keywordsoral: metastatic renal cell carcinoma, immune checkpoint inhibitor, renal impairment, partial nephrectomy,ipilimumab, nivolumab
医学研究センター
P21-22 | 医学研究センター | 片桐 岳信 | |
P23-24 | 研究主任部門 | 海老原 康博 | |
P25-26 | 研究支援管理部門 | 小谷 典弘 | |
P27-28 | 共同利用施設運営部門 | 坂本 安 | |
P29-31 | 安全管理部門 | 三谷 幸之介 | |
P32-33 | フェローシップ部門 | 片桐 岳信 | |
P34-35 | 研究評価部門 | 椎橋 実智男 | |
一括 | 医学研究センターPDF |
表紙PDF 目次PDF 奥付PDF 投稿規定
埼玉医科大学雑誌 第49巻 第2号(令和5年3月発行)
原著
P43-51 | 埼玉医科大学総合医療センターにおけるロボット支援前立腺全摘除の初期経験
―腹腔鏡下小切開前立腺全摘除との比較― |
竹下 英毅,他 |
原 著
埼玉医科大学総合医療センターにおけるロボット支援前立腺全摘除の初期経験
―腹腔鏡下小切開前立腺全摘除との比較―
竹下 英毅*,中山 貴之,立花 康次郎,平田 渉,新井 昌弘,
香川 誠,北山 沙知,矢野 晶大,岡田 洋平,川上 理
埼玉医科大学総合医療センター 泌尿器科
〔令和4年7月15日受付/令和4年11月4日受理〕
目的:埼玉医科大学総合医療センターでは,2020年10月に西埼玉地区で初めて,ロボット支援前立腺全摘除(roboticassisted laparoscopic radical prostatectomy; RARP)を導入した.周術期,腫瘍学的,機能的アウトカムについて,従来術式である腹腔鏡下小切開前立腺全摘除(Minimum incision endoscopic surgery-radical prostatectomy; MIES-RP)と比較し,適切に導入されたかを検証した.
方法:対象は2020年10月から2021年6月にRARPを行った41例.2018年1月から2020年9月にMIES-RPを行った39例を対照として比較検討した.
結果:治療前PSA,cT stage,生検grade group(GG)に差を認めなかった.手術時間(中央値,RARP 277 vs. MIES-RP 236分)はRARP が有意に長かった(p=0.002)が,出血量(220 vs. 570 mL)・術後在院日数(8 vs. 12日)・尿道カテーテル留置日数(4 vs. 8日)はそれぞれRARP で有意に少なかった(全てp<0.001).術後合併症は,Clavien-Dindo 分類で全てGrade I(7.3% vs. 10.3%)で有意差を認めなかった(p=0.784).pT stage(2/3a/3b),全摘GG の分布に有意な差を認めず(p=0.901,0.071),切除断端陽性率(32% vs. 36%),リンパ節転移陽性率(12% vs. 13%)でも有意差が無かった(p=0.692,0.933).尿道カテーテル抜去直後の尿禁制率は,29.3 vs. 13.1%とRARPで良い傾向が見られたが(p=0.128),術後1,3,6ヶ月の禁制率はRARP とMIES-RPで同等であった(p=0.620,0.531,0.948).
結論:当センターでの導入最初期のRARPは従来術式であるMIES-RPと比較して,手術時間以外の周術期アウトカムが有意に改善し,機能的・腫瘍学的アウトカムは,ほぼ同等であった.適切にRARP が導入されたと考えられた.
埼玉医科大学総合医療センターにおけるロボット支援前立腺全摘除の初期経験
―腹腔鏡下小切開前立腺全摘除との比較―
竹下 英毅*,中山 貴之,立花 康次郎,平田 渉,新井 昌弘,
香川 誠,北山 沙知,矢野 晶大,岡田 洋平,川上 理
埼玉医科大学総合医療センター 泌尿器科
〔令和4年7月15日受付/令和4年11月4日受理〕
目的:埼玉医科大学総合医療センターでは,2020年10月に西埼玉地区で初めて,ロボット支援前立腺全摘除(roboticassisted laparoscopic radical prostatectomy; RARP)を導入した.周術期,腫瘍学的,機能的アウトカムについて,従来術式である腹腔鏡下小切開前立腺全摘除(Minimum incision endoscopic surgery-radical prostatectomy; MIES-RP)と比較し,適切に導入されたかを検証した.
