埼玉医科大学国際医療センター
婦人科腫瘍科
Department of Gynecologic Oncology
Saitama Medical University International Medical Center

研究

研 究 Reserch

埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科研究室では、医師のみでなく経験豊富な専任研究員、臨床試験コーディネーターとともに、実際の診療で患者さんに対してお役に立てるような新規の治療法やバイオマーカーの開発を目指した研究を行っています。特に基礎研究、トランスレーショナルリサーチ、前臨床研究、早期臨床開発までをシームレスに行っているのが当研究室の特徴です。より効率的に研究を行うために他のアカデミアや製薬企業との共同研究も積極的に進めています。

ここでは当研究室における研究の一部をご紹介いたします。

1. がん免疫療法の開発

当研究室における重点研究課題の一つは、新規のがん免疫療法の開発を視野に入れた免疫腫瘍学をバックグラウンドにした研究です。 がん免疫療法とは身体が自然に有している防御機構を様々な方法でさらに強化することによって疾患の治療を試みることをコンセプトにした治療法です。

婦人科がんに対する有望ながん抗原の同定、腫瘍微小環境における免疫細胞の機能的解析から効果的な免疫療法の開発まで様々なで研究が進行中です。また近年は次世代シーケンサーを利用した免疫ゲノミクス的なアプローチも多く行っています。 最近では、下図に示すようなT細胞受容体(T-cell receptor: TCR)遺伝子導入リンパ球輸注療法(TCR遺伝子治療)の開発に力を入れています。これはT細胞(リンパ球)に,がん細胞が発現する腫瘍抗原を認識できるT細胞受容体遺伝子を導入し,がんを特異的に攻撃できるようなT細胞を体内に戻す治療です。

この治療法の開発は治療抵抗性になった再発卵巣癌や子宮頸癌などアンメットメディカルニーズ(いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)に対しての効果が期待されています。

現在以下の研究が進行中です
1) 婦人科難治性がんの免疫ゲノミクス研究 (Matsushita H,2020 , Matsushita H,2017
2) 婦人科難治性がんにおける抑制性免疫環境の解析(Imai Y,2018
3) 婦人科難治性がんに対するTCR遺伝子治療の開発および基礎的検討(Kato T,2018

TCR遺伝子治療
2.臨床試験におけるトランスレーショナルリサーチ

当科では様々な臨床試験や開発治験が進行中ですが、その一部の試験では患者さんの血液や組織を用いて、免疫学的解析や分子生物学的解析などを行い、その治療法におけるバイオマーカーの探索を行っています。患者腫瘍サンプルを用いた遺伝子発現・変異解析やIHC解析を用いて分子サブタイプおよび免疫プロファイルを明らかにし、バイオマーカーの探索を行っています。臨床試験のデータからは非常の質の高い臨床情報が取得可能なため、効率的なバイオマーカーの探索が可能です。

現在以下の研究が進行中です
1)腹腔内化学療法のバイオマーカー探索 (GOTIC-002試験
2)複合免疫療法のバイオマーカー探索(GOTIC-018 , 025試験

トランスレーションリサーチ
3.新規治療開発の基礎的評価とその評価系の構築

婦人科癌アンメットメディカルニーズに応えるべく医師主導治験などにシームレスに橋渡しできるようなプレクリニカルリサーチ(前臨床研究)および評価系のモデル作成を行っています。 標的分子の発現に関しては、組織マイクロアレイ(TMA)を利用して免疫組織化学(Immunohistochemstry: IHC)法にてサーベイを行い、新規の候補治療薬の細胞障害性や抗腫瘍効果を確認するために患者由来細胞(Patient-derived cells: PDC )やマウス患者腫瘍組織移植モデル (Patient-derived tumor xenografts: PDX)を作成して実際の患者さんに投与した状態と近い環境を再現し,臨床試験への橋渡しとなる様な基礎的な研究を行っています。

現在以下の研究が進行中です
1)TMAを用いた新規標的の探索研究(Yano M,2019 , Yano M,2019 , Yano M,2018
2)PDC、PDXを用いた新規標的治療の前臨床評価(Ikeda Y,2020 , Shiba S,2019 , Ikeda Y,2016
3)婦人科がんにおけるがんウイルス療法の開発 (Nakatake M,2019 , Horita K,2019

プレクリニカルリサーチ
4.婦人科癌における非侵襲的なバイオマーカーの検討

血液や組織に含まれるタンパク質、遺伝子などの生体内物質で、病気の診断、変化や治療に対する反応を見ることができる指標となるものがバイオマーカーです。当研究室ではいくつかの手法を用いて非侵襲的なバイオマーカーの探索をしています。近年注目されている微量ではあるが循環血液中に存在する核酸を分子生物学的技術により検出するリキッドバイオプシーテクノロジーについても検討しています。

循環血液中の遊離DNAを用いて非侵襲的に腫瘍由来の遺伝子を検出する最適な方法を探索し、卵巣癌や子宮体癌の血中遊離DNAを用いて遺伝子変異の解析を行い、その変異頻度や再発予測マーカーとしての有用性を検討しています。血漿中遊離 DNA で腫瘍サンプルから得られた遺伝子変異と同一の変異が検出されたときに、腫瘍循環DNA(Circulating tumor DNA:ctDNA)が検出されたと規定したところ、手術前の血漿からctDNAが検出された症例は進行期に多く、組織学的にも悪性が高く、予後も悪い傾向にあることがわかりました。

ctDNAは卵巣癌や子宮体癌において再発予測を示すバイオマーカーとしての可能性が示唆され、補助治療の必要性に関するバイオマーカーなどとして今後の臨床開発が期待されています。

現在以下の研究が進行中です
1)リキッドバイオプシーの臨床評価(Ogasawara A,2020 , Shintani D,2020
2)血中可溶型膜タンパクの臨床評価(Hanaoka T,2017 , Sato S,2017 , Kurosaki A,2016

プレクリニカルリサーチ
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