FOPについて of 埼玉医科大学 FOP 診療・研究プロジェクト




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特徴と原因

● FOPの特徴と原因
 進行性骨化性線維異形成症(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva, FOP)は、全身の骨格筋を中心として、腱や靭帯などの通常は骨は形成されない組織に、異所性に軟骨や骨組織が形成される希少疾患です。FOPの発症には、ALK2/ACVR1と呼ばれる遺伝子の変異が関与することが明らかとなっています。FOPの発症頻度は、人種や居住地域、性別、年齢などによらず、世界的に約200万人に1人と推定されています。国内でも、2008年の厚生労働省FOP研究班による調査の結果、およそ60名のFOP患者さんがいらっしゃると予想されており、FOPの発症頻度は海外と同程度であると考えられます。
 典型的なFOP症例では、異所性の骨化は小児期に始まります。一方、非典型的なFOP症例では、症状が軽く骨化の進行が遅かったり、成人でも骨化を認めず、怪我やウイルス感染が原因で骨化が起こった例も報告されています。これは、同じALK2/ACVR1でも、遺伝的に変異している部位が異なるためです。
 FOPにおける初期の特徴の1つは、出生児から左右対称性に足の親指が外反母趾様に変形していることが知られています。これは、国内の典型的FOP症例で90%程度の患者さんに認められています。ただし、外反母趾様の変形の全てがFOPとは限らず、遺伝子診断による確認が必要です。
 通常、FOPでも出生児の筋肉に異所性骨化は認められず、成長に伴って徐々に骨化が進行します。首、肩、背中などに痛みを伴う腫瘤が出現し、その一部に骨化が起こることが知られています。FOPでは、筋肉などの打撲や裂傷などの怪我、筋肉内注射、手術、バイオプシー(生検)などが、異所性骨化を誘発する原因になります。そのため、こうした侵襲的医療行為は禁忌とされています。この他に、インフルエンザなどのウイルス感染も異所性骨化を引き起こすことが報告されています。何らかの免疫反応が骨化の原因と予想されますが、そのメカニズムは解明されていません。


● 難病
 難病は、原因が不明であり、患者数が少なく、効果的な治療法が確立されておらず、かつ、長期にわたる支援が必要な疾患で、難治生疾患克服事業の対象疾患(難病)としています。FOPは、2007年3月に難病の1つに認定されました。さらに、患者数が我が国の人口の0.1%以下であり、客観的な診断基準が確立しているものを指定難病として医療費助成の対象としており、FOPも2015年5月にその1つとして追加されました。

ALK2/ACVR1

● ALK2/ACVR1とは
 FOP症例で変異が見つかったALK2/ACVR1と呼ばれる分子は、細胞膜に突き刺さった形の膜貫通型タンパク質です。509個のアミノ酸と呼ばれる部品が数珠のようにつながって、1つのALK2/ACVR1を作っています。細胞の外に突き出ている領域が別のタンパク質と結合すると、細胞内の酵素と呼ばれる領域のスイッチが入ります。これにより、酵素が化学反応を起こして、さらに細胞の中に信号を伝えます。
 ALK2/ACVR1の細胞外領域には、BMPと呼ばれる骨形成を誘導するようなタンパク質が結合することが知られています。BMPは、胎児の骨格が作られる際や、骨折の治癒過程などで発現する骨を作るための成長因子です。このように、本来は、ALK2/ACVR1の信号はオフになっていて、骨を作る必要がある時だけオンになる仕組みがあります。
 FOPでは、ALK2/ACVR1を構成する509個のアミノ酸において、別のアミノ酸との置換、一部の欠失や挿入など、10種類以上の変異が同定されています。これまでに見出されたFOPにおけるALK2/ACVR1の変異は、全て細胞内領域のアミノ酸です。世界中のおよそ90%のFOP患者さんでは、ALK2/ACVR1の509個のアミノ酸の中で、206番目がアルギニン(R)からヒスチジン(H)に変異しているR206Hと呼ばれる変異であることが判明しています。
 FOPでは、ALK2/ACVR1のアミノ酸に変異が生じることで立体構造が変化します。これにより、オフになっているべきスイッチがオンとなり、細胞内に信号が流れる可能性が示されています。また、FOPの変異を持つALK2/ACVR1は、ごく少量のBMPと結合しても細胞内の信号が活性化されたり、骨形成を誘導しないはずのActivin Aと呼ばれるタンパク質でも信号が活性化されることが報告されています。

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診断及び治療法

● 診断
 FOPは、タンパク質の設計図に相当する遺伝子の変異によって起こることが明らかとなりました。そこで、現在は、最も確実な診断法として、FOPの原因となるALK2/ACVR1遺伝子を調べる遺伝子診断が行われています。検査は、少量の血液や口腔粘膜に含まれる細胞から遺伝子を抽出して、ALK2/ACVR1遺伝子の配列を解析します。患者さんの負担も少なく、短時間で精度の高い結果が得られます。ただし、遺伝情報は重要な個人情報です。埼玉医科大学FOP診療・研究プロジェクトでは、本学を直接受診していただく他に、遺伝子診断の説明を行っていただける医師を介して検体の受け入れ・解析も実施しています。ご希望の方は、主治医にご相談ください。


● 治療法
 現時点で、FOPの治療薬として承認を受けた医薬品はありません。しかし、近年の研究の進展により、FOPの異所性骨化の原因がALK2/ACVR1の過剰な骨形成の信号であることが判明しました。この発見により、過剰な信号を止めることがFOPの治療に重要と考えられています。すでに、さまざまな研究グループが、いろいろなタイプの化合物を用いて、FOPにおける過剰なALK2/ACVR1の信号を抑制するために研究を行っています。この一部は、海外でFOP症例を対象とした治験が開始されており、国内でも近い将来に治験が行われる可能性が高まっています。
 現在、主に研究されているFOP治療薬候補化合物として、(1)細胞の信号伝達を担う転写因子の量を減少させるレチノイン酸受容体γ(ガンマ)アゴニスト、(2)ALK2/ACVR1の酵素活性を阻害するキナーゼ阻害剤、(3)骨形成細胞の分化を阻害する分化阻害剤、(4)変異した遺伝子を読み飛ばす核酸医薬、(5)変異した遺伝子から変異したALK2/ACVR1タンパク質の合成を阻害する核酸医薬、などがあります。
 Activin AがFOPの異所性骨化を起こすことが報告され、Activin Aを特異的に阻害する中和抗体やおとり受容体が、FOPの病態モデルマウスで異所性骨化を抑制したことが報告されました。