方法:対象は2020年10月から2021年6月にRARPを行った41例.2018年1月から2020年9月にMIES-RPを行った39例を対照として比較検討した.
結果:治療前PSA,cT stage,生検grade group(GG)に差を認めなかった.手術時間(中央値,RARP 277 vs. MIES-RP 236分)はRARP が有意に長かった(p=0.002)が,出血量(220 vs. 570 mL)・術後在院日数(8 vs. 12日)・尿道カテーテル留置日数(4 vs. 8日)はそれぞれRARP で有意に少なかった(全てp<0.001).術後合併症は,Clavien-Dindo 分類で全てGrade I(7.3% vs. 10.3%)で有意差を認めなかった(p=0.784).pT stage(2/3a/3b),全摘GG の分布に有意な差を認めず(p=0.901,0.071),切除断端陽性率(32% vs. 36%),リンパ節転移陽性率(12% vs. 13%)でも有意差が無かった(p=0.692,0.933).尿道カテーテル抜去直後の尿禁制率は,29.3 vs. 13.1%とRARPで良い傾向が見られたが(p=0.128),術後1,3,6ヶ月の禁制率はRARP とMIES-RPで同等であった(p=0.620,0.531,0.948).
結論:当センターでの導入最初期のRARPは従来術式であるMIES-RPと比較して,手術時間以外の周術期アウトカムが有意に改善し,機能的・腫瘍学的アウトカムは,ほぼ同等であった.適切にRARP が導入されたと考えられた.
Initial experience of robotic-assisted laparoscopic radical prostatectomy
at Saitama Medical Center:
A comparison of radical prostatectomy with
minimum-incision endoscopic surgery
Hideki Takeshita*, Takayuki Nakayama, Kojiro Tachibana, Wataru Hirata, Masahiro Arai,
Makoto Kagawa, Sachi Kitayama, Akihiro Yano, Yohei Okada, Satoru Kawakami
Department of Urology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2023; 49(2): 43 -51
(Received July 15, 2022/Accepted November 4, 2022)
Keywords: robotic-assisted laparoscopic radical prostatectomy, minimum-incision endoscopic surgery radical prostatectomy, open radical prostatectomy, surgical outcome, learning curve
at Saitama Medical Center:
A comparison of radical prostatectomy with
minimum-incision endoscopic surgery
Hideki Takeshita*, Takayuki Nakayama, Kojiro Tachibana, Wataru Hirata, Masahiro Arai,
Makoto Kagawa, Sachi Kitayama, Akihiro Yano, Yohei Okada, Satoru Kawakami
Department of Urology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University
J Saitama Medical University 2023; 49(2): 43 -51
(Received July 15, 2022/Accepted November 4, 2022)
Keywords: robotic-assisted laparoscopic radical prostatectomy, minimum-incision endoscopic surgery radical prostatectomy, open radical prostatectomy, surgical outcome, learning curve
シンポジウム報告
P53-61 | 脳オルガノイドが提起するもの | 林 禅之,他 |
「研究の日」報告
P63 | 第3回「オール埼玉医大 研究の日」開催報告 | 村上 孝 | |
P64-67 | 第3回「オール埼玉医大 研究の日」プログラム | ||
P68-69 | 聴講した学生からの感想 | 松村 優里,他 | |
一括 | 「研究の日」報告PDF |
研究室紹介
P71-76 | ゲノム基礎医学 | 奥田 晶彦 | |
P77-82 | ゲノム応用医学 | 堀江公仁子 | |
P83-85 | 埼玉医科大学病院 呼吸器内科 | 永田 真,他 | |
P86-88 | 埼玉医科大学病院 消化管内科 | 今枝 博之 | |
P89-90 | 埼玉医科大学病院 産科婦人科 | 梶原 健 | |
P91-94 | 埼玉医科大学 総合医療センター 血液内科 | 木崎 昌弘 | |
一括 | 研究室紹介 PDF |
表紙PDF 目次PDF 奥付PDF 投稿規定