研究


<研究テーマおよび研究概要>
1.地域包括ケアシステムの構築のための社会資本の活用に関する研究
 埼玉県の自治体と協働し、高齢者の社会参加と健康についての調査を実施している。高齢者の社会参加のニーズの把握、社会参加の程度と健康度の関連等についての検討を行い、住民の社会参加の促進、さらには健康寿命の延伸のための方策に結びつくものである。地域の社会資本の活用可能性、地域包括ケアシステムの構築の推進等今後の超高齢社会に役立つような研究を進めたい。

2.難病の疫学に関する研究
 難病の頻度分布の把握のため、国の指定難病の対象となっている難病の医療受給者の分析を行っている。医療受給を受けるために提出される臨床調査個人票(医師によって作成)を利用し、各疾患の患者数、頻度分布、診断・治療実態・予後等含めた臨床疫学像の把握・分析を行い、臨床調査個人票の有効活用を進めている。さらに臨床調査個人票データベースシステムの有効性を示し、システムの問題点、改善すべき点を提示している。

3.感染症の疫学に関する研究
 国の感染症サーベイランスの強化・向上に向けて、疫学的・統計学的な評価と改善の検討を行っている。感染症発生動向調査に基づいて、定点把握対象疾患などの流行状況を把握・分析するとともに、その方法を開発・評価・検討している。主な検討課題として、感染症サーベイランスにおける警報・注意報システムの確立と分析を実施している。本システムは、流行現象の早期把握が必要な疾患(インフルエンザや小児科定点対象疾患)について、保健所など第一線の衛生行政機関の専門家に対し、流行の早期探知・流行拡大に対する注意喚起することを目的として、ある一定の基準に基づいて警報を発生させるもので、国の感染症発生動向調査に導入されている。継続的に、システムの警報・注意報の基準値が適切であるか点検・評価するとともに、警報発生に基づく対象疾患の時間的地域的流行状況の分析を行っている。これら感染症流行の把握方法に関する研究成果は、定点サーベイランスの点検・評価に直結し、今後の情報提供の詳細・迅速・有事対応に向けたシステム見直しに資すると考えられ、国の行政施策への貢献という視点からも意義が大きい。

4.地域医療に関する疫学研究
(1) 地域における生活習慣病予防と健康づくりに関する研究:毛呂山町保健センター、公民館や保健医療学部各学科教員と協働してメタボ対策、サルコペニア予防をテーマとした地域住民の健康づくりに関する実践的な研究。
(2) 地域における感染症対策の効果:毛呂山町、坂戸市、鶴ヶ島市の小中学校の感染症発生状況をWebを用いて把握し週報を発行すると共に、GISシステムを用いて迅速に感染症予防対策を行うための方策を検討する研究。

5.微量栄養素の役割とその健康影響に関する研究
 微量栄養素の役割とその生体への影響とそれらの過不足による健康障害について、分子生物学的方法を用いて研究を行っている。栄養学的な問題として必須微量栄養素や低糖質ダイエットに伴うタンパク質摂取量の過剰や欠乏に伴う健康障害について検討している。

6.数理統計学的研究を用いた疾病の発症予測と予防に関する研究
(1) エージェントベース地域モデリングによる感染症アウトブレイクのシミュレーションと解析。
(2) 生活習慣病における心血管合併症発症予測に関するシミュレーション:年齢・性別による模擬集団において、降圧薬療法または生活習慣改善による心血管合併症予防効果を介入成功率により勘案して予測し、プライマリケアの治療法の選択に役立てる。

7.記述疫学的手法による、出生・死亡統計にみられる異常変動の要因等の分析
(1) 出生性比低下傾向の原因追究: 我が国の出生性比は1925年から1970年頃にかけて上昇し、その後は低下している。近年の性比低下の原因については、様々な化学物質による環境汚染、ホルモン薬の使用、胎児期あるいは受精期における人為的性選択などの関与が仮説として挙げられているものの、十分な合理的解釈は得られていない。その要因を検討する一法として、人口動態統計を用いた記述疫学的研究を進めている。
(2) 特殊日にみられる出生数の異常変動の原因追究: 出生の時間集積性は、平時の周産期医療における人的・物的資源(血液供給体制や緊急時の転送機能など)の供給体制とのアンバランスを生じる課題がある。我が国の特殊日にみられる出生の時間集積性について、その原因追究、及び当該要因曝露による効果量の推定を試みている。
(3) インフルエンザ流行による超過死亡の推定: WHOは、インフルエンザの健康影響を総合的に評価する指標として超過死亡(統計値の異常変動の観察)を提案している。既に提案した新しい超過死亡の推定方法を死亡統計に適用し、我が国における最近のインフルエンザ流行による性、年齢、及び死因別死亡への影響を検討している。
(4) 自殺の時間・地域集積性に関する分析: 我が国の自殺統計を分析し、東日本大震災後の統計値に特異的な異常変動が生じていたことを明らかにした。大規模災害発生後の自殺対策の基礎資料を得る目的で、現在、震災発生後の自殺の時間・空間集積性について検討している。