埼玉医科大学リウマチ膠原病科

お問合わせ
埼玉医科大学リウマチ膠原病科
研究内容

ポドサイト研究
– ポドサイト(podocyte)ってどんな細胞?

 ポドサイトは臓側糸球体上皮細胞で、アルブミンやグロブリンなどの高分子蛋白が尿中へ漏出しないように篩の役目をしています3)
”pod”は足を意味しますが(tripodは三脚、tetrapodは四足獣、消波ブロック)、ポドサイトは足細胞とも呼ばれ、足突起と呼ばれる2次突起を出し、隣のポドサイトと足突起を指を組み合わせるように噛み合わせ(interdigitating)(図1、図2)、足突起間にスリット膜を形成しています(図3)。この足突起やスリット膜といった高次構造の維持が、ポドサイトの濾過機能に重要です。

 様々な刺激を受けると、細胞骨格異常を呈して、足突起は癒合して消失(図4、図5)、病的蛋白尿が出現します。また、更に障害されると、基底膜から尿中へ剥がれおち、ボーマン腔側に露出した基底膜面は、ボーマン嚢と癒着(synechiae)。ポドサイトは増殖や再生はしないと(現在は)考えられており、糸球体あたりのポドサイト数は回復せず、そのまま糸球体硬化が進行し、末期腎不全へ進行します4)。従って、ポドサイト障害の機序を理解することが、腎機能の悪化、ひいては末期腎不全患者、透析患者を減らすことになる可能性があり、重要であると考えています。

  • 図1
  • 図2
  • 図3
  • 図4
  • 図5

図1、2、4、5: Ichimura et al., JASN 2018
図3:Rice et al., PLoS One 2013

全身性エリテマトーデス・血管炎での尿中バイオマーカー研究

 私たちがよく診る疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)や、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎(AAV)では、ループス腎炎(LN)や急速進行性糸球体腎炎を高頻度で合併し、免疫学的なストレスによりポドサイトが障害を受けます。そこで、SLEやAAVでのポドサイト障害を詳細に検討するために、ポドサイトマーカーの一つであるポドカリキシン(PCX)に対する抗体を用いて、尿中PCX陽性細胞(尿中ポドサイト数:U-Pod)5)、尿中PCX値(尿中microparticleに発現するPCXをELISAで測定:U-PCX)6)を測定する横断研究、縦断研究を、群馬大学とデンカ生研との3者共同研究で行いました。
通常の遠心で得られた活動性LNの尿沈渣を抗PCX抗体で染色すると、矢印のようにDAPI陽性PCX陽性(赤)の尿中ポドサイトが確認でき、単位尿当たりのポドサイト数としてU-Podが算出されます。矢尻はDAPI陽性PCX陰性ですのでポドサイトではないと判断されます。上記の遠心で得られた上清を更に超遠心して得られたmicroparticleを抗PCX抗体で染色すると、microparticleに発現したPCXが顆粒状に確認されます。これらを可溶化しELISAで定量したものがU-PCX値です。

  • 図6
  • 図7

図6、7:Ikuma et al., Lupus 2018

 SLE/LNの横断研究においては、U-Podは組織学的活動性病変の多いISN/RPS Class IVで上昇し、組織学的活動性病変の少ないISN/RPS Class Vでは低値であること、U-PCXは組織学的活動性とは関係なく蛋白尿が多いと上昇すること、U-Pod, U-PCXがISN/RPSの組織型や細胞性半月体形成と関連があることがわかり報告しました7)
縦断研究においては、LN治療開始時のU-Pod, U-PCXが、治療3ヶ月後の蛋白尿寛解と関連があることがわかりました。
上記で、障害されたポドサイトは尿に剥がれ落ち、糸球体あたりのポドサイト数は回復しせず、糸球体硬化へ進展すると書きました。しかし、本当にポドサイトが糸球体から失われた後、糸球体あたりのポドサイト数が回復することはないのでしょうか?この問いに対する明確な答えはまだありません。そこで、もう一つの長期縦断研究として、治療開始5年後の長期腎機能予後と、治療開始後1年間のU-Podの積算値との関連を検討中です。
AAVにおいても、U-Pod、U-PCXを測定し、発表しています。U-Podは、腎障害があるAAV症例で、ない症例より有意に高値でしたが、U-PCXは腎障害の有無では有意差がなく、SLEにおけるU-Pod、U-PCXと役割が異なるようです。
もう一つの尿中バイオマーカー研究として、ラット膜性腎症モデルの原因抗原としてcloningされ8)、ヒトでは、近位尿細管細胞の刷子縁に発現し、薬剤や様々な蛋白の受容体として働き、それらのエンドサイトーシスに関わっているメガリン(Meg)の研究も、群馬大学とデンカ生研との共同研究で進めています。最近、尿中MegとIgA腎症の組織障害や糖尿病性腎症との関連が報告されました9), 10)。我々は、SLE、AAVの腎障害における尿中Megの役割について検討しています。

マウス・ヒト培養ポドサイトを用いた研究

国立国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所の腎疾患セクションのDr. Koppラボで樹立された、マウスやヒトの培養ポドサイトを用いて実験をしています。VprというHIV accessory proteinは、トランスジェニックマウスや患者腎生検標本を用いた検討から、ポドサイト障害を起こし、HIV腎症の原因の一つとされています。私は、Tet-On systemを用いて、目的の遺伝子の発現を誘導することができるマウス培養ポドサイトを樹立しました11)。このポドサイトにVpr geneを導入し、ドキシサイクリンでVpr発現誘導したところ、ポドサイトはCaspase 3,8,9の活性化と共に、細胞死を起こしました。更にこの系を用いて、このVpr cell deathの詳細な機序の解析や、マウス培養ポドサイトのVpr cell deathを抑制する薬剤の検討を行っています。 (文責 梶山 浩

~ Reference ~
3) Drumond et al., Am J Physiol 1994.
4) Kriz et al., Kidney Int 1998.
5) Hara et al., CJASN 2007
6) Hara et al., Diabetologia 2012
7) Ikuma et al., Lupus 2018.
8) Saito et al., PNAS 1994
8) Seki et al., PLoS One 2014
10) De et al,. Diabetes 2017
11) Kajiyama et al., Am J Nephrol 2009

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