代表者のご挨拶

prof.mochida

 B型肝炎ウイルス(HBV)は東アジアに蔓延しており,我が国では40歳以上の年齢層の約25%はその既往感染例と推定されます。HBVの既往感染例はHBs抗原陰性,HBcないしHBs抗体が陽性で,通常は肝障害を発症しません。しかし,肝細胞にはウイルスの遺伝子が組み込まれているため,免疫抑制下ではウイルス増殖が再燃し,肝炎を発症することがあります。既往感染例でウイルスが増殖し,血清HBV-DNAが検出されるようになることを「HBVの再活性化」,その結果として生じる肝炎を「de novoのB型肝炎」と呼んでいます。De novoのB型肝炎は重症化する症例が多いため,その対策が急務とされてきました。

 HBVの再活性化は悪性リンパ腫の治療としてリツキシマブと副腎皮質ステロイドを投与した際に生じる頻度が高いことが知られています。しかし,その他の免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬を投与した場合にも発生することがあり,厚生労働省「難治性の肝・胆道系疾患に関する調査研究」班(坪内博仁班長)の実施している劇症肝炎の全国調査でも,化学療法後にHBV再活性化によって劇症肝炎を発症した乳癌症例が登録されました。そこで,同研究班は「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班(熊田博光班長)と合同で,「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策のガイドライン」を発表しました。このガイドラインに準拠すると,免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬を投与する際は,事前に必ずHBs抗原のみならずHBcおよびHBs抗体を測定し,既往感染例と判定された場合は治療終了1年後まで,血清HBV-DNAを1ヵ月ごとに測定することになります。既往感染例ではHBV-DNA測定の保険適応がありませんので,病院負担で検査を行うことが求められます。

 一方,我が国におけるHBV再活性化の実態,特にリツキシマブ以外の免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬を投与した場合の実態は全く解明されていないのが現状です。このため,坪内班,熊田班のガイドラインはde novoの重症肝炎を予防するために有効と考えられますが,その医療経済的側面での有用性は今後検証されなくてはなりません。そこで,平成21年度にはリツキシマブ以外の免疫抑制・化学療法によるHBV再活性化の実態を検討する厚生労働科学研究費補助金(肝炎等克服緊急対策研究事業)「免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬によるB型肝炎ウイルス再活性化の実態解明と対策法の確立」班(持田 智 班長)を立ちあげました。本研究班は血液疾患,リウマチ・膠原病,腎疾患,腫瘍内科の4領域を対象にHBV再活性化の実態をprospectiveに評価し,ガイドラインの有用性を検証することを目的としています。全国から多数のご施設にご協力をいただき,研究を推進しております。宜しくご協力の程,お願い申し上げます。

研究代表者 持田 智